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作成: 1998/09/29 井上 信

データ番号   :040116
ガンマ線源としての原子炉
目的      :原子炉を利用したガンマ線源の開発と特性
放射線の種別  :ガンマ線,中性子
放射線源    :原子炉
フルエンス(率):2x1014photons/s, 24.8x1010photons/(cm2・s)など
利用施設名   :ラトビア物理学研究所原子炉、米国NIST原子炉、グルノーブルILL原子炉
照射条件    :大気中
応用分野    :ガンマ線照射

概要      :
 原子炉は中性子を発生するが、同時にガンマ線源としても活用される。米国NISTでは中性子が鉄などに吸収されて発生するガンマ線の量を測定している。またラトビアの原子炉ではIn-Ga-Snの合金を液体金属状にしてループを作り、原子炉中でInが放射化されてガンマ線源となるようにしている。グルノーブルではエネルギー可変なガンマ線源を開発している。

詳細説明    :
 原子炉は中性子を発生するので中性子源として使われるが、ガンマ線源としても使われる。通常のガンマ線源は原子炉で各種の元素を中性子を照射して放射化し、できた放射性同位元素をガンマ線源として使うわけであるが、これでは放射化物が施設の外に出ていくので使用面で便利ではあるが、環境面で管理に気を使う。原子炉の周りだけで利用するようにすれば、利用が手軽でないということはあるが、大量照射の時には環境面では利点がある。したがって、原子炉をガンマ線源として利用することも有意義である。
 米国NISTでは原子炉における中性子吸収によるガンマ線源の強さを測定している。これはガンマ線源として利用する際の基本データとなるものである。測定の構成は図1のようになっている。


図1 Thermal column cavity (NBS Reactor).(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Reactor Dosimetry: Methods, Apllications, and Standardization, STM STP 1001, Harry Farrar IV and E.P.Lippincott, Eds., American Society for Testing and Materials, Philadelphia, 1989, pp.751-755, Figure 1 (Data source 1, pp.752), Copyright (1989) by ASTM (American Society for Testing and Materials).)

グラファイト中の球形の空洞の直径は0.3mである。鉄のシリンダーの長さは225mmで内径は37.5mm、外形は47.0mmである。このシリンダーの内側に6.4mmの厚さのリチウム6のガラスの鞘がはまっていて中性子を除去するようになっている。熱中性子のフルエンスはシリンダーの中央で1.42x1011n/(cm2・s)であった。この時、シリンダー中でのガンマ線のフルエンスは4.8x1010photons/(cm2・s)で、線量率は1.0Gy/sであった。なお、カドミウムのシリンダーにしたときは中性子束はやや少なくてもガンマ線は数倍になった(線量率では2.3Gy/s)。
 ラトビアの原子炉ではIn-Ga-Snの液体合金を原子炉中を循環させて放射化し、短寿命の116mInから出てくるガンマ線を利用するという方法を採用している。長寿命の放射性同位元素を作らずにすむ利点がある。
 表1に示すように、そのガンマ線の特性は60Coに似ている。

表1 Gamma radiation spectrum of In-Ga-Sn(原論文2より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.35, Nos.4-6, 595-596 (1990), V.Gavars, A.Dinduns, M.M.Kramer: Technico-economical Aspects of Indium-Gallium Radiation Loop of the Institute of Physics of the Latviasn SSR Acdemy of Sciences, Table 1 (Data source 2, pp.596), Copyright (1990), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)
------------------------------------------
                       quanta
No   E  MeV  η -----------------------
                100 decays in the alloy
------------------------------------------
 1   0.1383              3.14
 2   0.3554              0.79
 3   0.4169             27.88
 4   0.4631              0.79
 5   0.6009              0.245
 6   0.6229              1.13
 7   0.8187             10.98
 8   0.8340              4.30
 9   0.8942              0.44
10   1.0507              0.311
11   1.0973             53.67
12   1.2935             80.60
13   1.5074              9.51
14   1.5966              0.19
15   1.7538              2.35
16   1.8611              0.23
17   2.1124             14.80
18   2.2017              1.15
19   2.4910              0.35
20   2.5078              0.57
------------------------------------------
このためコバルトの照射装置の大きなのものがないラトビアでは重宝していて、1976年から1989年までで2200時間利用された。照射対象はmgから50kgまで、体積は1mm3から30 リットルまで線量は線量率0.05-40Gy/sで3-108Gyであった。
 特殊な使い方の例としては、グルノーブルのILLで原子炉で作るガンマ線のエネルギーを可変にする工夫をしている。まず原子炉の中性子を48Tiに吸収させてガンマ線を発生させる。この時の中性子束は3x1014n/(cm2・s)である。チタンのターゲットは20gである。そこから出てきたガンマ線は6.7MeVと6.4MeVの強いものがある。テスト実験では6.7MeVのガンマ線が2.01x1014/s発生した。これをコンプトン散乱させてある角度のものを選べば任意のより低いエネルギーのガンマ線が利用できるというわけである。そのレイアウトは図2のようになっている。


図2 Geometry of the experimental set-up used at the ILL facility.(原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Inst. Meth. Phys. Res., vol.A381, 443-452 (1996), N.Stritt, J.Jolie, H.Maser, H.H.Pitz,: A MeV tunable gamma-ray source by Compton scattering, Figure 3 (Data source 3, pp.445), Copyright (1996), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

チタンターゲットからのガンマ線は中心にチャンネルのある鉛ブロックの中に置かれたグラファイトの散乱体に当たって散乱し、図の例では20.8度の方向に鉛の穴があって、その方向にコンプトン散乱されたガンマ線を利用するというわけである。この場合は初め6.7MeVのガンマ線が散乱されて3.6MeVになる。角度を適当に選べばエネルギーを可変できる。このようなMeVエネルギー領域でエネルギー可変なガンマ線源はあまりないので、ガンマ線によるウラニウムやトリウム等の原子核の核分裂現象や励起、共鳴状態の研究にとって有用である。

コメント    :
 原子炉からのガンマ線は中性子が混じらないように注意する必要があるが、強力なガンマ線源として有用である。これとは別にエネルギーの高いX線、ガンマ線源として、最近は、電子加速器の電子にレーザー光を衝突させてコンプトンの後方散乱を利用してエネルギー可変の単色光を得る方法が注目されている。

原論文1 Data source 1:
Calibration of a Neutron-Driven Gamma-Ray Source
T.G.Williamson, G.P.Lamaze, and D.M.Gilliam
Department of Nuclear Engineering and Engineering Physics, University of Virginia, Chalottesville, VA 22901. National Bureau of Standards, Gaithersburg, MD 20899
Reactor Dosimetry: Methods, Apllications, and Standardization, ASTM STP 1001, Harry Farrar IV and E.P.Lippincott, Eds., American Society for Testing and Materials, Philadelphia, 1989, p.751-755

原論文2 Data source 2:
Technico-economical Aspects of Indium-Gallium Radiation Loop of the Institute of Physics of the Latviasn SSR Acdemy of Sciences
V.Gavars, A.Dinduns, M.M.Kramer
Institute of Physics, Latvian SSR Academy of Sciences, 229021 Riga, Salaspils, U.S.S.R.
Radiat. Phys. Chem., Vol.35, Nos.4-6, 595-596 (1990)

原論文3 Data source 3:
A MeV tunable gamma-ray source by Compton scattering
N.Stritt, J.Jolie, H.Maser, H.H.Pitz
Institut de Physique, Universite de Fribourg, Perolles, CH-1700 Fribourg, Switzerland. Institut fur Strahlenphysik, Universitat Stuttgart, Allmandring 3, D-70569 Stuttgart, Germany
Nuclear Instuments and Methods in Physics Research, A 381, p.443-452 (1996)

キーワード:ガンマ線、原子炉、コンプトン散乱、中性子
gamma-ray, reactor, Compton-scattering, neutron
分類コード:040104, 040103, 040301

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