作成: 1998/11/30 井上 信
データ番号 :040117
パルス原子炉からの中性子およびガンマ線
目的 :パルス中性子およびガンマ線源としての研究用パルス原子炉の特性
放射線の種別 :ガンマ線,中性子
放射線源 :研究用パルス原子炉
フルエンス(率):4.5×1014/cm2(中性子)
利用施設名 :BIR-2原子炉(ロシヤ)
照射条件 :大気中
応用分野 :材料科学
概要 :
中性子やガンマ線がパルス的に発生するパルス型原子炉は研究用装置として有用であるが、世界的に多くは建設されていない。パルス原子炉の機械的特性解析のシステムと、ロシアのパルス型原子炉BIR-2に関してアメリカのGodiva、イタリアのTapiro、日本の弥生との比較を行いつつ、標準的な中性子場の推定をおこなった結果を述べる。
詳細説明 :
ビームの時間構造がパルス的である放射線源は、物質の放射線照射効果の時間的変化などの研究に有用である。また通常エネルギー測定が容易でない中性子ではパルス的に中性子が来れば、タイミングをとって飛行時間を測定することで、速度が決まりエネルギーがわかる飛行時間(TOF:Time Of Flight )法が利用できる点で優れている。
しかし、原子炉は通常連続運転されており、パルス的な時間構造をもつ中性子ビームを得るためには、部分的に穴の空いたシャッターを回転させて、パルスビームにする方法が採られる。この場合は多くのビームが無駄になるので、原子炉そのものをパルス的に運転する方が優れている。そこで、それほど数多くはないが、世界的にいくつかの研究用パルス原子炉が作られてその特性などが研究されている。
パルス炉には、単発パルス運転のものと繰り返しパルス運転のものがある。中性子ビーム実験には繰り返し(例えば10Hz)運転のものが必要であるが、材料試験などでは単発でもよいかわりに瞬時には非常に強いビームが得られることが期待される。中性子のエネルギーについては熱中性子体系のものと高速中性子体系のものがある。いわゆるTRIGA炉といわれるのは単発熱中性子パルス炉でパルス幅がミリ秒程度と長い。一方、GODIVAなどは単発高速パルス炉でパルス幅が数十マイクロ秒と短い。繰り返し型のものとしてはロシアのIBR 炉が有名である。
パルス運転のためには瞬間的に臨界を越えるように機械的に炉心を変える方法と、未臨界の炉心構造にしておいて外からパルス的に中性子を注入して増幅する方法、あるいは両方同時にやる方法などがある。ここでは単発高速パルス炉の特性についての研究例を述べる。
Mukhachev 達は機械的特性を調べるシステムを開発した。彼らは未臨界炉の近くに中性子発生管TBGN92-01 をおき、1パルスあたり5×108個の中性子を発生し、反応して炉から出てくる放射線を検出器で調べた。注入する中性子はパルス幅0.3μsecでエネルギーは14MeV である。解析システムのブロック図は図1のようになっている。これにより炉のパワーの瞬時の増大とその後の反応を調べることができる。
図1 Block diagram of the measuring system: ANT) alphanumeric terminal; TV) color monitor; D) detector; NT) neutron tube; P) reactor; CU) control unit.(原論文1より引用。 Reproduced from Instrum. Exp. Tech., Vol.36, No.3, Pt.1, 406-408 (1993), Figure 1 (Data source 1, pp.407), with permission from Plenum Publishing Corp.,N ew York, USA.)
一方、Sevast'yanov達はパルス炉BIR の炉心中央部からの中性子の標準場を解析している。BIR-2 はコンパクトな金属ウラン燃料を使い連続運転もパルス運転もできる。このBIR-2 炉の出力は3MJ 60μsec で、ピークの中性子束は6.8×1018sec-1cm-2であり、単発パルスのフルエンスは4.5×1014cm-2 である。これらの測定にはニッケルの放射化を使うもの、標準的な計数管、特殊な小型のウランを使うフィッションチェンバーなどの検出器を併用した。その結果得られた中性子のスペクトルを他の単発高速パルス炉であるGodiva(USA), Tapiro(Italy), Yayoi(Japan)などと比較している。標準場の比較を表1に示す。
表1 Standard Fields for Reactor Dosimetry Based on Fast Pulsed Reactors. (原論文2より引用。 Reproduced from Atomic Energy, Vol.76, No.1, 49-55 (1994), Table 4 (Data source 2, pp.53), with permission from Plenum Publishing Corp., New York, USA.)
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Average Median Energy group,90 %
Reactor energy, energy, of the fluence,MeV Brief description of the active zone
MeV MeV 5% 95%
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BIR-2 1.26 0.71 0.105 4.10 Cylindrical assembly(220 mm in diameter and
217 mm high; 40 mm in diameter central chan-
nel)consisting of metallic uranium, enriched
with 235U up to 85%,with molybdenum content
of 6% by mass.
Yayoi 1.38 0.89 0.113 4.22 Cylindrical assembly(125 mm in diameter and
155 mm high;23 mm in diameter central chan-
nel)consisting of metallic uranium,enriched
with 235U up to 93%, in a 333 mm in diameter
blanket consisting of depleted uranium and
a thick lead reflector.
Tapiro 1.44 0.90 0.122 4.40 Cylindrical assembly (126 mm in diameter and
109 mm high;8 mm in diameter central chan-
nel)consisting of metallic uranium,enriched
with 235U up to 93.5%, with molybdenum content
of 1.5% by mass, in a copper reflector.
Godiva 1.51 1.02 0.143 4.50 Spherical assembly consisting of metallic
uranium,enriched with 235U up to 93.5%.
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また、Sevast'yanov達は関係する反応の断面積(確率)を用いて中性子スペクトルの解析的な式を得ている。
コメント :
パルス炉は中性子源およびガンマ線源として強力であるが、装置としてはこれまで単発パルス型のものが多く、繰り返し型はロシアのものだけである。原子炉材料の試験などには単発型でもよいが、物性研究などでのTOF法による研究には向かない。そこで最近は、加速器だけによる中性子源がパルス型としては中心になってきている。しかし、未臨界燃料集合体に加速器でパルス的に発生した中性子を打ち込むシステムも検討されてきており、有望である。
原論文1 Data source 1:
A System for the Analysis of Kinetic Properties of a Pulsed Nuclear Reactor
S.V.Mukhachev, M.I.Kushinov, A.F.Kusharev and A.V.Panin
Instrum. Exp. Tech., Vol.36, No.3, Pt.1, p.406-408 (1993)
原論文2 Data source 2:
Standard Neutron Field at the Center of the Active Zone of a BIR-2 Reactor
V.D.Sevast'yanov, A.S.Koshelev, and G.N.Maslov
Atomic Energy, Vol.76, No.1, 49-55 (1994)
キーワード:パルス炉、中性子、ガンマ線
pulsed reactor, neutron, gamma ray
分類コード:040103, 040104