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作成: 1999/11/8 鈴木 健訓

データ番号   :040170
飛行時間差を利用したPET(TOF-PET)
目的      :核医学診断
放射線の種別  :陽電子,ガンマ線
放射線源    :陽子加速器(10-50MeV,10-60mA)、重イオン加速器(5-20MeV,10-60mA)、放射性同位元素(50-600MBq)
線量(率)   :0.2-5mGy
利用施設名   :放射線医学総合研究所、東北大学、ワシントン大学、テキサス大学、他
照射条件    :室温、1気圧
応用分野    :核医学画像診断

概要      :
 陽電子(e+)は電子(e-)と相互作用をして消滅し、2本の消滅ガンマ線を正反対方向に放出する。従来型PETでは、2本の消滅ガンマ線を同時に記録した2カ所の測定器を結ぶ直線上で消滅したという情報のみを用いており、消滅地点の詳細な位置は検出できない。TOF-PETでは、2カ所の測定器にたどり着いたガンマ線の時間差から消滅した地点を求めることができ、PETの鮮明な画像を得ることができる。

詳細説明    :
 陽電子(e+)を放出する放射性同位元素(RI)を体内に投与すると、生体中の電子(e-)と相互作用をして陽電子は消滅し、511keVのエネルギ-を持つ2本の消滅ガンマ線が正反対方向に放出される。PET (Positron Emission Tomography)装置は被写体を取り囲むように設置され、体内から放出された2本のガンマ線を放射線測定器で同時計測したときに、有効な陽電子消滅の信号としてとらえる。


図1 BaF2検出器でのTOF計測の例、簡易型TOF-PETの基礎実験(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of author, from M.Yamamoto, Radioisotopes, vol.42, 301 (1993), Figure 5 (Data source 1, pp.303). Copyright (1993) by Japan Radioisotope Association.)

 TOF-PET (Time-of-Flight-PET)では、2本のガンマ線を正反対方向の2個の測定器で同時に計測した際に、2個の測定器から出てくる信号の時間差を求め、飛行時間差とし、消滅した地点を求めることができる。
 図1はPET装置の概念図であり、正反対方向に設置されたシンチレーションカウンターがガンマ線を測定したことを示している。従来型PETは、2個の測定器を結ぶ直線状に消滅地点があることを示すが、TOF-PETでは直線上の特定の区間に消滅地点を絞り込むことができ、より詳細な消滅地点の情報を与える。2個のカウンターに入射したガンマ線が消滅地点よりカウンターまでの飛行に要する時間をT1、T2とすると、 X=0.5×(T2-T1)×C の式から得られるXが測定器間の中間の場所から消滅した地点までの距離を表す。Cはガンマ線が光の速度(3×108m/s)で飛行することを示している。


図2 An example of nine image slices collected simultaneously by TOFPET I of a dog heart. Slice separation is 10.8 mm. (原論文2より引用。 Reproduced, with permission, from N.A.Mullani et al., IEEE Trans. Nucl. Sci., vol.NS-31, No.1, 609 (1984), Figure 3 (Data source 2, pp.610), Copyright (1984) by IEEE.)

 TOF-PETの課題は、シンチレーションカウンターの時間分解能と検出効率にある。従来型では検出効率を高めるためにシンチレータとしてNaI(Tl)やBGOを用いているが、時間分解能は数nsあり、測定地点の位置決め精度としては半値幅で20-30cmになるのでTOF-PETには使用できない。1980年代の初期にはいくつかの施設でCsFシンチレータを使用したTOF-PETを建設している。テキサス大学では、5つのリングにそれぞれ144個のCsFシンチレ-タ(直径18mm、長さ45mm)を使ってTOFPET-Iを建設した。TOFの精度は600±50psであり、これを画像に取り込み陽電子消滅地点の位置を9cmの精度で求めることができた。この装置を使って心臓の動きを画像としたてとらえたのが図2である。図では、犬の心臓を、各瞬間9個の断面でとらえて画像にしている。これらの画像を4秒毎に記録して、時間ともに変化する3次元の心臓の動きをとらえることができた。


図3 Effect of using TOF information in an example of human brain. (原論文3より引用。 Reproduced, with permission of authors, from K.ISHII et al., Rev. Sci. Instrum., vol.61(12), Dec., 3755 (1990), Figure 10 (Data source 3, pp.3761), Copyright (1990) by American Institute of Physics. )

 1980年代後半にはワシントン大学で改良型SP-3000/UW・TOF-PETを建設し、研究や診療に利用している。この装置は、4つのリングにそれぞれ320個のフッ化バリウム(BaF2)シンチレータを使用しており、TOFの精度として540±20psを達成している。日本でも最初のTOF-PETが東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンターで建設された。リングは1層で作られており、このリングの中に16個の測定器群を設け、各群は16個のBaF2シンチレータで構成されている(合計256個のシンチレータ)。TOFの精度としては623psを達成しており、消滅地点の位置決め精度は約9cmであった。この装置を使って求めた人間の脳の画像を図3に示す。TOFの図では脳の周囲にノイズが見られず、TOFを使わない画像より鮮明になっている。
 鮮明なTOF-PETの画像を得るためにはプラスチックシンチレータによるガンマ線の時間差測定精度を高める必要がある。最近のTOF-PETでは、一般にBaF2のシンチレータを用いているが、BaF2の信号取り扱いに困難があり、また、このシンチレータ使用のためには石英窓を持つ高価な光電子増倍管(PMT)を必要とするため、TOF-PETの目的にかなったシンチレータの開発が積極的に行われている。

コメント    :
 TOF-PETは時間差を測定することによって陽電子消滅地点を特定できる特徴を持っているが、シンチレ-タの分解能により時間差測定に限界がある。最近、LSO(cerium activated lutetium orthosilicate, Lu2SiO5:Ce)が開発され、3mm角のシンチレータを用い、時間精度として300psを達成している。このシンチレータは、BaF2より取り扱いが容易であり、TOF-PETの精度を高めるためのシンチレータとして有力な候補と考えられ、今後、鮮明な画像を得ることが期待される。

原論文1 Data source 1:
ポジトロン・エミッション・トモグラフィ  4. タイム・オブ・フライト型PET
山本 幹男
放射線医学総合研究所
Radioisotopes, vol.42, p. 301-314 (1993)

原論文2 Data source 2:
Dynamic imaging with high resolution time-of-flight PET camera - TOFPET I
N.A.Mullani, J.Gaeta, K.Yerian, W.H.Wong, R.K.Hartz, E.A.Philippe, D.Bristow, K.L.Gould
University of Texas Health Science Center, Division of Cardiology
IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. NS-31, No.1, p. 609-613 (1984)

原論文3 Data source 3:
High resolution time-of-flight positron emission tomograph
K.Ishii, H.Orihara, T.Matsuzawa*), D.M.Binkley2*) and R.Nutt2*)
Cyclotron and Radioisotope Center, Tohoku University; *)Research Institute for Tuberculosis and Cancer, Tohoku University; 2*)CTI PET Systems, Inc.
Rev. Sci. Instrum., vol.61, p. 3755-3762 (1990)

原論文4 Data source 4:
Performance measurements of the SP3000/UW time-of-flight positron emission tomograph
T.K.Lewellen, A.N.Bice, R.L.Harrison, M.D.Pencke, J.M.Link
Department of Radiology, University of Washington
IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 35, No. 1, 665-669 (1988)

参考資料1 Reference 1:
Prospects for time-of-flight PET using LSO Scintillator
W.W.Moses and S.E.Derenzo
Lawrence Berkeley National Laboratory, University of California
LBNL-42558(submitted to IEEE transaction on Nuclear Science in March 1999)

参考資料2 Reference 2:
Physical characteristics of TTV03, a new high spatial resolution time-of-flight positron tomograph
B.Mazoyer, R.Trebossen, C.Schoukroun, B.Verrey, A.Syrota, J.Vacher*), P.Lemasson*), O.Monnet*), A.Bouvier* and J.L.Lecomte*)
Service Hospitalier Frederic Joliot, CEA; *)Division LETI, CEA
IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. 37, No. 2, 778-782 (1990)

キーワード:陽電子、飛行時間、核医学診断、ポジトロン断層撮影、放射性同位元素
Positron, Time of Flight, Nuclear Medicine Examination (Diagnosis), Positron Emission Tomography (Positron Computed Tomography), Radio Isotopes
分類コード:030102,030301,040203,040304

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