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作成: 1999/10/20 山下 貴司

データ番号   :040173
PET用検出器の構造・配置
目的      :ポジトロン核医学診断装置(PET)に用いられる放射線検出器の構成
放射線の種別  :ガンマ線,陽電子
放射線源    :11C(L-Met.:185-1480MBq), 13N(NH3:18-370MBq), 15O(H2O:11-37MBq), 18F(FDG:11-37MBq)
線量(率)   :11C(32μGy/MBq), 13N(13μGy/MBq), 15O(4.3μGy/MBq), 18F(115μGy/MBq)
利用施設名   :放射線医学総合研究所、京都大学医学部など全国に約30ヶ所ある施設
応用分野    :ガン診断、心筋機能診断、脳機能診断、生体機能研究、薬物動態研究

概要      :
 PET (Positron Emission Tomography)では、体内から放出される消滅ガンマ線(511keV)を高速かつ高効率に検出するために、ガンマ線吸収係数の高いシンチレータと光電子増倍管を組み合わせたシンチレーション検出器が用いられる。PET装置の解像力は使用するシンチレータの大きさに左右されるため、各種の小型検出器が開発されてきた。

詳細説明    :
 PETはポジトロン放出核種で標識した化合物を体内に注入して、その体内分布と時間的変化を非侵襲的に測定する画像診断装置である。PET装置では、多数の小型検出器が被験者を囲むように円形状に配置され、同時に複数の断層画像を得られるように多重のリングから構成されている。
 図1にPET装置の各検出器構成を示す。各検出器は、円周上の対向位置にある約1/3の検出器との間で同時計数が行われ、ポジトロン消滅により発生する対向ガンマ線対を検出する。


図1 PETにおける検出器構成

 一般にPETの検出器には、511keV消滅ガンマ線に対して高い検出効率を有するBGO(Bi4Ge3O12)シンチレータ結晶と、BGOからの微弱光パルスを高速かつ高感度に検出する光電子増倍管(PMT)が用いられる。個々のシンチレータ結晶を小型にするほどPETの解像力は向上するが、PMTの小型化に限界があること、小型化にともない検出器性能が低下することなどの問題を解決する必要があった。これまでに図2に示すような各種の検出器方式が提案され、実際にPET装置に用いられてきた。


図2 各種のPET用検出器

 方式を大別すると、シンチレータとPMTを1:1対応で結合する個別結合方式と、多数個のシンチレータと少数個のPMTを結合して各PMT出力比からガンマ線が入射したシンチレータを検出するコーディング方式とに分けられる。
 個別結合方式として代表的なものは、カリフォルニア大学バークレイのS.E.Derenzoらが開発したPET装置Donner600に用いられている検出器で、3 mm幅のBGOリングアレイに多方向から13 mm直径のPMTを結合している。
 コーディング方式はPMTや信号処理回路数の減少による低コスト化が可能であること、PETにおける検出器の多リング化が容易であることなどの特長があるため、最近のPET装置ではコーディング方式の検出器が用いられている。最初にコーディング方式のPET検出器を提案したのは放射線医学総合研究所(放医研)やマサチューセッツ総合病院(MGH)のグループで、放医研の村山らは4個のBGOを2本のPMTに結合するブロック検出器構造を、MGHのC.A.Burnhamらは、BGOアレイをリング状ライトガイド上に並べ、これをPMTアレイで受光する方式を開発した。この後、これを二次元に拡張した各種の方式が提案されてきた。例えば米国CTI社のM.E.Caseyらは8 x 8のBGOアレイを特殊なライトガイドを介して4本のPMTに分配する方法、浜松ホトニクスの内田らは位置検出型PMTにモザイク状のBGOを結合する方法を提案した。こうした検出器の工夫によりPETの解像力は年々向上してきており、市販品では4 mm-5 mm程度、研究用装置では3 mm以下が得られるようになった。
 PETの臨床応用が盛んになるにつれて、短時間に多くの患者を診断するために計測スループットの向上が望まれるようになってきた。これに対応して、軸方向視野の拡大(検出器リング数の増大)、三次元PET方式による検出感度増大が行われてきた。三次元PETは、これまで検出器リング間に設置されていたスライスセプタを取り除き、被験者から放出されるガンマ線を広い立体角で検出し(三次元データ収集)、得られたデータから三次元画像再構成を行うものである。
 図3に従来の二次元データ収集と三次元データ収集のちがいを示す。この方法は古くから研究されているが、英国ハマースミス病院のD.W.Townsendらにより多リング型PETにおいて実用化された。三次元PETでは、背景雑音としてのシングルイベントが増加するために、検出器にはこれまで以上に高計数率特性が要求されるようになった。


図3 2D-PETと3D-PETにおけるデータ収集(検出器リング間の同時計数のちがい)

 PETによるガン診断の有効性が認識され、広く臨床に適用するために、従来の核医学診断機器であるSPECT (Single Photon Emission Computer Tomgraphy)に同時計数回路を付加したPET/SPECT装置が実用されるようになってきた。これは、大型のNaI(Tl)結晶にPMTを二次元アレイ状に結合したシンチレーションカメラを2個対向したもので、低コストで広い視野をカバーできる利点がある。この方式は20年以上前からMuhllehnerらのグループにより研究されていたが、最近になってPETの臨床利用が盛んになるに連れて実用化されるようになった。
 検出器技術の最近の動向としては、シンチレータ中でガンマ線が吸収された深さを検出するDOI (Depth-of-Interaction)検出器の実用化、新しいシンチレータの活用及び半導体検出器の利用などがあげられる。リング型PETの視野周辺や対向型PETの視野中心では、ガンマ線が奥行きの長い検出器に斜め入射して検出位置のずれ(視差誤差: Parallax error)が生じ解像力が劣化する。DOI検出器はこれを改善するために有効な方法である。これまで用いられてきたBGOに比較して、発光量も多く蛍光減衰時間の短いLSO(Lu2(SiO4)O:Ce)を用いた検出器が開発されており、これまでのPMTに替えてAPD(アバランシェ・フォトダイオード)を用いた方式も研究されている。ただし、現在はLSOのコストが高いため大量に検出器を用いる従来方式のPETには適用が難しい。

コメント    :
 PETによるガン診断機能は臨床分野で期待されており、このためコストを下げる方法が重要な課題となっている。現在の大型NaI(Tl)シンチレータを用いたPET/SPECTの方式ではPETとしての性能に限界があるため、新しい検出器方式やPET構成により安価でかつ高性能のPET装置の実現が切望されている。また、PETは生体機能の研究用機器としての価値も高いため、今後、臨床用と研究用に二分化されていくと思われる。

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キーワード:ポジトロン・エミッション・トモグラフィー、消滅ガンマ線、ポジトロン、ガンマ線検出器、シンチレータ、核医学診断、同時計数
PET (positron emission tomography), annihilation gamma-ray, positron, gamma-detector, scintillator, nuclear medicine examination (diagnosis), coincidence counting
分類コード:030301, 030403, 040304

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