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作成: 2000/01/11 佐々木 基仁

データ番号   :040167
加速器を用いたPET用陽電子放出核種の製造とオンライン利用
目的      :PET用陽電子放出核種の製造方法とその利用
放射線の種別  :陽電子,ガンマ線,陽子,軽イオン
放射線源    :サイクロトロン(陽子 18MeV, 100μA; 重陽子 10MeV, 100μA)
利用施設名   :ペンシルバニア大学、マックギル大学、ワシントン大学、オルセイ病院、ブルックヘブン国立研究所; 放射線医学総合研究所、東北大学サイクロトロンRIセンター、京都大学病院、秋田脳血管研究センター、群馬大学病院、九州大学病院、千葉大学病院、東京大学病院、名古屋市総合リハビリテーションセンター、名古屋大学病院、東京都老人総合研究所、国立循環器病センター、仁科記念サイクロトロンセンター、大阪市立大学病院、生体機能研究所、兵庫県高齢者脳機能研究センター、国立精神神経センター、福井医科大学、長寿医療研究センター、大阪大学病院、国際医療センター、北海道大学病院、滋賀県成人病センター
照射条件    :窒素ガス、ネオンガス、水
応用分野    :ガン診断、脳機能診断、心機能診断、薬理学的研究、放射化学

概要      :
 現在、核医学の分野で11C, 13N, 15O, 18FのPET用陽電子放出核種が広く利用されている。これら核種は、病院内等に設置可能な小型サイクロトロンで製造され、その化学形により適当な分離精製、合成工程を経て放射性診断薬剤として利用される。

詳細説明    :
 核医学分野での陽電子(ポジトロン)放出核種の利用は、PET (positron emission tomography)用放射性診断薬剤として、1970年代から今日に至るまで広く普及している。現在、利用されている陽電子放出核種には、11C, 13N, 15O, 18Fがある。それらの特徴は、病院内に設置できる程度の小型サイクロトロンを用いて製造が可能であり、半減期が短く(15O:2分、13N:10分、11C:20分、18F:110分)、主要生体構成元素である事である。
 陽電子放出核種の製造方法は、ターゲット物質を、その性状及び後工程を考慮したターゲット容器に格納され、小型サイクロトロンで加速された陽子(18MeV程度)、重陽子(10MeV程度)を照射することによる核反応を利用して陽電子放出核種を製造する。製造された陽電子放出核種の性状は、「ガス状」「液体状」「固体状」に分別することが出来るが、輸送経路や後工程を考慮すると「ガス状」、「液体状」の物にほぼ限定されている。「ガス状」、「液体状」共にテフロン製やステンレス製のチューブを介して目的の場所(鉛遮蔽セル等)に移送される。移送された陽電子放出核種は、利用しやすいように分離精製工程を経て目的の薬剤に標識合成される。それら化合物(薬剤)は、体内投与され陽電子が消滅するときに511keVの放射線を180度方向に同時に2本放出するため、外部よりPETカメラを用いて同時計数を行うことにより体外計測し、コンピュータ処理を経て断面画像を得ることが可能である。
 次に、それぞれ核種の製造法及び利用法の詳細を示す。
(1)11Cの製造方法
 ターゲットにN2ガスを用いて、14N(p,α)11C反応を利用する方法で「気体状」の11CO2等として利用される。これらは、空気と混ぜて人体に直接吸入させる事が行われている。一方、ガス状の11C(11CO2, 11CO)をより複雑な化合物の前駆体として広く利用されている。
(2)13Nの製造方法
 CO2ガスをターゲットして12C(d,n)13N反応を利用して製造する方法と、H2O(液体状)をターゲットとして16O(p,α)13N反応を利用する方法とがある。後者が一般的であり、「液体状」の13NOx水溶液から還元工程を経て13NH4として主に利用される。
(3)15Oの製造方法
 N2ガスをターゲットとして14N(d,n)15Oを利用するのが一般的である。陽子専用のサイクロトロンの場合には、濃縮された15N2ガスをターゲットとして15N(p,n)15O反応を利用することが出来る。これらは、15O2、C15O2、C15Oの「ガス状」標識化合物として空気と混ぜて人体に直接吸入させる事が行われている。また、還元処理後H215Oとして「液体状」標識化合物として人体に投与される。
(4)18Fの製造方法
 Neガスをターゲットして20Ne(d,α)18F反応を利用する方法と、同位体濃縮されたH218O(液体状)をターゲットとして18O(p,n)18F反応を利用する方法とがある。18F-からの18FDGの大量合成が可能になって以降、ターゲット物質が高価であるが後者が一般的になってきている。
 最後に、これら陽電子放出核種により標識された代表的なPET用放射性化合物(薬剤)の測定対象別一覧を表1に示した。

表1 PET用放射性診断薬剤一覧
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  測定対象         PET用放射性診断薬剤
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神経伝達機能
 ドーパミンD1      11C-SCH23390 11C-SCH39166
 ドーパミンD2      11C-ラクロプライド 11C-N-メチルスピペロン
 アセチルコリン     11C-NMPB 11C-ニコチン
 ベンゾジアゼピン    11C-Ro15-1788 11C-Ro15-4513
循環代謝機能
 糖代謝         18F-デオキシグルコース 18F-デオキシガラクトース
 アミノ酸代謝      11C-メチオニン 18F-ドーパ 18F-タイロシン 
             18F-α-メチルタイロシン 18F-フェニルアラニン
 脂肪酸代謝       11C-,18F-パルミチン酸 11C-βメチルヘプタデカン酸
 血液循環        15O-水 11C-,15O-一酸化炭素 11C-,15O-二酸化炭素 13N-アンモニア
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コメント    :
 近年、特にアメリカにおいてPETの普及が急である。その要因として18FDG-PETの保険適用があり、日本国内に於いても保険適用に向けての動きが急であり今後、更に普及促進されていく物と考えられる。

原論文1 Data source 1:
医療用サイクロトロン
藤居 一男
住友重機械工業
放射線医学大系, 特別巻,6 ポジトロンCT, p. 53-71, 中山書店 (1989)

原論文2 Data source 2:
放医研における短半減期放射薬剤の製造
鈴木 和年
放射線医学総合研究所
放射線科学, Vol. 39, No. 3, p. 86-93 (1996)

原論文3 Data source 3:
短寿命ラジオアイソトープの製造とその医学利用
鈴木 和年
放射線医学総合研究所
日本分析センター広報, JCAC, No. 30, p. 48-56 (1997)

原論文4 Data source 4:
ポジトロン核医学とポジトロン標識薬剤
山崎 俊四郎、入江 俊章、舘野 之男、宍戸 文男
放射線医学総合研究所
日本薬剤師会雑誌, 第34巻, 第9号, p. 829-838 (1982)

キーワード:ポジトロン断層撮影、サイクロトロン、ポジトロン放出核種、放射性医薬品、放射性同位元素
PET, cyclotoron, positron emitter, radiopharmaceuticals, radioisotops
分類コード:030301, 030501, 030502

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