放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1998/12/18 福田 光宏

データ番号   :040133
比例計数管を応用した高時間分解能位置検出器
目的      :荷電粒子の位置及び時間に関した放射線計測
放射線の種別  :重イオン,軽イオン,陽子,電子
放射線源    :サイクロトロン、シンクロトロン、静電加速器
フルエンス(率):103-104/(cm2・s)
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所AVFサイクロトロン、その他
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :材料科学、バイオ技術、原子核物理学、高エネルギー物理学、放射線医学

概要      :
 荷電粒子の位置検出や通過時間測定を高分解能で行うため、比例計数管の動作原理を応用した平行平板型雪崩計数管(PPAC)や多芯比例計数箱(MWPC)が用いられている。これらの計測器は、位置分解能や時間分解能に優れ、高計数率にも耐え、さらに検出部の大面積化が可能であり、放射線による損傷も小さいという特長を持っており、原子核物理学をはじめとして、材料科学、バイオ技術、放射線医学などの幅広い分野で利用されている。

詳細説明    :
 荷電粒子のエネルギーや位置、通過時間を測定するためには、比較的取り扱いが簡単で分解能も良い半導体検出器やシンチレーションカウンターを用いることが多い。しかしこれらは固体検出器であるため、検出体中の荷電粒子のエネルギー損失が大きく、特に高エネルギー重イオンによる損傷を受けやすい。従って、性能の劣化や検出器の寿命といった問題が避けられない。また、製作技術やコストの面から、高位置分解能を保ちながら検出部を大面積化することは難しい。その点比例計数管の動作原理を利用したPPACやMWPCは、構造上の利点から大面積化が容易で、しかも分解能に優れ、粒子による損傷も小さいのが特長である。
 比例計数管は、例えば中空の円筒電極(陰極)の中心軸上に細い金属線(陽極)を配置した構造を持ち、電極間の空間には不活性ガスや炭化水素ガスなどが充填されている。陽極には正の高電圧が印加され、電極間に電場が形成される。比例計数管内を通過した荷電粒子は電離作用によりガス中にイオン対を生成し、電子は陽極に、イオンは陰極に向かって移動する。比例計数管のように電極間の電界が十分に高い場合には、電子は移動する間に別の中性ガス分子を電離するのに十分なエネルギーまで加速され、ガス中のイオン対をさらに増殖していく。この2次電離過程で生成された電子もさらに電場で加速されて中性ガス分子に電離作用を及ぼし、相乗的に電子雪崩を引き起こす。この現象は、ガス増幅と呼ばれ、荷電粒子によって最初に作られた電離イオン対の数に比例した電気信号を取り出すことができる。
 PPACやMWPCは、陰極と陽極を数mmの間隔で平面的に配置したもので、電極間にガスを満たし、電極間隔を極力小さくすることにより立ち上がりの早い信号を取り出して時間分解能を上げている。また、電極を一方向に分割し、各電極の位置に対応した電気信号を取り出すことによって入射粒子の位置を検出する工夫がなされている。
 PPACは、1949年にJ.W. KeuffelやR.W Piddによってその計測原理が提案され、その優れた時間特性や高計数特性から原子核物理学の各種実験に幅広く用いられている。図1にPPACの構造と計測原理、信号読み出しの一例を示す。


図1 Principles of bidimensional, induced charge, read-out from parallel plate avalanche counters. (原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., vol.146 (1977) 461-463, F.A.Breskin, N.Zwang: A Simple and Accurate Method for Bidimentional Position Read-Out of Parallel Plate Avalanche Counters, Figure 1(Data source 1, pp.461), Copyright (1977), with permission from Elsevier Science.)

 陽極には、厚さ2.5μm程度の薄いフォイル (Hostaphan foil)やフィルム(ポリエステル・フィルムなど)の表面に数十μg/cm2の金やアルミニウムを蒸着したものを用いており、ある張力でフレームに固定されている。陽極には正の電位が印加され、100pF程度のコンデンサーを介して信号を取り出している。陰極は、陽極と同様に厚さ2.5μm程度の薄いフォイルやフィルムの表面に数十μg/cm2の金やアルミニウムを、幅0.5〜1mm、間隔0.5mm前後でストライプ状に蒸着したものを用いている。
 二次元の位置情報を得るためには、陽極を挟んで両側にストライプの向きを直交させて2枚の陰極を配置している。陰極信号の読み出しは、隣接ストライプ間を同一抵抗で接続して両端部の信号強度比から入射粒子の位置を測る電荷分割法と、遅延線にストライプを接続し検出信号の到達時間の差から位置を割り出す遅延線法が一般的である。
 図2に電荷分割法で得られた粒子の位置測定の一例を示す。位置分解能は、およそ陰極ストライプの幅に依存する。


図2 Results of a position measurement according to the charge division method. The peaks indicate the exact locations of the wires and the centers of the strips (see text). (原論文2より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., vol.155 (1978) 157-164, Y.Eyal, H.Stelzer:,: Two Dimentional Position Sensitive Transmission Parallel Plate Avalanche Counter, Figure 4 (Data source 2, pp.159), Copyright (1978), with permission from Elsevier Science.)

PPACの場合、陽極と陰極の間隔が数mm程度の平行平板電極を用いているため、電極間に生成される電場は一様である。従って、電子雪崩は電離イオン対が発生した場所からすぐに生じ、電離したイオン群も電極に垂直な方向に移動するため電荷分布の空間的な拡がりも狭い。そのため、得られる信号は2〜3 nsの立ち上がりを持ち、時間分解能に優れ、高計数率に耐える検出器としても用いられている。
 MWPCの場合には、直径20〜30μmの金被覆のタングステン線を平行に等間隔に張ったものを陽極として用い、その両側をPPACと同様なフォイルやフィルムもしくは多数のタングステン線を張った陰極でサンドイッチ状に挟んでいる。電子雪崩を発達させるのに十分な電界勾配を得るため、陽極芯線の間隔は数mmにし、陽極と陰極の間隔はその3〜4倍に設計するのが一般的である。電極間に形成される電界は、各陽極芯線毎に同心円状に拡がり、電場は芯線近傍が最も強い。従って電子雪崩は電子が芯線付近に到達して初めて生じる。 図3にPPACとMWPCの電子雪崩発生と位置検出信号の違いを示す。


図3 Nature of the avalanche development and motion of the cloud of the positive ions, responsible for the spread in the induced charge distribution on the cathode in (a) MWPC, (b) PPAC. (原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., vol.146 (1977) 461-463, F.A.Breskin, N.Zwang: A Simple and Accurate Method for Bidimentional Position Read-Out of Parallel Plate Avalanche Counters,, Figure 3 (Data source 1, pp.463), Copyright (1977), with permission from Elsevier Science.)

入射粒子の位置計測は、陽極芯線毎に増幅回路を取り付け、信号の強度分布の重心位置を求める方法が一般的である。MWPCの入射粒子位置に対応した電荷分布の幅は、およそ電極間隔の2倍であることが知られており、PPACの場合に比べるとかなり広く、重心位置の決定には有利である。位置決定精度は、陽極芯線間隔の約1/3である。
 また最適な電子雪崩によるガス増幅を行うため、アルゴン(94.5%)、イソブタン(5%)、フロン(0.5%)の混合ガス、もしくはアルゴン(66%)、イソブタン(30%)、メチラル(ヂメトキシメタン、4%)、フレオン(0.25%)の混合ガスが用いられている。これらのガスの混合比は実験的に最適化されたもので、マジックガスと呼ばれている。MWPCは、大面積の位置検出器として用いられるだけでなく、PPACと同様に高速応答の検出器としても十分な性能を備えており、半値幅で1nsを切る高時間分解能を得た例もある。

コメント    :
 PPACやMWPCは、1x1m2の大きな面積の2次元位置検出が可能で、しかも高時間分解能で106cpsくらいの高計数率にも耐えうる特長を持っており、重イオンによる損傷も小さい。従って、原子核物理実験はもとより、材料科学やバイオ技術でのイオンビーム利用にも使用されており、大面積均一照射による試料上の2次元粒子フルエンス分布のオンライン計測に用いられている。実用上の難点は、計測システムの操作性やメンテナンスの面で、ある程度の熟練度が要求されるため、全くの素人がすぐに使えるという訳ではないことである。

原論文1 Data source 1:
A Simple and Accurate Method for Bidimentional Position Read-Out of Parallel Plate Avalanche Counters
A.Breskin and N. Zwang
Dept. of Nuclear Physics, Weizmann Institute of Science, Rehovot, Israel
Nuclear Instruments and Methods, vol.146 (1977) 461-463

原論文2 Data source 2:
Two Dimentional Position Sensitive Transmission Parallel Plate Avalanche Counter
Y.Eyal and H.Stelzer
GSI, Darmstadt, W. Germany and Weizmann Institute of Science, Rehovot, Israel
Nuclear Instruments and Methods, vol.155 (1978) 157-164

原論文3 Data source 3:
Principles of Operation of Multiwire Proportional and Drift Chambers
F.Sauli
CERN, Geneva, Switzerland
CERN, 77-09 (1977) 1-92

参考資料1 Reference 1:
A Square Meter Position Sensitive Parallel Plate Detector for Heavy Ions
D.V.Harrach and H.J.Specht
Physikalisches Institut der Universtaet Heidelberg, D-6900 Heidelberg, Germany
Nuclear Instruments and Methods, vol.164 (1979) 477-490

参考資料2 Reference 2:
Parallel-Plate Counters
J.W.Keuffel
California Institute of Technology, Pasadena, California
The Review of Scientific Instruments, Vol.20, No.3, 202-208 (1949)

キーワード:比例計数管、平行平板型雪崩計数管、多芯比例計数箱、電離、電子雪崩、ガス増幅、時間分解能、位置分解能
proportional counter, parallel plate avalanche counter(PPAC), multiwire proportional chamber, ionization, electron avalanche, gas multiplication, time resolution, position resolution
分類コード:040301,040305,030701

放射線利用技術データベースのメインページへ