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作成: 1998/07/09 渡辺 鐶

データ番号   :040134
比例計数管およびGM計数管
目的      :比例計数管とGM計数管の構造、動作原理の解説
放射線の種別  :エックス線,ベータ線,ガンマ線,中性子
利用施設名   :名古屋大学工学部等
照射条件    :大気中
応用分野    :放射線計測一般

概要      :
 比例計数管、GM計数管の構造は金属円筒の中心に細い針金を張り、計数ガスを詰めたものであり、円筒(陰極)に対して針金(陽極)に直流の高電圧(1KV前後)を印加して、計数管に入射した放射線を一個一個数えることが出来るようにした放射線検出器である。その動作原理等を説明する。

詳細説明    :
(1)比例計数管
 計数管に放射線が入射すると、計数管内のガスは電離されて陽イオンと電子(イオン対)が出来る。管内の電場によって陽イオンは陰極に、電子は陽極に向かって移動する。電子は運動に伴ってガス分子と衝突する。その際電子の運動エネルギーは失われる。エネルギーを失った電子は電場から再びエネルギーを得る。このようにして電子は陽極に向かって移動する。
 陽極近傍の強い電場(電場の強度は計数管の中心からの距離に反比例する)によって電子は電場から得るエネルギーが大きくなり、ガス分子と衝突する際にガス分子を電離するようになる。電離によって生じた電子も又次のガス分子を電離する。このようにしてイオン対の数が鼠算的に増加する。これを電子雪崩と云う。
 従って、比例計数管では電離箱に比較して、大きい電気信号を得ることが出来る。最終的に得られる信号(電気パルス)の大きさは放射線によって作られたイオン対の数に比例するので、比例計数管は単に放射線を数えるのみならず、エネルギーも測ることが出来る。 更に、比例計数管では電子雪崩の発生する場所は、陽極の近くの限られた領域内であるので、計数管のどの場所に放射線が入射したかを知ることも出来る。この現象を利用した計数管に位置敏感型比例計数管がある。
 計数ガスには一般にメタン又はメタンとアルゴンの混合ガスが使用されるが、BF3ガスを使用すると、10B(n,α)7Li反応によって生ずるα線やLiイオンがBF3ガスを電離する。これはBF3計数管として熱中性子の測定に使用される。
 
(2)GM計数管
 GM計数管は正確にはガイガー・ミューラ計数管 (Geiger-Mueller Counter)と云い、1925年ドイツの物理学者GeigerとMuellerによって作られた。それまでの放射線検出器は電離箱と写真乾板が主なもので、個々の放射線を計数できなかった。従って放射線を一個一個数えることが出来るGM計数管は、当時画期的な放射線検出器であった。
 比例計数管よりも印加電圧を高くすると、電離による電子雪崩に加えて、電離または励起された分子が基底状態に移る際に出る紫外線が原因で、電子雪崩が起こるようになる。紫外線は電子に比較して平均自由行程が長いので、比例計数管のように電子雪崩が陽極の一部分に留まることなく陽極全体に及ぶ。このような状態になると、陽極近傍の電場が小さくなるので電子雪崩は一旦停止する。
 陽極近傍の陽イオンは除々に陰極に向かって移動する。陰極に到達した陽イオンは電荷を失う際に紫外線を出す。この光が引金になって二回目の電子雪崩が発生する。これでは計数管として使用できないので、小量のアルコールなどを計数ガスに加えて、二回目以降の電子雪崩の発生を押さえる。計数ガスにはヘリウムに小量のエチルアルコールの混合ガス等が使用される。GM計数管の放電機構についてWilkinsonの理論的研究がある。
 GM計数管の出力信号の大きさは、入射放射線により作られたイオン対の数によらない。従って比例計数管のように放射線のエネルギーの測定は出来ない。反面、比例計数管に比較して大きい出力信号が得られるので、構造が簡単な事とあいまって、現在でもサーベイメータなどの放射線測定器の検出器として広く使用されている。GM計数管では入射したβ線などの荷電粒子は、ほぼ100%計数されるのに対し、γ線は数%以下である。

コメント    :
 より詳細に知りたい場合原論文 3)、更に深く勉強するには原論文 1)及び 2)、又Geiger放電の機構については原論文 5)が参考になる。

原論文1 Data source 1:
Radiation Detection and Measurement (Second Edition)
G.F.Knoll
The University of Michigan, Ann Arbor, Michigan, U.S.A.
John Wiley & Sons, (1989), p.160-214

原論文2 Data source 2:
放射線計測ハンドブック(原論文1の訳本)
木村 逸郎、阪井 英次訳、
京都大学工学部原子核工学科、日本原子力研究所
日刊工業新聞社, (1991) p.169-225

原論文3 Data source 3:
放射線計測技術
河田 燕
電子技術総, (1978) p.34-37

原論文4 Data source 4:
Development and Applications of New Position Sensitive Radiation Detectors
C.Mori
School of Engineering, Nagoya University
Memoirs of the School of Engineering, Nagoya University, Vol.48, No.2, p.132-193 (1997)

原論文5 Data source 5:
The Geiger Discharge Revisited: Part I.The Charge Generated / Part II. Propergation / Part III. Convergence
D.H.Wilkinson
University of Sussex, Brighton, BN1 9QN, UK
Nuclear Instrument and Methods, Vol.A321 /A383 /A383, p.195-210/ p.516-522/ p.523-527 (1992/ 1996/ 1996)

キーワード:比例計数管、GM計数管、BF3計数管、電子雪崩、ガス増幅、位置敏感型比例計数管、計数効率
proportional counter, Geiger-Muller counter, BF3 counter, electron avalanche, gas multification, position-sensitive proportional counter, counting efficiency
分類コード:040301,040302

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