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作成: 1998/08/30 栗原 正義

データ番号   :040143
2次イオン質量分析による各種材料の分析例
目的      :窒化SiO2薄膜、核融合炉材料、超伝導体材料中の特定核種の分布に対する2次イオン質量分析の利用
放射線の種別  :軽イオン
放射線源    :PHI Model 6600 SIMS、Combined Perkin-Elmer Atomica SIMS-AES system (Mod ADIDA 3000-30)等
フルエンス(率):水素分析 1500eV Dイオン 1016、1018 原子/cm2
利用施設名   :Swiss Federal Institute of Technology、RCA研究所等(米国)
照射条件    :真空中
応用分野    :表面構造、深さ分析、水素分析、重水素分析、超伝導体元素分析

概要      :
 チツ化SiO2層のチツ素について深さプロフィールを得るために2次イオン質量分析(SIMS)を用い、低エネルギCs照射を併用し、Csでクラスター化した2次スパツター種がチツ素に高感度をもつ事を示した。核融合技術に応用したSIMSでは中性ビーム中の水素や重水素の核種混合、炭素内の重水素の飽和濃度、水素同位体交換等を調べた。超伝導体YBa2Cu3O7薄膜について薄膜内の炭素汚染量、深さプロフィール、結合状態等についてSIMS、AES、XPSにより調べた。

詳細説明    :
 金属酸化物半導体デバイス製造時にSiO2誘電体薄膜にチツ素(N)を混入すると、薄膜の電気的、構造的完全性を改善する。異なるチツ化剤を用い、温度と時間を変えて膜を成長させると、Nは極めて薄い酸化物( < 100Å)の中、任意の深さで " 濃縮 " される。
 この様な薄膜中のN分布はSIMSによつて決定でき、濃度と膜厚で補正したSiO2を標準試料に用い、未知試料の精確な定量を行う。CsイオンクラスターSIMSにおけるCsイオン照射は負の2次イオン放出の促進に利用され、N、O、Siの様な電気陰性度をもつ核種に有効である。この定量化と応用例をSi/SiO2界面を実例に述べている。
 図1では、マトリツクス効果の例としてNの深さプロフィールでは再酸化中にSiO2/Si界面、またはその近くで初めから蓄積されたNが界面から移動し、最終的には膜中間近くに残ることを示す。EPROM応用を適用する時、この形式の層構造は多珪素間誘電体特性をもつ。特性記述の見地からみれば、このSIMS技術は局在するNを観察するのに必要な高い深さ分解能を備えている。
 SIMSはチツ化酸化物層でNの高い分解能ー深さプロフィールを得るために利用できる。低エネルギーCs照射ではCsでクラスター化した2次スパツター種はNに高感度をもつ。注意深く開発した機器プロトコールを用い、特別に補正した標準試料の利用も含め、本分析法は高い正確さと精度を得る。


図1 Three-Step Process: Oxidation /Nitridation /Oxidation. (原論文1より引用。 Reproduced from Applied Surface Science, 104/105 (1996) 379-384, M.R.Frost, C.W.Mageea: Characterization of nitrided SiO2 thin films using secondary ion mass spectrometry, Figure 4 (Data source 1, pp.382), Copyright (1996), with permission from Elsevier Science.)

 核融合研究におけるSIMSによる水素(H)と重水素(D)の分析に関する報告である。これらの分析にはエッジ プラズマにおけるHやDのフラックスとエネルギー測定、HやDの同位体分離や同位体交換研究、高出力注入器から中性ビームの中でHやDに対する核種ー混合測定等を含む。
 ガラス上に蒸発させた2000Å厚さの炭素膜中に1016と1018原子/cm2のフルエンスで1500eVのDイオンを注入した。図2に示す様にD(3He, p)4He核反応は1016D/cm2の注入で100%捕獲を示した。しかし1018D/cm2で注入した試料は2.8×1017D/cm2だけ保有することが判つた。この様にSIMSは各試料共にDの深さ分布決定にのみ用いた。本報ではSIMSを用い、HやDの深さプロフィルに関連した問題を実例を挙げ理解しようと試みた。しかし、容易に解決する事は難しいことが判つたが、克服できれば核融合装置のプラズマ壁相互作用の研究に貢献できると考えられる。


図2 Composite of SIMS 2D depth profiles 1500 eV 2D→C. Carbon was in the form of 2000-Å-thick amorphous films evaporated onto glass substrates. The implanted fluences were 1016 and 1018 atoms/cm2. D(3He, p)4He NRA detected 1016 and 2.8×1017 atoms/cm2, respectively, for the implants. Together, SIMS and NRA can accurately determine the D/C ratio at the saturated peak of the high fluence implant. 5 keV 40Ar+, positive ion detection (from Ref.18). Film=36μgm/cm2=9.0×1022 atoms/cm3(for 2000Å film). (原論文2より引用。 Reproduced from J. Vac. Sci Technol., vol.A1(2), Apr.-June 1983, p.901-906, C.W.Magee: Analysis of hydrogen and deuterium by secondary ion mass spectrometry as applied to fusion technology, Figure 2 (Data source 2, pp.905), Copyright (1983), with permission from American Institute of Physics and the authors.)

 高い超伝導遷移温度(Tc=79K)をもつ100-200mm厚さの超伝導体YBa2Cu3O7-x(YBCO)薄膜はSiO2又はY2O3の中間層をもつSrTiO3又はSiの上に350と650℃で析出させた。この深さプロフィール分析をAES、XPSとSIMSによつて行った。
 図3はYBCO単結晶とYBCO膜のうち初めの1〜2層について同一条件で測定した準静的、正のSIMSデータを示す。主要なイオン破片の全てが同定されている。しかし、検出破片の存在と強度には僅かな相違がある。単結晶(a)の場合、Alの痕跡は試料準備中に用いたアルミナ坩堝によるものであり、薄膜(b)の場合には、Siによる表面汚染干渉としてCOを検出する。後者は650℃でのスパツター析出中のバルク拡散によるものである。m/q=12(C), 28(CO)と44(CO2)における炭素汚染は極めて低く、単結晶や膜の場合と匹敵する。水素は両方の場合に見出されている。両者の質量スペクトルは極めて類似しており、殆ど同一の表面組成とイオン化確率を示す。


図3 Positive static SIMS mass spectra of (a) YBCO monocrystal and (b) thin superconducting film(run 147). Intensity(counts s-1) is shown as a function of mass/charge ratio using 5 keV Ar+ primary ions at 5 nA primary current. (原論文3より引用。 Reproduced from Vacuum, vol.41, Nos.4-6, p.870-874 (1990), A.Gauzzi, H.J.Mathieu, J.H.James and B.Kellett: AES, XPS and SIMS characterization of YBa2Cu3O7 superconducting high Tc thin films, Figure 4 (Data source 3, pp.874), Copyright (1990), with permission from Elsevier Science.)



コメント    :
 材料表面の組成分析法として発展が著しいSIMSの応用例について紹介した。実例は、○半導体素子の製造プロセスと表面過程に関連したSiO2膜、○核融合炉第1壁の表面過程に関連した水素、重水素分析、○超伝導体Ba2Cu3O7薄膜の組成分析である。この中にはAESやNRAの様な類似分析法による結果も含まれ、SIMSと類似分析法が相互に補完し合つている様相をかいま見ることが出来た。表面科学の解明のためにこれらの分析技術の発展を期待したい。

原論文1 Data source 1:
Characterization of nitrided SiO2 thin films using secondary ion mass spectrometry
M.R.Frost, C.W.Magee
Evans East, 666 Plainsboro Road, Suite 1236, Plainsboro, N. J 08536, USA
Applied Surface Science, 104/105 (1996) 379-384

原論文2 Data source 2:
Analysis of hydrogen and deuterium by secondary ion mass spectrometry as applied to fusion technology
C.W.Magee
RCA Laboratories, Princeton, New Jersey 08540
J. Vac. Sci Technol., A1(2), Apr.-June (1983) p.901-906

原論文3 Data source 3:
AES, XPS and SIMS characterization of YBa2Cu3O7 superconducting high Tc thin films
A.Gauzzi*), H.J.Mathieu*), J.H.James2*) and B.Kellett3*)
Swiss Fedral Institute of Technology, (EPFL), *)Materials Department, CH-1007( 2*)Physics Department, CH-1015), Lausanne, Switzerland
Vacuum, vol.41, Nos. 4-6, 870-874 (1990)

キーワード:2次イオン質量分析、窒化SiO2、 薄膜、 核融合技術、 水素/重水素、 超電導体YBa2Cu3O7、オージエ電子分光、X線光電子分光
secondary ion mass spectrometry, nitrided SiO2, thin film, fusion technology, hydrogen/deuterium, superconducting YBa2Cu3O7, Auger Electron Spectroscopy, X-ray Photoemission Spectroscopy
分類コード:040101, 040405, 040501

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