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作成: 2000/1/8 山内良麿

データ番号   :040161
(γ,n) 反応によるRI中性子源
目的      :(γ,n) 反応による中性子の発生とその応用
放射線の種別  :ガンマ線,中性子
利用施設名   :ケンブリッジ大学キャベンディシュ研究所、オーストラリア国立大学
照射条件    :大気中

概要      :
(γ,n)反応によるRI中性子源には、2H(γ,n) 反応と9Be(γ,n) 反応に基づく中性子源がある。発生する中性子のエネルギーはガンマ線のエネルギーに依存するので、用途に応じて反応のしきい値 (thresholds) 以上のエネルギーを持つRIガンマ線源を選んで中性子を発生させる。ここでは反応の断面積、RIガンマ線源の特徴等を含む(γ,n)反応によるRI中性子源の特性について述べる。

詳細説明    :
 (γ,n)反応によるRI中性子源では、RIガンマ線源からのガンマ線がターゲット物質の原子核に吸収され、光分解によって中性子が放出される。この光分解のターゲット物質は、その反応のしきい値の低さの観点から、ベリリウムと重水に限られる。実際には重水またはベリリウムによって囲まれた色々なガンマ線源が光分解に基づき、25keVから1000keVのエネルギーを持つ中性子を発生させる。この(γ,n) 反応によるRI中性子源については、イリノイ大学のA.O. Hanson がレビユーを行っている。
 重水素をターゲットとする反応は、2H+γ→1H+n-2.226MeV と記述され、この反応のしきい値は 2.226MeV である。中性子のエネルギーはガンマ線のエネルギーE、反応のQ値Q、ターゲットの質量数A、入射ガンマ線に対する中性子の実験室系での放出角度Ψから、次のように計算することができる。En=[(A-1)/A]{E-Q-E2/[2(A-1)931]}+(E/A){[2(A-1)/(931A)](E-Q)}1/2cosΨ. エネルギーの広がりはcosΨの係数によって与えられる。重水素に対して2.62MeVのガンマ線を入射させる場合は、En=196+27cosΨ keVとなる。実際の中性子源ではガンマ線源が重水で囲まれているので、重水からの中性子の散乱が起こり、これがかなりのエネルギーの広がりを引き起こす。2H(γ,n)反応の断面積については、ケンブリッジ大学のC.A. Barnesらが、ガンマ線エネルギー4.45-17.6MeVの範囲の6エネルギー点で測定を行っている。表1に、ガンマ線エネルギーと対応する反応断面積を示す。これより低いガンマ線エネルギーでの反応断面積はA.O.Hansonのレビユーによれば、ガンマ線エネルギー2.504, 2.618 及び2.757MeVに対して、それぞれ11.9x10-28cm2, 13.9x10-28cm2 及び15.9x10-28cm2である。

表1 Gamma-ray energies and deuteron photodisintegration cross sections.(原論文2より引用)
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Reaction        Gamma-ray     Cross section
               energy (Mev)    (×10-28 cm2)
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N15(p,α)C12*    4.45±0.04     24.3±1.7
F19(p,α)O16*    6.14±0.01     21.9±1.0
Be9(p,γ)B10     7.39±0.15     18.4±1.5
C13(p,γ)N14     8.14±0.08     18.0±1.3
B11(p,γ)C12*   12.50±0.21     10.4±1.0
Li7(p,γ)Be8    17.6 ±0.2       7.7±0.9
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 ベリリウムをターゲットとする反応過程は、9Be+γ→8Be+n-1.666MeV で表され、反応のしきい値は 1.666MeV である。8Beは次のような反応 8Be→24He+0.094MeV に従って、2個のα粒子に崩壊する。高いエネルギーのガンマ線に対しては8Beの2.9MeV励起状態、あるいはそれ以上の励起状態を経由した反応が起こる。6.1MeVのガンマ線による実験では、反応の20%が直接8Beの基底状態へ進み、また45%が2.9MeV励起状態を経由し、残りは 9Be+γ→4He+5He-2.57MeV という反応過程を取る。これらの反応過程はそれぞれ異なった中性子スペクトルをもたらす。オーストラリア国立大学のR.D.Edgeはガンマ線エネルギー2.61-8.1MeVの範囲で9Be(γ,n)反応の断面積を測定した。
 図1はガンマ線エネルギーに対して、9Be(γ,n) 反応の全断面積をプロットしたものである。この反応で放出される中性子のエネルギーは2.62MeVのガンマ線に対しては848keVである。(γ,n) 反応には反応のしきい値以上のエネルギーを持つガンマ線が必要になるが、88Y(104d, 1.853MeV), 124Sb(60d, 1.69MeV), 228Ra(6.7y, 2.62MeV) 等は半減期が比較的長く、光分解のガンマ線源として利用される。括弧内の数値は半減期とガンマ線エネルギーを表す。24Naと124Sbからの実際のガンマ線出力は、それぞれ1.9と1.5rhm/curie (roentgens per hour at a meter per curie) である。中性子源の強度としては、内半径1cmの球内に1 rhmの24Naを置いて、これを厚さ1cmのベリリウムで囲んだ時の全中性子発生量は2x106 個になる。


図1 Experimental and theoretical results at low and intermediate energies for the photoneutron cross section for Be9. The curve follows the theory of Guth and Mullin. The points have been obtained experimentally. (原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Phys., Vol.2, 485 (1956/57), R.D.Edge: The (γ,n) Reaction in Be9 at Intermediate Energies, Figure 2 (Data source 3, pp.491), Copyright (1956), with permission from Elsevier Science.)



コメント    :
 光分解によるRI中性子源は、加速器を用いることなく1000keV 以下の低いエネルギーの中性子を発生させることができる中性子源である。特に124Sb-γ-Be 中性子源からは31keVの低エネルギー中性子が得られ、炉物理実験に役立っている。利用に際しては、使用するRIガンマ線源の中には半減期の短いものがあること、強力なガンマ線を伴う中性子源であるこ、強いガンマ線源を使用するので、取り扱いの際の困難さと危険性があることには十分注意が必要である。

原論文1 Data source 1:
Radioactive Neutron Source
A.O.Hanson
University of Illinois, Urbana, Illinois, U.S.A.
Fast Neutron Physics Part 1, edited by J.B.Marion and J.L.Fowler (Interscience Publishers, Inc. New York, 1960) Chap., I.A, p. 3-48

原論文2 Data source 2:
The Photodisintegration of the Deuteron at Intermediate Energies.
C.A.Barnes, J.H.Carver, G.H.Stafford and D.H.Wilkinson
Cavendish Laboratory, University of Cambridge, Cambridge, England
Physical Review, Vol. 86 (1952) p. 359-372

原論文3 Data source 3:
The (γ,n) Reaction in Be9 at Intermediate Energies
R.D.Edge
Research School of Physical Science, Australian National University, Canberra
Nuclear Physics, vol.2 (1956/57) p. 485-495

キーワード:(γ,n) 反応、RI中性子源、光分解、重水素、ベリリウム、全中性子発生量
(γ,n) reaction, RI neutron source, photodisintegration, deuterium, beryllium, total neutron yield
分類コード:040204, 040205, 040301

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