放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/10/19 井上 貴通

データ番号   :040148
重イオンビームによる弾性反跳粒子検出法(ERDA)
目的      :重イオンビームによる軽、重元素の同定
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :タンデム加速器(3MV)、タンデム加速器(16MV)
フルエンス(率):1011/cm2
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所タンデム加速器、ミュンヘン大学タンデム加速器
照射条件    :真空中
応用分野    :電子機能材料、半導体工業、光学材料

概要      :
 ERDA (Elastic Recoil Detection Analysis)は元来Heイオンビームを用いたH検出法から発展した。しかしながら、重イオンビームを用いることによって、 ERDAは薄膜分析において、Hを含む軽元素と重元素を同時に、ほとんど一定の感度で分析できる一般的な方法になった。

詳細説明    :
 高エネルギー重イオンを入射粒子として用いることによって、弾性反跳粒子検出法(ERDA)は、深さ分解能と検出効率が向上した。そのため、ERDAは、以前までH,He元素分析中心に行われていたが、B,Cなどの元素分析に応用できるようになった。
 ERDA法の特徴は、検出器前方に薄い吸収フォイルを置くことにより、反跳粒子を分離できることである。この吸収フォイルは、前方に散乱した入射イオンと重い反跳粒子を止めることができる程度には十分厚く、軽い反跳粒子を透過する程度には十分薄い。また、吸収フォイルによる反跳粒子の分離方法の利点は、簡単な実験装置でたいていの研究に応用できることである。
 ERDAに入射粒子としてHeを用いると、ターゲット中の異なる構成元素によって生じるスペクトルの重なりが分離できない。入射粒子として Heの代わりに重イオンを用いると、深さ分解能と質量分離能力が向上し、スペクトルの重なりは分離される。また、ターゲット中に入射粒子より重い元素が存在する場合、ERDAの代わりにラザフォード後方散乱分光法(RBS)が適用できる。
 P.Goppelt-Langerらは、16MeV酸素イオンを使って、RBSとERDAスペクトルを同時に測定した。P.Goppelt-Langerらの使用したRBSとERDAの実験装置を図1に示す。


図1 Experimental setup for RBS and ERD using high energetic heavy ions.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.B118 (1996) 251-255, P.Goppelt-Langer, S.Yamamoto, Y.Aoki, H.Takeshita, H.Naramoto: Light and heavy element profiling using heavy ion beams, Figure 1 (Data source 1, pp.252), Copyright (1996), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

この実験で深さ分解能を決定する要素として、エネルギーストラグリング、試料中と吸収フォイル中における入射粒子と反跳粒子の多重散乱、検出器の大きさとビームエミッタンスのために生ずる運動学的広がりが挙げられる。実験的なパラメーターは吸収フォイルの厚さであり、吸収フォイルの厚さは表面における深さ分解能に関係する。
 そのため、彼らは吸収フォイルによる反跳粒子の分離方法を研究した。表面にカーボン層を持ち、H, D, He,のような軽元素を含む鉄基板上のボロン層の分析実験で入射粒子として16MeV O、吸収フォイルとして12.5μmのマイラーを使った 実験結果を示す。


図2 ERD spectrum of thin B layer on an iron substrate containing H,D,He, and C at the surface. The incident beam was 16 MeV 16O and the absorber foil was 12.5μm Mylar. α=15゜,ψ=30゜. See also Figs. 3 and 4 and Table 1.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.B118 (1996) 251-255, P.Goppelt-Langer, S.Yamamoto, Y.Aoki, H.Takeshita, H.Naramoto: Light and heavy element profiling using heavy ion beams, Figure 2 (Data source 1, pp.254), Copyright(1996), with permission from Elsevier Science, Oxford, England. )

Dのスペクトルは、ボロンのスペクトルと分離しているが、Hのスペクトルはボロンのスペクトルに重なる。高エネルギーに現れるHeは、このスペクトル上には現れない。2MeV 4Heを使った通常のERDAと比較して約3倍に深さ分解能が増加した。また、入射粒子を30MeV Ni、吸収フォイルの厚さを6.5μm に変えた実験結果を示す。


図3 ERD spectrum of thin B layer on an iron substrate containing H,D,He, and C at the surface. The incident beam was 30 MeV 58Ni and the absorber foil was 6.5μm Mylar. α=15゜,ψ=30゜. See also Figs. 2 and 3 and Table 1.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.B118 (1996) 251-255, P.Goppelt-Langer, S.Yamamoto, Y.Aoki, H.Takeshita, H.Naramoto: Light and heavy element profiling using heavy ion beams, Figure 4 (Data source 1, pp.254), Copyright(1996), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

表面汚染から生じるカーボン原子はすでに減少し、ボロンの低エネルギー側に近づいているが、ボロン原子は、スペクトル上で最高のエネルギーを持つ。結果として、重い入射イオンと吸収フォイルを使ったERDAは軽元素の検出でCまで、高い深さ分解能で検出できることがわかった。
 W.Assmannらが127-394MeV I,Auのような重イオンビームを使うことによって、ERDAは、薄膜分析において、Hを含む軽元素と重元素を同時に、ほとんど一定の感度で検出できる方法になった。入射粒子の原子番号の増加による反跳断面積の増加によって、通常100ppm範囲の感度を得るためには、1012以下のイオンが必要である。運動学的エネルギー広がりの補正によって、検出系は深さ分解能と検出効率について、改善される。

コメント    :
 重イオンビームを用いると、試料表面層で大きいエネルギー損失により生じる試料の照射損傷を考慮しなければならない。

原論文1 Data source 1:
Light and heavy element profiling using heavy ion beams
P.Goppelt-Langer, S.Yamamoto, Y.Aoki, H.Takeshita, H.Naramoto
Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Functional Materials Laboratory 2, Watanuki 1233, Takasaki, Gunma, 370-12 Japan
Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., B118 (1996) 251-255

原論文2 Data source 2:
ERDA with very heavy ion beams
W.Assmann, J.A.Davies, G.Dollinger, J.S.Foster, H.Huber, Th.Reichelt, R.Siegele
Sektion Physik, Universitat Munchen, 85748 Garching, Germany. Accelerator Lab, McMaster University, Hamilton, Ontario, Canada L8S 4M1. Physik Department E12, TU Munchen, 85747 Garching, Germany. AECL, Chalk River Laboratories, Chalk River, Ontario, Canada K0J 1J0
Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., B118 (1996) 242-250

キーワード:弾性反跳粒子検出、重イオンビーム、飛行時間法、ラザフォード後方散乱、深さ分解能
Elastic recoil detection analysis(ERDA), heavy ion beam, Time-of-flight(TOF), Rutherford backscattering(RBS), depth resolution
分類コード:040402, 040501, 040503

放射線利用技術データベースのメインページへ