大強度陽電子発生技術

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作成： 1999/01/19 岡田　漱平データ番号　　　：040128 大強度陽電子発生技術目的　　　　　　：大強度高エネルギー及び低速単色陽電子ビーム発生方法放射線の種別　　：電子,中性子,ガンマ線,陽電子放射線源　　　　：電子線形加速器(35 MeV～33 GeV, 1 kW～45 kW) フルエンス（率）：6.3×10¹³～2.8×10¹⁵/cm²・s(陽電子発生用ターゲット上；以下同) 線量（率）　　　：0.4～20 kGy/s 利用施設名　　　：スタンフォードリニアコライダー、電子技術総合研究所電子リニアック、大阪大学産業科学研究所S-バンド電子リニアック、京都大学原子炉実験所電子リニアック、高エネルギー加速器研究機構低速陽電子用電子リニアック、米国ローレンスリバモア国立研究所電子リニアック、その他照射条件　　　　：真空中、水冷応用分野　　　　：素粒子物理、核物理、宇宙物理、材料科学、表面物理概要　　　　　　：　大強度陽電子の発生法としては、高エネルギー光子による電子・陽電子対生成を利用する方法と、大数量の陽電子放出核種を作製する方法とがある。前者の光子発生法には、高原子番号物質への高エネルギー電子照射による制動放射、ウィグラーを通過する高エネルギー電子による放射光、原子炉の中性子による(n,γ)反応がある。後者には、イオン加速器による短寿命核種のオンライン利用、原子炉中性子のオフライン利用がある。詳細説明　　　　：　大強度の陽電子(ポジトロン)を発生させる技術を図1にまとめた。図1　大強度陽電子発生方法このうち、最も実績があり大強度のビームが得られているのは、電子線形加速器(リニアック)からの高エネルギー電子をコンバータと呼ばれる物質に入射する方法である。コンバータ中で、電子は原子核のつくる電場と相互作用し高エネルギーの光子(制動放射)が発生する。この光子が、電子の静止質量の2倍(2mc²)以上のエネルギーを持っている場合には、さらに原子核の電場との相互作用により電子と陽電子のペアが発生する(対生成)。この過程は連鎖的に起こるため大量の高エネルギー陽電子と光子の生成が可能になる。これを電磁カスケードシャワーと呼んでいる。制動放射も対生成も原子核の電場との相互作用で起こるため、電場が強いすなわち原子核の電荷が大きいほど起こりやすい。このため、タンタル(Ta)、タングステン(W)などの原子番号の大きい物質が使われる。このようにして生成した陽電子は、さらに加速されて放射光の発生や電子-陽電子衝突実験に用いられる。　図2に、スタンフォード大学のSLC(スタンフォードリニアコライダー)用の陽電子発生ターゲット部を示す。電子入射の熱負荷に耐えるために水冷回転ターゲットが用いられており、また発生した陽電子を集束して後段の加速器に入射するため1テスラのソレノイドが用いられている。これにより、1パルス当たり5×10¹⁰個の高エネルギー陽電子が得られる。日本のJLC(ジャパンリニアコライダー)計画では、これを8×10¹¹個まで高めることが計画されている。図2　Drawing of target and focusing solenoid system. Surrounding the target wheel and flux concentrator is a DC solenoid giving 1 Tesla axial field at the target.（原論文2より引用。　Reproduced, with permission of the copyrighter, from IEEE Transact. Nucl. Sci., Vol.NS-32, No.5 (1985) 1832-1834, Figure 2 (Data source 2, pp.1833), Copyright (1985) by Institute of Electrical and Electronics Engineers, Piscataway, NJ08855-1331, USA.）　生成陽電子を加速せず、逆に減速して単色低速陽電子ビームを形成し陽電子分光等に用いるためには、タングステン箔などのモデレータと呼ばれる物質が使われる(参考資料　1)。現在、電子リニアックを利用して、最大10⁸個/秒程度の低速陽電子ビームが得られている(10⁹個/秒台の低速陽電子ビームが得られたという報告もあるが、定常的に得られているものかどうか確認はされていない)。　陽電子発生のために、電子を直接ターゲットに当てない方式も提案されている。電子をウィグラーあるいはアンジュレーターで蛇行させ、このとき放出される放射光をターゲットに当てて対生成を起こさせる方法である。図3に、その概念を示す。数10 GeV級の電子ビームを用いた場合は電子・陽電子衝突実験が、また、蓄積リング直線部における8 GeV程度の電子ビームを用いた場合(参考資料2)は陽電子分光への利用が、それぞれ想定されている。図3　Schematic layout of a SLC-type positron source and a source based on wiggler radiation. （原論文3より引用。　Reproduced, with permission of the author, from Proceedings of the 1994 International Linac Conference, Vol.2 (Tsukuba, 1994) 681-685, K.Floettmann, Figure 1 (Data source 3, pp.682).）　主に低速陽電子ビーム発生を目的とする他のいくつかの技術がある。前述の方式と同様に光子による対生成を利用するものとして、原子炉からの熱中性子をカドミウムに吸収させ、このとき¹¹³Cd(n,γ)¹¹⁴Cd反応によって発生する光子をコンバータに照射する方法がある。この反応の断面積は27,000 barnと大きいため大量の光子の発生が見込まれる。実際に原子炉を使った陽電子発生は予備実験の段階にあるが、近い将来10⁸個/秒程度の低速陽電子ビームの発生が可能であるとされている。　以上のような、対生成を利用する以外に、大数量の陽電子放出核種を作製する方法もある。　その第一はイオン加速器の利用であり、サイクロトロンで20 MeV程度に加速した陽子をアルミニウムターゲットに照射し、²⁷Al(p,n)²⁷Si反応によって生成した陽電子放出核種²⁷Si(半減期4秒)からの陽電子をモデレータで低速陽電子に変換してオンラインで利用する方法がある。この場合には、ターゲットの融解が低速陽電子発生量を制限する。また、H₂¹⁸Oをターゲットとして、¹⁸O(p,n)¹⁸F反応で生成した¹⁸F(半減期110分)を炭素薄膜に蒸着させる方法も試みられている。これらの方法では、現在10⁶個/秒程度の低速陽電子ビームが得られている。これ以外に¹²C(d,n)¹³N(半減期10分)反応の利用も提案されている。　第二は、原子炉中性子のオフライン利用であり、⁶³Cu(n,γ)⁶⁴Cu(半減期12.7時間)反応を利用して10⁷個/秒程度の低速陽電子ビームが得られている。また、⁵⁸Ni(n,p)⁵⁸Co(半減期71日)反応の利用も提案されている。これらでは、いずれも線源内での消滅を低減するため、線源を基板上に蒸着するため、線源面積が大きくなり、従ってビーム径も大きくなってしまうため、輝度強化等の手法により強度を犠牲にしてビーム集束する必要がある。コメント　　　　：　大強度陽電子発生法として、最も実績があり、広く実用化されていて、得られるビーム強度も最も強いのは、電子リニアックによる制動放射と対生成の連鎖を利用する方法である。現存するよりも高出力の電子リニアックを用いて、より大強度の陽電子を得ようとする計画も世界各国で提案されている。　ウィグラーあるいはアンジュレーター放射光を利用する方法は提案の段階であり、まだ実現していない。原子炉の利用は、我が国においては規制の関係で制約が多い。短寿命陽電子放出核種のオンライン利用は、線源内での消滅による陽電子の損失やターゲットの熱負荷等による制限があるが、小型サイクロトロン等の利用が可能である。原論文１ Data source 1：ポジトロン岡田漱平(共著) 日本原子力研究所　高崎研究所 NSA/COMMENTARIES: NO.6　原子力と先端技術［Ⅴ］「加速器の現状と将来」(社)日本原子力産業会議　原子力システム懇話会編　(平成10年6月)　p.102-104 原論文２ Data source 2： Design of a High Yield Positron Source F.Bulos, H.De Staebler, S.Ecklund, R.Helm, H.Hoag, H.Le Boutet, H.L.Lynch, R.Miller, K.C.Moffeit Stanford Linear Accelerator Center, Stanford University, Stanford, California 94305, USA IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. NS-32, No. 5 (1985) 1832-1834 原論文３ Data source 3： Polarized and Unpolarized Positron Sources for Linear Colliders K.Floettmann DESY, Notkestr. 85, 22603 Hamburg, Germany Proc. of the 1994 Intern. Linac Conf., Vol.2 (Tsukuba, 1994) p.681-685 参考資料１ Reference 1： Production and Use of Low-Energy, Monoenergetic Positron Beams from Electron LINACS R.H.Howell, I.J.Rosenberg and M.J.Fluss Lawrence Livermore National Laboratory Applied Physics, A 43 (1987) p.247-255 参考資料２ Reference 2： Production of Intense Low-Energy Positron Beams with Synchrotron Radiation A.Ando et. al., JAERI-RIKEN Spring-8 Project Team J. Synchrotron Rad., Vol. 3 (1996) p.201-206 キーワード：対生成、制動放射、放射光、電子線形加速器、原子炉、イオン加速器、陽電子放出核種、ウィグラー pair production, Bremsstrahlung, synchrotron radiation, electron linac, nuclear reactor, ion accelerator, positron emitter, wiggler 分類コード：040102, 040203
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