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作成: 2000/02/14 鈴木 健訓

データ番号   :040171
3次元画像用ポジトロンイメ-ジングカメラ
目的      :核医学診断
放射線の種別  :陽電子,ガンマ線
放射線源    :陽電子放出放射性同位元素(C-11,N-13,O-15,F-18、40MBq〜200MBq)
利用施設名   :ペンシルバニア大学・医学部
照射条件    :室温、1気圧
応用分野    :核医学画像診断

概要      :
 陽電子(e+)と電子(e-)との消滅ガンマ線を利用したPETは、心臓や脳の血流動態や分布等を知る上で重要な役割を果たしている。従来型PETでは、反対方向に放出された2本の消滅ガンマ線を測定する際に、一層のリングに配置された測定器面に直角に入射したガンマ線のみを選べるようにコリメ-タ-を置いて、2次元の断層画像を作成し、このようなリングをいくつか重ねて3次元画像を得ている。コリメータは斜めに入射するような消滅ガンマ線を排除するために使用され、計数効率を下げているが、コリメ-タを取り外し有効視野を広げて計数効率を高めた3次元画像用デ-タを収集できるPETが製作されている。

詳細説明    :
 陽電子(e+)を放出する放射性同位元素(RI)を含む薬剤(標識化合物)を体内に投与すると、薬剤は血液とともに人体の中を流れる。薬剤から放出される陽電子は、生体中の電子(e-)と相互作用をして消滅し、511keVのエネルギ-を持つ2本の消滅ガンマ線を正反対方向に放出する。PET (Positron Emission Tomography)装置は人体の測定部位(心臓、脳など)を取り囲むように設置され、体内から放出された2本のガンマ線を正反対方向に設置された放射線測定器で同時計測したときに、有効な陽電子消滅の信号としてとらえている。これらの有効信号から、体内のどの部分で消滅したかを求めることができ、画像に再構成することにより、脳や心臓の血流動態や血流分布等を立体的にとらえることができる。PETで使用される陽電子放出核種はC-11、N-13、O-15のように生体を構成する核種であり、生体の機能を鮮明な画像でとらえることができるため、PETは核医学画像診断に広く使われている。
 通常のPETでは、測定器はリング状に配置されており、ガンマ線の方向を限定するために、測定器の前にコリメ-タ(セプタ)が設置されている。コリメ-タはガンマ線が測定器に直角に入射するようにしており、斜めに入射するガンマ線を排除しているため、陽電子消滅の点を画像に構成すると、リングで囲まれた被写体断層面の2次元の画像が得られる。 このような平面の画像を立体的な画像にするために、検出器リングを何層か積み重ねて(多段層検出器リング型 PET)、平面画像を数mm間隔で撮っている。コリメータを用いて平面内の反対方向に設置された測定器で同時計測するガンマ線のみを有効としているため、360度の全方位に放出される消滅ガンマ線の1%も使用しておらず計数効率は非常に低い。計数効率を高め、3次元の画像を得ることを目的として、コリメータを取り外し、斜めに入射するような、消滅ガンマ線をデータとして収集できるPET装置が製作されている。これには、使用するシンチレータの大きさにより次の2種類の型がある。(1)多段層検出器リング型PETのコリメータを単純に取り外した型で2000〜4000個の小さなシンチレ-タ(BGO)を使用。(2)一体の大きなシンチレータ(NaI(Tl))を使用し、多くの光電子増倍管(PMT)をシンチレータの後部に設置して同時計数のデータを取る型。ここでは、(2)の大きなシンチレータを使用したPET装置について説明する。
 1980年代の初頭から、大きなシンチレータを使いコリメータを使わないPETの構想が立てられ、1987年にPENN-PET3次元画像装置(ボリュ-ム・PET・スキャナ-、ボリュ-ム・イメ-ジング・PET)が完成した。これは、(1)多くのBGO結晶と多段層検出リングを使う従来型とは異なる構想のPET、(2)可能な限り効率を追求、(3)3次元データ収集から画像を構築、(4)経済的な装置、という思想を反映したものである。更に、1990年には改良版のUGM-PENN-PET3次元画像装置が作られ核医学診断に使用されている。


図1 PENN-PET scanner. The axial FOV is 12.8 cm for the UGM scanner (left) and 9.0 cm for the prototype scanner (right). The transverse FOV is 50 cm for both scanners. (原論文1より引用。 Reproduced, with permission, from J.S.Karp et al., IEEE Trans. Med. Imaging, vol.12, No.2, 299 (1993), Figure 1 (Data source 1, pp.300), Copyright (1993) by IEEE.)

 UGM-PENN-PET装置は、ヨウ化ナトリウム(NaI(Tl))の結晶(50cm x 20cm x 2.5cm)を6個使用し、被写体を囲むように六角形に組み合わせて使用している。図1に示すように、初期のモデルより有効範囲や許容角度が改善され、軸方向の有効範囲(Field-of-View, FOV)は12.8cm、これを許容する角度は9度である。1個のシンチレータに5cmx5cmの光電子増倍管(PMT)を40個、計240個のPMTを使用しており、最大64スライスの画像を描くことができる。


図2 Schematic diagram of the PENN-PET Camera processing of a coincidence event in the field of view (FOV). Note: Only some of the available channels are depicted for one of the nine possible bank pair coincidences. (原論文2より引用。 Reproduced, with permission, from R.J.Smith et al., IEEE Trans. Med. Imaging, vol.13, No.4, 610 (1994), Figure 1 (Data source 2, pp.611), Copyright (1994) by IEEE.)

 図2にはこの装置の構成を示す。信号は遅延ラインを使い240nsで次の信号を受け付けられるようになっており、高速の計数ができるようになっている。NaI(Tl)の信号は大きいため、エネルギー分解能は10%、位置分解能は5.5mmである。通常のPET装置では0.1〜2kcps/kBq/mLの感度を示すが、PENN-PETでは4kcps/kBq/mLであり、数倍以上の感度を示している。


図3 Transaxial slices reconstructed from the phantom of Fig. 4; (top) using the 2D algorithm, (middle) using the modified 2D algorithm, and (bottom) using a new 3D algorithm. (これは原論文3)のFig. 4のファントムについて測定した図で、ファントム全体の放射能濃度を1.0としたとき、中心軸にある3つの白い部分の放射能濃度は0.5、中心軸上にある1個の黒い部分の放射能濃度は1.5である。) (原論文3より引用。 Reproduced, with permission, from J.G.Rogers et al., IEEE Trans. Nucl. Sci., vol.37, No.2, 789 (1990), Figure 5 (Data source 3, pp.793), Copyright (1990) by IEEE.)

 コリメ-タを取り除いたことにより、高い計数効率が得られ統計精度を上げることが出来るが、一方、画像の精度を悪くするいくつかの問題も発生する。(1)散乱線によるバックグランドが増大し、有効ではない同時計数が得られる。(2)コリメ-タ-が無いため、ガンマ線の方向を決めることが困難。特にガンマ線が斜めにシンチレ-タに入ったときに複雑になる。このような問題を解決するため、多くの補正を考慮した3次元用の画像を構築するプログラムが重要になる。図3は放射線源を模擬したファントムを測定した際に、解析プログラムの違いによりどのような画像が得られるか示している。3次元用プログラムを用いると、ファントムの図が明瞭に描き出されることが分かる。

コメント    :
 計数効率を2倍に上げることが出来れば、計測時間を2分の1に減らしたり、また、人体に投与する放射能濃度を2分の1に減らすことが出来る。従来のPETでは、消滅ガンマ線の99%以上をコリメ-タにより排除しているため、それだけ余分に患者は被曝を受けている。ここで述べた方法は効率を上げるためにコリメ-タを外しており、また、NaI(Tl)シンチレ-タを用いることによる計数効率の向上、取り扱いの簡略さ等多くの利点が上げられる。 今後、一層の技術開発により、このようなボリュ-ムイメ-ジングが将来のPETの主流になる可能性を秘めている。

原論文1 Data source 1:
Effect of increased axial field of view on the performance of a volume PET scanner
J.S.Karp, P.E.Kinahan, G.Muehllener, and P.Countryman
Dept. of Radiology, University of Pennsylvania
IEEE Transactions on Medical Imaging, Vol. 12, No. 2, 299-306 (1993)

原論文2 Data source 2:
The count rate performance of the volume imaging PENN-PET scanner
R.J.Smith, J.S.Karp and G.Muehllehner
Dept. of Radiology, University of Pennsylvania
IEEE Transactions on Medical Imaging, Vol. 13, No. 4, 610-618 (1994)

原論文3 Data source 3:
Toward the design of a positron volume imaging camera
J.G.Rogers, M.Stazyk, R.Harrop, C.J.Dykstra, J.S.Barney, M.S.Atkins and P.E.Kinahan
TRIUMF, Vancouver, Canada
IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 37, No. 2, 789-794 (1990)

原論文4 Data source 4:
Post injection transmission scanning in a volume imaging pet camera
R.J.Smith, J.S.Karp, and G.Muehllehner
Dept. of Radiology, University of Pennsylvania
IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 41, No. 4, 1526-1531 (1994)

参考資料1 Reference 1:
Continuous-slice PENN-PET: a positron tomograph with volume imaging capability
J.S.Karp, G.Muehllehner, D.A.Mankoff, C.E.Ordonez, J.M.Ollinger, M.E.Daube-Witherspoon, A.T.Haigh, and D.J.Beerbohm
Dept. of Radiology, University of Pennsylvania
The Journal of Nuclear Medicine, Vol. 31, No. 5, 617-627 (1990)

参考資料2 Reference 2:
Quantitative measurements of cerebral blood flow in volume imaging PET scanner
R.J.Smith, L.Shao, R.Freifelder, J.S.Karp, and J.D.Ragland
Dept. of Radiology, Dept. of Psychiatry, University of Pennsylvania
IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 42, No. 4, 1018-1023 (1995)

キーワード:陽電子、核医学診断、断層撮影、放射性同位元素、3次元画像用PET
Positron, Nuclear Medicine Examination (Diagnosis), Positron Emission Tomography (Positron Computed Tomography), Radio Isotopes, Volume Imaging PET (3 dimentional Imaging PET)
分類コード:030102, 030301, 040203, 040304

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