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作成: 1998/08/30 田中 進

データ番号   :040142
モンテカルロ法計算コードによる放射線挙動の解析
目的      :放射線の物質中での相互作用の解析手法
放射線の種別  :エックス線,アルファ線,ベータ線,ガンマ線,電子
照射条件    :気体中、液体中、固体中
応用分野    :医療用具滅菌・殺菌、不妊化害虫駆除、食品照射(殺虫)、放射線治療(外部照射)、ラジオグラフィ、コンピュータ断層撮像

概要      :
 モンテカルロ法は、物質中での放射線の3次元の挙動を取り扱うシミュレーションのほとんどの場合に用いられている。その特徴は、物理現象を確率的にとらえ、確率過程を表す確率変数によって記述し、発生させた乱数に従ってその過程を追跡するものである。モンテカルロ法によって、放射線の物質内の挙動を解析する方法の基礎と、実際の放射線輸送計算への応用の概要を述べる。

詳細説明    :
 ある放射線が物質に入射した場合、どこでどのような現象が起こるかということは、全く確率論的な問題であって、人為的な操作を加えることはできない。このような偶然(行き当たりばったり)に起こる事象予測には、乱数の助けを借りてシミュレーションを行う方法、すなわちモンテカルロ法が有用である。
 モンテカルロ法は、1940年代にフォンノイマンにより開発された方法であり、カジノで有名なモナコのモンテカルロにちなんで、ルーレットとの連想から、彼により名づけられたものである。この方法は計算機の計算速度の進歩とともに急速に進展し、今では放射線の物質中での、3次元の挙動を取り扱うシミュレーションのほとんどの場合に用いられている。モンテカルロ法の特徴は、物理現象を確率的にとらえ、確率過程を表す確率変数によって記述し、発生させた乱数にしたがって、その過程を追跡するものである。
 放射線の物質内の挙動を、モンテカルロ法で解く手順を簡単に示す。
  1)物理過程の記述
  2)確率モデルの作成
  3)基本となる確率変数の定義づけ
  4)乱数を用いた標本分布の作成
  5)標本値の整理と統計解析
 通常、放射線の挙動を解析するときには、放射線の種類に応じた物理過程と物質の幾何形状を考慮して、前述の手順を自動的に計算するように作成された、モンテカルロ法計算コード(計算機用のプログラム)を使用することになる。これまでに非常に多くの放射線輸送計算コードが開発されている。電子及び光子(ガンマ線、エックス線)の輸送計算コードとしては、ETRAN、EGS4、TIGER、SANDYLなどがあるが、最近EGS4が最も広く使用されている。また、中性子及び光子の輸送計算コードとして、MORSEコードが遮蔽計算に使用されていたが、最近MCNPコードが広く遮蔽計算に使用されている。


図1 放射線の物質内輸送を扱うモンテカルロ法のフローチャート(原論文1より引用)

 計算コードでの一般的な計算の流れを図1に示す。ある体系に入射、または体系内で発生した放射線(粒子)が、その体系内で衝突を繰り返して、散乱や吸収などを受けて、その位置、方向、エネルギー(速度)を変えながら移動する過程を追跡し、ある特定領域に到達する(体系内のある点への到達、体系からの漏れなど)量や体系内で吸収される量などを求めている。
 1種類の元素より構成されている有限の厚さの媒質に、斜めに単色ガンマ線が入射した場合を例にとって、モンテカルロ法を具体的に説明をする。
 1個の光子が媒質中で、どのような挙動をするかを追跡するのに
(Ei, βi, θi, φi) i = 0, 1, 2,・・・・
の変数の組を用いる。ここでEiはi 番目の衝突の後の光子エネルギー、βiはi 番目から(i+1)番目の衝突までの光子の透過する距離、θiはi 番目の衝突前と衝突後の光子の進行方向の間の角(散乱角)、φiはその間の方位角である。
 1個の光子が媒質に入射し、吸収されるか、あるいは媒質から出ていけばその光子の1代は終わる。これを1ヒストリー(history)という。物理過程として光子の光電効果、コンプトン散乱及び電子対生成を取り扱うこととする。

コメント    :
 モンテカルロ法を含めた放射線輸送に関連する計算コードとデータの国際的なデータベース化が進められており、(財)高度情報科学技術研究機構(RIST)が日本の窓口になって「原子力コード情報データベース」を提供している。
 計算コードを用いた放射線挙動の解析では、先ず、計算する対象に近い条件で測定されたベンチマークデータ(線源及び媒質の条件が明確で、測定器の精度が明らかな基準となる測定データ)と同じ条件で計算した結果を比較し、計算の妥当性を評価する事が必要である。計算コードを有効に用いるため、また、計算コードを改善するためには、ベンチマークデータやその他基礎データの取得が重要である。

原論文1 Data source 1:
放射線の輸送計算(II)--モンテカルロ法
中村 尚司
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
放射線物理と加速器安全の工学、第10章、p.371-408、(株)地人書館、1995

原論文2 Data source 2:
モンテカルロ法
兵藤 知典
京都大学工学部
放射線遮蔽入門(第2版)、第11章、p.157-162、産業図書(株)、昭和54年

原論文3 Data source 3:
Three-Dimensional Dose Calculation for Total Body Irradiation
A.Ito
Cyclotron Laboratory, the Institute of Medical Science, The University of Tokyo, Shirokanedai, Tokyo, Japan
Monte Carlo Transport of Electrons and Photons, edited by T. M. Jenkins, W. R. Nelson and A. Rindi (Plenum Press, New york and London, 1988) Chap. 27, p. 573-598

キーワード:放射線、中性子、ガンマ線、電子線、モンテカルロ法、相互作用、エネルギースペクトル、吸収線量
radiation, neutron, gamma-ray, electron, Monte Carlo method, interaction, energy spectra, absorbed dose
分類コード:040102, 040103, 040104, 040204

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