放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1999/01/09 伊藤 泰男

データ番号   :040156
RI陽電子利用機器
目的      :RI陽電子源を用いた測定機器
放射線の種別  :陽電子
放射線源    :22Na
フルエンス(率):(放射能) (107-109) Bq
利用施設名   :NASA Langley Research Center, 他
応用分野    :欠陥プロファイリング、表面近傍の構造ゆらぎ、薄膜界面研究

概要      :
 RI陽電子源を用いて、一定の目的を持った単体の分析装置として開発されているものは少ないが、陽電子消滅の寿命測定用、ドップラー幅測定用装置は市販品を組み合わせて簡単に作成できる。低速陽電子ビーム装置は利用上の名称は異なっても、ビーム技術は共通である。これらに加えて、特別な工夫がされていることもあるので、それを紹介する。

詳細説明    :
 RI陽電子源を用いる機器としては陽電子消滅の寿命測定、ドップラー幅測定、二光子角相関が標準的である。これらはガンマ線検出器やエレクトロニクスモジュールなどを個別に購入して組み立てることが普通であるが、最近 EG & G Ortec社から単体として完成された陽電子寿命測定装置が市販されている。
 また、低速陽電子ビーム発生装置は、利用の側からは、(陽電子による)「表面分析装置」、「表面・表面近傍解析装置」、「テーブルトップ低速陽電子装置」などという名前で発表されているが、低速陽電子発生部分の原理と技術は共通である(要素データ040132参照)。
 装置の例を図1に示す。


図1 Cross section of the compact, magnetically guided slow positron beam. Enlarged views of the source-moderator and the target region. (原論文3より引用)

RI陽電子源から出てくる陽電子は、数百keVまでにわたる連続エネルギーを持っているので、密度1g/cm3の物質では1mm近くまで陽電子が到達する。従って、試料はこの到達深さの程度に十分厚い必要があり、高分子膜などを試料とする場合には同じ膜を何枚も重ねて厚さを作るのが通常である。このようなことが出来ない場合は、パルス化された低速陽電子ビームを用いると良いが、これは高価でかつ技術的にも簡単ではない。薄い高分子膜の陽電子寿命測定を簡便に行う工夫が試みられた。これは図2に示すように、薄いアルミニウム蒸着マイラーに22Naを包み込んだ陽電子源、その外側に試料の高分子膜、更に外側にタングステン減速体をサンドイッチ状に配置して、陽電子源とタングステンに正または負の電圧(10-100V)をかけて、正バイアスでの寿命スペクトルと負バイアスでのそれとを差し引いて、高分子膜中での陽電子消滅の成分のみを取り出そうとする。この方法で高分子膜中での陽電子消滅の割合は2%程度と報告されている。


図2 Schematic diagram of the moderator-source assembly.(原論文4より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.B53 (1991) 342-348, J.J.Singh, A.Eftekhari, T.S.Clair: Low energy Positron Flux Generator for Lifetime Studies in Thin Films, Figure 1 (Data source 4, pp.343), Copyright (1991), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)



コメント    :
 図2の方法は一般的には推奨出来ない。差し引かれる成分の中には試料フィルム内に停まった陽電子の消滅成分もあること、差し引きで残った成分は電場によって影響を受ける低エネルギーの陽電子だけであり、従って試料表面のみを測定していること、試料に大きな電場勾配がかかることになるが、ポジトロニウム形成確率に対する電場の効果があること、などいくつかの注意が必要である。

原論文1 Data source 1:
単一エネルギー低速陽電子を用いた表面解析装置
上殿明良、谷川庄一郎
筑波大学物質工学系
Radioisotopes, 37, 217-220 (1988)

原論文2 Data source 2:
新日本製鉄のエネルギー可変陽電子表面分析装置
藤波真紀
新日本製鉄先端技術研究所
放射線, 18-2, 55-61 (1992)

原論文3 Data source 3:
Table Top Slow Positron Apparatus
I.Kanazawa, M.Hirose, Y.Ito and S.Takamura
Tokyo Gakugei University, Tokyo 184, Japan. The University of Tokyo, Ibaraki 319-11, Japan. JAERI, Ibaraki 319-11, Japan
Int. conf. on Evolution in Beam Applications (Nov. 5-8, 1991, Takasaki)

原論文4 Data source 4:
Low energy Positron Flux Generator for Lifetime Studies in Thin Films
J.J.Singh, A.Eftekhari and T.S.Clair
NASA Langley Research Center, Hampton, VA 23665, USA. Analytical Services and Materials, Inc., Hampton, VA 23665, USA
Nucl. Instrum. Meth. Phys. Res., B53 (1991) 342-348

キーワード:陽電子ビーム、低速陽電子、高分子膜、
positron beam,slow positrons,polymer films
分類コード:040203

放射線利用技術データベースのメインページへ