世界の高強度単色陽電子ビーム施設

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作成： 1998/12/24 岡田　漱平データ番号　　　：040129 世界の高強度単色陽電子ビーム施設目的　　　　　　：世界の単色陽電子ビーム施設の現状と計画放射線の種別　　：電子,陽電子,陽子,中性子放射線源　　　　：電子線形加速器(35 MeV-1.5 GeV, 1 kW-45 kW) フルエンス（率）：6.3×10¹³-2.8×10¹⁵/cm²・s(陽電子発生用ターゲット上) 線量（率）　　　：0.4-20 kGy/s 利用施設名　　　：電子技術総合研究所電子リニアック、大阪大学産業科学研究所S-バンド電子リニアック、京都大学原子炉実験所電子リニアック、高エネルギー加速器研究機構低速陽電子用電子リニアック、米国ローレンスリバモア国立研究所電子リニアック、その他照射条件　　　　：真空中、水冷応用分野　　　　：材料科学、表面物理、原子分子物理、放射線化学、量子電気力学概要　　　　　　：　世界の高強度単色陽電子ビーム施設において、現在までに最も実績のあるのは、電子リニアックを利用する陽電子ビーム発生法であり、いくつかの新しい施設計画も立てられている。これ以外に、原子炉やイオン加速器を利用する方法もこれまで行われてきたが、高強度ビーム発生については試行の段階にある。詳細説明　　　　：　陽電子は、どのような発生法においても第一段階はエネルギー分布を持った白色陽電子線として得られるため、タングステン等のモデレータにより低速(単色)陽電子ビームに変換される。　単色陽電子ビーム施設として最も一般的なのは、市販の数量の大きな陽電子線源を利用する方法で、チタン薄膜で被覆した層状のNa-22や、針状のタングステン単結晶に電着したCo-58等が用いられている。強度は最大10⁶個/秒程度である(強度は径10mm程度のビームを基準としてあらわす)。　このうち特徴的な使い方をしている施設としては、ビームの加速・収束とモデレータからの再放出を繰り返す輝度強化法によって、ビームサイズを数十ミクロンまで絞り、低速陽電子線回折や再放出陽電子顕微鏡の実験を行っている米国ブランダイス大学、同じく輝度強化を行って透過型陽電子顕微鏡の実験を行っている米国ミシガン大学、ビームを幅135ピコ秒に短パルス化して陽電子寿命測定を行っているドイツのミュンヘン防衛大学、低速陽電子をイオン加速器で3MeVまで加速してシンチレータや炭素薄膜を通過させ、シンチレーションや二次電子をスタート信号として陽電子寿命測定を行っている、ドイツのマックスプランク金属研究所等がある。　米国のブルックヘブン国立研究所では、高中性子束原子炉で約3TBqのCu-64をつくり、これをタングステン単結晶基板上に蒸着して約10⁷個/秒の低速陽電子ビームを得た。ただし、Cu-64の半減期は12.7時間と短い。イオン加速器で生成させた短寿命陽電子放出核種の、その場利用も、米国のウェイン州立大学等で行われてきたが、ビーム強度は弱かった。　最近(1998年時点)では、18MeV程度の小型サイクロトロンを使い、²⁷Al(p,n)²⁷Si(半減期4秒)を利用する方法が住友重機で商品化を目指して行われており、また、¹⁸O(p,n)¹⁸F(半減期110分)を利用する方法が、スイスのポールシェラー研究所(PSI)や理化学研究所で行われている。これらのビーム強度は、現在のところ最大で10⁷個/秒台である。　高強度単色陽電子ビーム施設として最も実績のあるのは、電子リニアックからの高エネルギー電子をタンタルなどの重金属のコンバータに入射し、制動放射と対生成の連鎖を起こさせることにより、白色陽電子線を得る方法である(図1)。米国のローレンスリバモア国立研究所は、最近10⁹個/秒台のビームを得たと発表しており、表面物理の研究などで成果をあげている。10⁸個/秒台のビームを発生させている施設としては、米国オークリッジ国立研究所(ORNL)、大阪大学産業科学研究所、電子技術総合研究所(電総研)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)等があり、ORNLでは陽電子消滅励起質量分析、電総研では陽電子消滅励起オージェ電子分光に成功している。KEKでは、専用のリニアックを280MeV,14kWに増強して10⁹個/秒のビームの共同利用を目指している。図1　種々の研究機関の電子リニアックのビームエネルギーと低速陽電子発生効率(モデレータから再放出される低速陽電子数／コンバータに入射する電子数)との関係。　　LLNL:ローレンスリバモア国立研究所。　　ORNL:オークリッジ国立研究所。　　●：タンタルコンバータ+タングステンモデレータ。　　○：タングステンコンバータ+タングステンモデレータ。　　□：白金コンバータ+タングステンモデレータ。　　△：タンタルターゲット+光子／低速陽電子コンバータ(タングステン)。　　(阪大、京大のデータは下限値で、これ以上の効率が見込まれる)（原論文1より引用）　世界各国で10¹⁰個/秒以上の強度のビーム発生施設計画が立てられている(表1)。これらはまだ実現していないが、電子リニアック方式では、既に述べたように既存の設備の増強などで高強度化が進んでいる。また、原子炉の熱中性子による¹¹³Cd(n,γ)¹¹⁴Cd反応で発生するγ線を利用し対生成を起こさせる方式では、オランダのデルフト工科大学とドイツのミュンヘン防衛大学で、10⁸個/秒台のビーム発生の目途がたてられている。表1　世界の高強度単色陽電子ビーム(10¹⁰個/秒以上)発生施設計画（原論文1より引用） ----------------------------------------------------------------------------------------- 研究機関単色陽電子ビーム発生方式推定効率特徴・問題点など (線源・モデレータなど) ----------------------------------------------------------------------------------------- 日本原子力研究所専用電子リニアック(100-150 ε(e^-→slow e⁺) ◎専用施設、複数の高崎研究所 MeV,100 kW)→電子→Ta コ～2×10^-⁶ ビームラインに低 (日本) ンバータ(制動放射・対生成速陽電子ビーム同カスケード)→白色陽電子→ 時供給多段Wモデレータ・アセン △ターゲット熱除去ブリー→多チャンネル低速陽の問題電子ビーム ----------------------------------------------------------------------------------------- CEBAF CEBAF(0.5-4 or 6 GeV,200 － ◎連続ビーム (Continuous μA, CW)→FEL用分岐：電 △ターゲット熱除去 Electron Beam 子(400 MeV,1.0mA,7.5MHz)→ の問題 Accelerator ビームダンプ→γ→W ブロッ Facility) ク／フォイル(コンバータ／ (米国) モデレータ)(対生成／減速) →低速陽電子 ----------------------------------------------------------------------------------------- ILL 原子炉→熱中性子→Cd ボトル ε(コンバータ ◎連続ビーム (Institut Laue- (Be リフレクター中)→¹¹³Cd ／モデレータ) △原子炉の定検など Langevin) (n,γ)¹¹⁴Cd(27 000 barn)→γ ～5×10^-⁴ によるシャットダ (フランス) →W(コンバータ／モデレータ) ε(リモデレーウン →大径単色陽電子ビーム→W タ) リモデレータ→低速陽電子～1.5×10^-¹ ----------------------------------------------------------------------------------------- INEL EBRⅡ(高速中性子源炉)→ － ◎偏極ビーム可、連 (Idaho National 10¹⁵n/cm²・s→⁵⁸Ni(n, p)⁵⁸Co 続ビーム Engineering →２か月で10¹⁶Bqの⁵⁸Co(15 △濃縮過程必要、減 Lab.) (米国) %β⁺, 半減期70.8d)→濃縮衰、シャットダウン ----------------------------------------------------------------------------------------- ORNL HFIR(高中性子束炉)→熱中 ε(固体ネオンモ ◎偏極ビーム可、連 (Oak Ridge 性子4×10¹⁴n/cm²・s→⁷⁸Kr+ デレータ) 続ビーム National Lab.) n(5 barn)→⁷⁹Kr(6.8%β⁺,半減～0.7% 将来 △断続的利用(４日 (米国) 期 35h)→コールドトラップ→ ANS (Advanced 間照射後４日間利 β⁺→固体ネオンモデレータ→ Neutron Source) 用)、シャットダ大径単色電子ビーム→リモデレによりさらに高ウンータ→低速陽電子ビーム度強化 ----------------------------------------------------------------------------------------- PSI サイクロトロン(p: 20 MeV,20 ε(β⁺→slow ◎偏極ビーム可、連 (Paul Scherrer μA)→H₂¹⁸Oターゲット(¹⁸O e+) 続ビーム Institut) (p, n)¹⁸F)→¹⁸F(100%β⁺,半減～25% △減衰 (スイス) 期110min)→LiFをC箔に蒸着 →Taqquコンバータ→低速陽電子(他に⁷⁹Br(p, n)⁷⁹Kr) ----------------------------------------------------------------------------------------- コメント　　　　：　原論文は1993年当時のものであるが、高強度単色陽電子ビーム施設のありかたに関する枠組みは大きくは変わっていない。しかし、その後も改善が加えられたり、新しい施設も続々と参入しているため、以上の詳細説明には新しい情報もつけ加えた。　最近では放射光を使って陽電子を発生させる方式など、新たな発生法も提案されているが、高強度ビーム施設として着実に成果をあげているのは、やはり歴史のある電子リニアック方式である。また、低強度ではあるが、市販のアイソトープを使った単色陽電子ビームの普及も進んでおり、両者をうまく使い分けて研究が進展していくものと考えられる。原論文１ Data source 1：世界のポジトロンラボラトリー岡田　漱平日本原子力研究所　高崎研究所 Radioisotopes, Vol.42, No.7, 423-436 (1993) キーワード：低速陽電子ビーム、電子線形加速器、電磁カスケード、原子炉、イオン加速器、陽電子放出核種 slow positron beam, electron linac, electromagnetic cascade, nuclear reactor, ion accelerator, positron emitter 分類コード：040102, 040203, 040501, 040502
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