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作成: 1998/12/17 酒井 卓郎

データ番号   :040120
マイクロチャンネルプレートによるX線イメージング
目的      :X線の2次元あるいは3次元イメージング技術の開発
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :シンクロトロン放射光(電子エネルギー700MeV)、ガラスレーザー(10kJ、1nsec)
利用施設名   :電子技術総合研究所シンクロトロン施設、大阪大学レーザー核融合研究センター激光XII号
照射条件    :真空中
応用分野    :X線天文学、慣性核融合、元素分析、放射線計測

概要      :
 マイクロチャンネルプレート(MCP)は、鉛ガラスの細管を100万本以上束ねたもので、それぞれの細管が別々の電子増倍管として作用し、荷電粒子やX、γ線の2次元分布を測定することが可能である。
 また、2次電子の走行距離が短く時間応答性がよいため、X線用のストリークカメラやマルチフレームカメラとしての応用も行われている。

詳細説明    :
 マイクロチャンネルプレート(MCP)を用いた2次元、あるいは時間情報を含んだ3次元のX線イメージング技術は、実時間で高エネルギー光子(0.1〜数百keV)の分布を測定できる方法であり、慣性核融合やX線天文学、またシンクロトロン放射光を用いた元素分析などの分野で利用されている。特にMCPをX線から電子に変換するカソードとして用いた場合、通常の光電面を用いるのに比べて一桁以上感度が向上する。
 MCPをX線の2次元検出器として使用する場合、幾つかの点で注意が必要である。まず、検出信号の大きさや効率は、X線のエネルギーや入射角、MCPの増倍率や構造などに依存する。増倍率が高い領域(G > 106)での動作の場合には、得られる信号の波高は飽和しており、暗電流やノイズとの分離が容易となる。他方、増倍率が低い場合(G < 104)には、指数関数的な波高分布を示す。また、増倍率は長時間の使用により劣化してゆき、高い計数率で測定を行うと寿命はさらに短くなる。さらに、信号を蛍光面でなく抵抗結合したアノードで読み出す場合、像の歪みを引き起こさないような形状にする必要がある。入射X線の座標は、検出信号を演算回路により処理することで得られる。
 シンクロトン放射光を用いる蛍光X線分析(SRXRF)は、試料に高強度のX線を照射し、このときに発生する蛍光X線を検出することにより、元素分析を行うものである。この分析においてX線検出器として、結晶分光器とMCPを用いると、試料に含まれる元素の化学状態を2次元で測定する事が可能になる。電子技術総合研究所では、この2次元SRXRFシステムの開発を行い、700MeVのシンクロトン放射光を用いて試験を行った結果、400μm以下の空間分解能で68mm×68mmの範囲でX線を測定することができた。
 図1にその原理図を示す。


図1 A principle for obtaining information on elemental spatial distribution in samples. A plane crystal analyzer and an imaging detector are installed on a goniometer. By using a two-dimensional (2D) Soller slit, the sample surface and the imaging-detector surface have a positional point-to-point relationship, as shown by A-A', B-B', C-C' and D-D'. (原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. and Meth. Phys. Res., A299 (1990) 567-570, M.Koike, I.H.Suzuki, S.Nakae, K.Hasegawa: A 2D imaging detector system for X-ray fluorescence analysis, Figure 1 (Data source 3, pp.567), Copyright (1990), with permission from Elsevier Science.)

大出力パルスレーザーを燃料球に照射し、核融合を起こさせる慣性核融合において、ターゲットから発生するX線を観察することは、レーザー照射による爆縮の動的変化や生成したプラズマの状態を知る上で重要であり、この目的のためにMCPを用いたX線用のストリークカメラやマルチフレームカメラの開発が行われている。
 米国ローレンスリバモア国立研究所では、2組のMCPを用いたX線ストリークカメラの開発を行った。すなわち、最初のMCPをカソードとして用いてX線を電子に変換し、この増倍された電子を高速の電場により走査して、もう一つのMCPに当て、X線の時間変化を測定するというシステムを開発した。レーザーによるテストでは150psecの時間分解能が得られている。
 大阪大学のグループは、図2に示すような、X線イメージのコマ撮り撮影が可能なマルチフレームカメラの開発を行った。このシステムも2組のMCPを用いており、カソードとして3枚のMCPを用いている。時間分解をするために-800V、330psecのゲートパルスを帯状の電極を通じてMCP上に印加して、シャッターとする。このゲートパルスが印加された部分にのみ電子増倍が起きる。この電子を蛍光面を付けたもう一つのMCPで観察する。像は時間分解能83psec、空間分解能25μm程度でそれぞれ撮影される。像の時間間隔は、1撮影時間1400psecの間で、カソードの受光面の面積を調節することによって変えることができる。入射X線の光量に対する出力信号の線形性は102の範囲で保たれ、ダイナミックレンジは103程度であった。


図2 Assembly diagram of the multiframe x-ray imaging system. (原論文2より引用。 Reproduced from Rev. Sci. Instrum. vol.62 (1) (1991) 124-129, M.Katayama, M.Nakai, T.Yamanaka, Y.Izawa, S.Nakai: Multiframe x-ray imaging system for temporally and spatially resolved measurements of imploding inertial confinement fusion targets, Figure 1(Data source 2, pp.125), Copyright (1991), with permission from American Institute of Physics and the authors.)



コメント    :
 測定対象の放射線の2次元分布を測定する場合、通常MCPのアノードを蛍光板にして計測を行う。しかしながら、この方法では測定対象の時間分布が蛍光の寿命で制限されてしまう。これを解消するため、アノードからの信号の呼び出しを高速の回路で行い、時間分布を含めた測定に成功している。特にX線の3次元分布を測定する方法としては、唯一の実用的な技術であると思われる。

原論文1 Data source 1:
Microchannel plate streak camera
C.L.Wang, H.Medecki, C.P.Hale, G.R.Leipelt, S.W.Thomas, and J.D.Wiedwald
Lawrence Livermore National Laboratory, P. O. Box 5508, Livermore, CA 94550, USA
Rev. Sci. Instrum., vol.56 (5), (1985) 835-836

原論文2 Data source 2:
Multiframe x-ray imaging system for temporally and spatially resolved measurements of imploding inertial confinement fusion targets
M.Katayama, M.Nakai, T.Yamanaka, Y.Izawa, and S.Nakai
ILE, Osaka University, Suita, Osaka 565, Japan
Rev. Sci. Instrum,. vol.62 (1) (1991) 124-129

原論文3 Data source 3:
A 2D imaging detector system for X-ray fluorescence analysis
M.Koike, I.H.Suzuki, S.Nakae, and K.Hasegawa
Electrotechnical Laboratory, 1-1-4, Umezono, Tsukuba, Ibaraki 305, Japan. Hosei University, 3-7-2, Kajinocho, Koganei, Tokyo 184, Japan
Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., A299 (1990) 567-570

原論文4 Data source 4:
X- and Gamma- ray imaging using microchannel plates
G.W.Fraser
Department of Physics, University of Leicester, University Road, Leicester LEI 7RH, England
Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., vol.221 (1984) 115-130

キーワード:マイクロチャンネルプレート、X線、イメージング、時間分解測定、増倍率
microchannel plate (MCP), X-ray, imaging, time resolved measurement, gain
分類コード:040105, 040303, 040401

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