放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/10/21 伊藤 泰男

データ番号   :040157
RI注入による陽電子線源作製
目的      :陽電子消滅測定における線源成分を避け或いは高温における線源の揮発を避けて測定する方法
放射線の種別  :陽電子,軽イオン
放射線源    :22Na
フルエンス(率):(放射能) 〜105 Bq
線量(率)   :1x10-11cGy/(n・cm2)
利用施設名   :CERN ISOLDE、日本原子力研究所高崎研究所AVFサイクロトロン
応用分野    :金属・半導体などの陽電子寿命測定で特に線源成分を避けたい場合、熱空孔生成など高温現象の陽電子消滅測定、溶液等の陽電子寿命測定で安定な陽電子源として利用

概要      :
 陽電子源を試料内に直接埋め込むために、22Naをインプラントするか、イオン照射して試料内で核反応を起こさせる方法がある。後者の方法は試料がSiに限定されるが、Si内に実用的なレベルの陽電子源を生成させることができる。試料中に陽電子源を生成させることが出来ない場合には、薄い金属箔に22Naをインプラントして、繰り返し使用が可能で、高温でも使え、かつ線源成分の小さな線源を作ることが出来る。

詳細説明    :
 陽電子寿命では通常2つの同一の試料で陽電子源(22Na)をサンドイッチ状に挟んで測定することが多い。この方法では陽電子源を包む箔(3μ厚さのニッケル、7μ厚さのカプトンなどが多用される)での陽電子の消滅の割合が10%程度にもなる。陽電子源を箔で包まずに直接試料に付着させるとこの成分を減らすことが出来るが、その場合でも試料表面や22NaCl、22Na2CO3の結晶粒内で陽電子が消滅する成分が1%程度以下ではあるが存在すする。
 このような成分は " 線源成分 " と呼ばれる。高分子材料のように試料中の陽電子寿命が長い試料では,線源成分はあまり邪魔にならないが、金属や半導体のように陽電子寿命が短い試料では線源成分が欠陥やマイクロボイドの成分と重なるので好ましくない。さらに,陽電子源を付着させた試料をアニーリングなどの目的で600℃程度以上に加熱すると22Naが揮発・拡散して汚染が起こるだけでなく,結果的に線源成分が増大する。
線源成分を避けるために、金属では陽電子源を試料中に埋め込み電子ビーム溶接する方法が用いられる場合もあるが、Siのようにこのような方法を採用できない材料もある。その解決法の一つは、22Naを試料にインプラントすることである。この場合、22NaClをイオン化しイオン分離器(アイソトープセパレータ)で分離して試料に注入する。この方法を用いた研究結果が報告されているが、イオン源が汚染するだけでなく22Naは使い捨てになるので経済的でない。イオンビームをSiに照射して核反応で試料中に22Naを生成させる方法も試みられている。
 ここで用いられる核反応は 28Si(p,7Be)22Na なので対象となる試料はSiを主成分とするものに限られる。日本原子力研究所高碕研究所における経験では、70MeV 1μA のプロトンビームを11時間照射してSi試料のほぼ10mmの深さにまでわたって厚み1mmあたり約200kBqの22Naがほぼ均一に生成する。この方法では陽電子源を試料中に均一に生成させることが出来るが、イオンビームを照射するので照射欠陥も同時に持ち込まれること、22Na以外の核反応生成物(例えば7Be)もインプラントされることなどに注意しなければならない。


図1 The induced activity of 22Na in the slab after irradiation of 45 MeV and 70 MeV protons.(原論文1より引用)

 22Na を0.5-1μの薄い金属箔(Al, Ni, Pt)にインプラントして繰り返し使える陽電子源を作る方法も試みられている。アイソトープセパレータ(ISOLDE)の中で22NaClをイオン化して金属箔に入射させ、22%の効率で金属箔にインプラントされた。インプラントされる面積は1mm2程度と小さい。インプラント深さはPtに対して33nmと極めて浅いので、熱アニーリングするとインプラントされた22Naの87%が放出されるが、残りの13%は安定に保持されて高温でも放出されない。この線源は試料と一緒に高温で熱処理しても安定に何度も使えるという利点がある。常温・低温測定用ならば、22Naがインプラントされたままの強度の高い線源をそのまま使える。この線源は、液体を試料とする場合に有効である。このような線源では線源成分は皆無ではないが、通常に比べれば非常に少ないことも大きな利点である。

コメント    :
 22Naを試料に埋め込む方法では、イオンインプランテーションによるにせよ、核反応によるにせよ、試料に欠陥が導入されたり、高温にすると22Naが表面に拡散して揮発するなどの問題が避けられない。22Naを薄い金属にインプラントして繰り返し使用可能な線源とする方法では線源成分の問題が残るが、22NaClをカプトンやNi箔に包み込む通常の方法に比べれば線源成分の大きさは格段に小さい。イオンセパレータを用いてラジオアイソトープを薄膜にインプラントする技術は装置が汚染する問題もあって通常の実験室では無理が多いので、特定の事業所で多数生産して流通させることが出来れば効果的であろう。

原論文1 Data source 1:
陽電子内部線源法による半導体格子欠陥の研究
長谷川 雅幸、末澤 正志、河裾 厚男、益野 真一、岡田 漱平
東北大学金属材料研究所、日本原子力研究所高碕研究所
原研施設利用共同研究・平成8年度成果報告書 (1997, 東大・原子力研究総合セン
ター発行, p.313-316)

原論文2 Data source 2:
Sources for Positron Lifetime Spectroscopy Produced by Ion Implantation of 22Na
J.R.Poulsen, M.Eldrup, J.Lettry, The Isolde Collaboration
Materials Department, Riso National Laboratory, DK-4000 Roskilde, Denmark. CERN, CH-1211 Geneva 23, Switzerland
Nuclear Instruments and Methods in Physics Researc, B95 p.260-264 (1995)

キーワード:内部線源、イオンインプランテーション、線源成分、熱空孔
internal source, ion implantation, source component, thermal vacancy
分類コード:040101,040203,040503

放射線利用技術データベースのメインページへ