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作成： 1998/08/19 山内 良麿
データ番号 ：040118
中性子エネルギー測定
目的 ：中性子エネルギーの測定法とその応用
放射線の種別 ：陽子,中性子,軽イオン
放射線源 ：サイクロトロン(30MeV,1μA)
フルエンス（率）：6x104n/(cm2・s)
線量（率） ：6x10-6Gy/s
利用施設名 ：コロラド大学核物理学研究所サイクロトロン、オークリッジ国立研究所エレクトロンライナック、カリフォルニア大学クロッカー核物理学研究所、コロンビア大学
照射条件 ：大気中
応用分野 ：線量測定、工業用計測、放射線取扱技術、核医学、放射線防護
概要 ：
中性子は電荷を持たないので通常飛行時間法によりそのエネルギーを測るが、水素を含む物質を通じて陽子に変換して、その反跳陽子のエネルギーと方向から中性子エネルギーを測る方法もある。また、3He(n, p)3H 等の特定の中性子入射反応を利用する方法がある。
詳細説明 ：
中性子は電荷を持っていないので、そのエネルギー測定には中性子の飛行時間を測ってエネルギーを求める方法が一般に用いられる。コロラド大学核物理学研究所のサイクロトロンによる中性子飛行時間測定施設では、サイクロトロンのデイーからのrf信号と中性子検出器信号の時間差から飛行時間を測定する方法で、入射エネルギー約25MeVでの(p,n)や(3He,n)反応の中性子を飛行距離30mで0.8-1.2nsecの時間分解能で測定している。
中性子エネルギーが高くなり飛行距離が長くなると、中性子の角分布を測定するためには非常に広いスペースのターゲット室が必要になるが、コロラド大学では中性子検出器の角度は固定して、入射ビームの方向を電磁石系で変える画期的なビームスウィンガーを導入している点に特徴がある。図1に3He入射による中性子放出スペクトルを示す。
図1 Neutron spectra from a composite target of 12C,14C and 16O bombarded by 25.4MeV 3He. Time scale is 0.18ns/channel and the flight path is about 9m. The reaction angle is 8°. Areal density of 14C is 50μg/cm2. （原論文1より引用。 Reproduced from Nucl.Instr. Meth. vol.130 (1975) 93-103, D.A.Lind, R.F.Bently, J.D.Carlson, S.D.Schery and C.D.Zafiratos: A Cyclotron Neutron Time-Of-Flight Faciliity, Copyright (1975) with permission from Elsevier Science.）
また、米国オークリッジ国立研究所のエレクトロンライナック(ORELA)では1-450keVの低いエネルギー領域で、飛行距離78.203mを用いてライナックのrf信号と中性子検出器信号から飛行時間を測り、中性子断面積測定を精力的に行っている。この電子ビームバーストは40ns幅で、ビームパワーはターゲット上800Hzで40kWである(原論文2)。
飛行時間法以外に中性子エネルギーを測る方法として、ポリエチレンなど水素を含む物質によって中性子を陽子に変換して、その陽子の角度とエネルギーから元の中性子のエネルギーを求める方法がある。中性子と反跳陽子の運動エネルギーEnとEp、反跳角θの間にはEn=Ep/cos2θの関係が成り立つ。
カリフォルニア大学デービス校クロッカー核物理学研究所では、この原理に基づき、ポリエチレンコンバーターによって発生する反跳陽子の角度とエネルギーを測ることによって、中性子エネルギーを測定する中性子測定装置を開発した。
図2にその概念図を示す。この測定装置の中性子検出効率は大きくないが、この装置では検出器の立体角が大きいので、実際の測定で考慮しなければならない検出効率と立体角の積εωは50MeV以上の中性子測定では飛行時間法と同程度になる。
図2 Diagram showing the two modes of the detector system. (a) Neutron induced charged particle detection (as described in I) and (b) neutron elastic and inelastic scattering (this paper). （原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. vol.228 (1984) 89-93, F.P.Brady, T.D.Ford, G.A.Needham, J.L.Romero, C.M.Castaneda and M.L.Webb: A Multiwire Chamber System for Measurements of Neutron Spectra, Copyright (1984), with permission from Elsevier Science.）
その他の中性子エネルギーを測る方法として、3He(n,p)3H反応等、特定の中性子入射反応を利用することができる。この反応の場合、実際には3Heガスを封入した比例計数管を使用する。コロンビア大学で開発した3He比例計数管は直径4インチ、長さ15インチの円筒型で1気圧の3Heガスをつめたものである。(1インチ = 2.54 cm)
この3He比例計数管で8.1MeVの中性子を測定すると、パルス波高の高い方から、3He(n,p)3H、反跳3He、3He(n,d)2H反応に対応するそれぞれのピークが現われる。これらのパルス波形の立ち上がり時間は核反応によって異なるので、この立ち上がり時間スペクトルの 3He(n,p)3H反応に対応する部分にゲートをかけることによって、目指す3He(n,p)3H反応だけのスペクトルを得ることができる。
図3に、8.1MeV中性子をこの3He比例計数管によって測定した時の立ち上がり時間スペクトル、ゲートなしの波高スペクトル、立ち上がり時間にゲートをかけた時の波高スペクトルの一例を示す。
図3 At the top a risetime spectrum. At the bottom an ungated energy pulse height spectrum and two gated spectra from the 3He filled proportional counter, for En=8.1MeV. （原論文4より引用。 Reproduced from CONF-910116, Rev. Sci. Instr., Vol.35, No.4 (1964) 431-437, A.Sayres and M.Coppola: 3He Neutron Spectrometer Using Pulse Risetime Discrimination, Copyright (1964), with permission from American Institute of Physics and the authors.）
コメント ：
測定しようとする中性子ビームがパルス化されている場合には、飛行時間法は中性子エネルギー測定に最も広く使われる方法であるが、中性子エネルギーが50MeVより高い領域の測定では、中性子を反跳陽子に変換する方法は飛行時間法より利点が多く、今後測定の主流になると考えられる。パルス化されていない比較的低いエネルギーの中性子測定には3He比例計数管は今でも有効な方法である。
原論文１ Data source 1：
A Cyclotron Neutron Time-Of-Flight Facility
D.A.Lind, R.F.Bentley, J.D.Carlson, S.D.Schery and C.D.Zafiratos
Nuclear Physics Laboratory, Department of Physics and Astrophysics,University of Colorado, Boulder, Colorado 80302, U.S.A.
Nuclear Instruments and Methods, vol.130 (1975) 93-103
原論文２ Data source 2：
Resonance parameters of 60Ni+n from measurements of transmission and capture yields from 1 to 450 keV
C.M.Perey, J.A.Harvey, R.L.Macklin, and F.G.Perey
Oak Ridge National Laboratory, Oak Ridge, Tennessee 37830
Physical Review, C, Vol.27, No.6, (1983) 2556-2586
原論文３ Data source 3：
A Multiwire Chamber System for Measurements of Neutron Spectra
F.P.Brady, T.D.Ford, G.A.Needham, J.L.Romero, C.M.Castaneda and M.L.Webb
Crocker Nuclear Laboratory and Physics Department, University of California, Davis, California 95616, USA
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, vol.228 (1984) 89-93
原論文４ Data source 4：
3He Neutron Spectrometer Using Pulse Risetime Discrimination
A.Sayres and M.Coppola
Columbia University, New York, New York
Review of Scientific Instruments, Vol.35, No.4 (1964) 431-437
キーワード：中性子エネルギー、飛行時間法、飛行距離、中性子断面積測定、反跳陽子、3He比例計数管、波高スペクトル、
neutron energy, time-of-flight method, flight path, neutron cross section measuremsnts, recoil proton, 3He proportional counter
分類コード：040301, 040302, 040103
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