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作成: 1999/11/26 海老原 寛

データ番号   :040169
医学診断利用のための放射性同位元素
目的      :核医学画像診断用の放射性医薬品
放射線の種別  :ガンマ線,陽電子
放射線源    :放射性同位元素多数
応用分野    :核医学診断

概要      :
 核医学診断用の非密封放射性同位元素は、画像診断のためのトレーサーとして利用される。そのうちシンチカメラやシングルフォトンCTに用いられる単光子放出核の8割は99mTc製剤であり、残りの2割は201Tl,123I,133Xe,67Ga製剤である。ポジトロンCT用の陽電子放出核は、病院内製造のものとして18F,15O,13N,11C、またジェネレーターで供給されるものに62Cu(←62Zn),68Ga(←68Ge),82Rb(←82Sr)などがある。

詳細説明    :
 わが国で1995年度に販売された医療用の非密封RIは約460TBqにのぼり、その80%は99mTcである。99mTc製剤の半分はジェネレーターとして出荷され、残りの半分は標識製剤の注射液である。これ以外の医療用非密封RIとしては201Tl、123I、133Xe、67Ga が主なものであり、それぞれ全出荷量の4〜5%である。これらの他にポジトロンCT用の18F、15O、13N、11Cなどは業者の手を経ず、病院内で自家生産される。これらのRIは全て核医学診断に利用されるものであって、各種の臓器内のRI濃度を体外から計測するのに便利な核種が選ばれている。即ちα線やβ-線放出核は望ましくなく、軌道電子捕獲壊変核や核異性体転移のような弱いγ線を出すものが望ましい。これに対して非密封RIによる治療では、例えば甲状腺癌の131Iによる治療や腹膜炎の198Auコロイドによる治療では、β-線のエネルギーを利用する。本稿では核医学診断のための放射性医薬品について述べる。
 放射性薬剤による診断は種種の臓器の形状はもとより、その臓器の代謝や機能を画像化することによって評価する技術である。放射性薬剤による診断機器は大別して3種ある。 最も単純なものはシンチカメラ(ガンマカメラ、アンガーカメラ)といい、多数の小穴を開けた鉛板(コリメータ)の上に大型のNaI単結晶を置き、その上に多数の光電子増倍管を取付けたものである。
 現在、最も普及している装置はシングルフォトンCT(SPECT)である。これは体軸を軸としてガンマカメラを回転させながら測定するもので、1回転のデータから体軸に垂直な多数の断面像をコンピュータによって再構成させるものである。
 第3の装置は、ポジトロンCT(PET)である。これは、陽電子放出核で標識した薬剤を用いて、臓器から放出される対消滅放射線を測定する。多数の検出器をリング状に取り付け、検体を横切って対向する全ての検出器間の同時計数値から、リング面の断層像をコンピュータによって再構成させる。検出器リングを多数重ねた多層型PETも作られている。
 新しく合成された標識化合物およびそれらを動物実験に用いた論文は多数あるが、ここでは臨床に使われている薬剤について表1にまとめる。

表1 核医学診断用放射性医薬品
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  測定対象                               薬剤名
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心筋血流評価      201Tl-塩化タリウム,99mTc-ピロ燐酸
                  99mTc-2-methoxy-2-isobutylisonitrile,99mTc-tetrofosmin
 
心筋脂肪酸代謝    123I-15-(p-ヨードフェニル)-3(R,S)-メチルペンタデカン酸
 
心臓局所交感神経  123I-メタヨードベンジルグアニジン
 
腎機能            123I-ヨウ化ヒプル酸ナトリウム
                  99mTc-メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン 
 
副腎              123I-6-ヨードメチル-19-ノルコレステロール
 
肝臓              123I-ローズベンガル
 
脳血流・心筋血流  201TlCl,123I-IMP,99mTc-HMPAO,99mTc-ECD
 
悪性腫瘍(全身)    67Ga-クエン酸ガリウム,11C-メチオニン*,18F-FDG*
 
甲状腺            Na123I
 
骨                99mTc-diphosphonate,99mTc-methylene diphosphonate,
                  99mTc-hydroxymethylene diphosphonate,99mTc-pyro-
                  phosphate,Na18F*
 
骨髄              52Fe-クエン酸,52FeCl3
 
肺血流・換気      99mTc-macroaggregated albumine,99mTc-コロイド,
                  99mTc-human albmine microshere,133Xe,81mKrガス
                  C15O2*,C15O*,13N2*,11CO*,43K+,77Kr
                  13N-L-グルタミン酸
 
脳・神経系        99mTcO4-,99mTc-DTPA,99mTc-リン酸塩,201TlCl,
                  67Ga-クエン酸ガリウム,111In-ジエチレントリアミン-
                  五酢酸インジウム,18F-FDG*,11C-Ro15-1788*,
                  11C-Ro15-4513*,11C-イオマゼニル*,11C-PK11195*
                  11C-McN5652X*,11C-シアノイミプラミン*,11C-NMPB*
                  11C-DMPEA*,11CMMBA*,11C-SCH23390*,
                  11C-Mp4A*,11C-N-メチルスピペロン*
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*印はPET用の薬剤
心筋血流状態の評価のために従来から201Tl-塩化タリウムや99mTc-ピロ燐酸が用いられてきたが、最近は99mTc -2- methoxy -2- isobutyl isonitrileや99mTc -tetrofosminも使われている。心筋脂肪酸代謝を評価するには123I-15-(p-ヨードフェニル) -3(R,S) -メチルペンタデカン酸が使われる。また123I-メタヨードベンジルグアニジンは心臓局所交感神経分布および機能を画像化できる。腎機能の動態検査用薬剤として131I-ヨウ化ヒプル酸ナトリウムが汎用されてきたが、最近は99mTc-メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシンも使われる。
 脳血流および心筋のSPECTには201TlClのほか123I-IMP、99mTc-HMPAO、99mTc-ECDが使われており、局所脳血流量から脳血管性病変の位置がわかり、また冠動脈の病変部位が詳細に診断できる。悪性腫瘍の転移巣の全身撮影には67Ga-クエン酸、骨の撮像には99mTc-燐酸塩が用いられる。
 肺の血流・換気・吸入の測定には99mTc-MAA (macroaggregated albumine), 99mTc-HAM (human albmine microsphere), 99mTcコロイドおよび133Xe, 81mKrガスが使われる。またPET測定によってC15O2, C15O, 13N2, 11COなども呼吸器系に応用できる。脳・神経系の診断には99mTcO4-, 99mTc-DTPA, 99mTc-燐酸塩, 201TlCl, 67Ga-クエン酸ガリウム, 111In-DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸インジウム)などが使われてきたが、これらの核はオージェ電子による被曝が多いので、近年は18F-FDG(18F-2-フルオロ-2-デオキシグルコース)を用いたPET診断が画期的成果をあげている。
 原論文1)と3)は総説であり、原論文2はテキサス大学で利用されている陽電子放出核標識医薬品の製造法について述べてあり、原論文4は[2-11C] 5,5-dimetyl -2, 4-oxazolidinedioneの合成法、原論文5は67Gaと錯体を作るBP-IDA (4,5,6,7 -tetrabromo -o-cresolphthalein -3'-methyliminodiacetic acid)の合成法を詳述している。

コメント    :
 放射性同位元素を人体に投与して体外から測定するには、光子エネルギーがガンマカメラによる測定に適していること、および半減期が適当(薬剤合成に必要な時間、大量投与による被曝)であることが必要であるので、利用できる核種は限られてくる。現在医療用RIの8割が99mTcであるのもこれらの条件を満たすからであり、そのために多種類の99mTc標識製剤の開発がなされている。また従来から使われてきた201Tlや123I標識薬剤と同じ機能を持つ99mTc標識製剤を合成する研究も進められている。
 しかし、Tcは人工元素であり、生体や生理活性物質の構成元素ではないので、生体内でRIが薬剤から分離してしまったり、本来の薬剤とは別な生理作用をすることがある。これに対してPET用の陽電子放出核のうち11C, 13N, 15Oは生体物質の構成元素であり、18Fは糖類などのOH基と等電子配置なのでOHをFで置換しても生体内の挙動はほとんど変わらない。これらの放射性薬剤を用いることで、生化学的、薬理学的により自然な状態での機能検査が可能になる。今後は99mTcで標識した新薬の開発とともに、陽電子放出核標識の薬剤の開発にも力を注ぐことになろう。

原論文1 Data source 1:
放射線防護用設備・機器の利用 1: 最近の非密封RIの変遷とその特性
村田 雄二
東京医科歯科大学
Isotope News, No. 525, p. 36-39 (1998)

原論文2 Data source 2:
Rapid Production of Positron Emitting Labeled Compounds for Use in Cardiology PET Studies.
L.Bolomey
University of Texas Health Science Center,Houseton, Texas 77030, USA
Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., B10/11, p. 969-971 (1985)

原論文3 Data source 3:
Radiopharmaceuticals for in Vivo Diagnosis - Current Topics and Future Prospects.
P.H.Cox
Rotterdam Radio-Therapeutic Institute, Dept.of Nuclear Medicine, Rotterdam, The Netherlands
NATO ASI Series E, Applied Sciences, No. 119, p. 569-574 (1987)

原論文4 Data source 4:
Synthesis of [2-11C] 5,5-Dimethyl-2,4-Oxazolidinedione with and without added Dimethyl Carbonate as a Carrier for Studies with Positron Tomography.
J.Z.Ginos
Cotzias Laboratory of Neuro-Oncology, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, 1275 York Avenue, New York, NY 10021, U.S.A.
Int. J. Appl. Radiat. Isot., Vol. 36, p. 793-802 (1985)

原論文5 Data source 5:
A Ga-68-Labeled Tetrabromophthalein (Ga-68 BP-IDA) for Positron Imaging of Hepatobiliary Function: Concice Communication
J.Schuhmacher, R.Matys, H.Hauser, J.H.Clorius and W.Maier-Borst
Institute of Nuclear Medicine, German Cancer Research Center, Heidelberg, FRG
J. Nucl. Med., Vol. 24, p. 593-602 (1983)

キーワード:核医学診断、画像診断、単光子放出核、陽電子放出核、放射性医薬品
nuclear medical diagnosis, imaging, single photon emitter, positron emitter, radiopharmaceuticals
分類コード:030102, 030301, 030502

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