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作成: 1998/07/15 井上 信

データ番号   :040115
加速器施設の放射線管理の例
目的      :加速器施設の放射線管理の考え方と実例
放射線の種別  :ガンマ線,中性子
放射線源    :大強度陽子加速器、大型放射光施設(8GeV)、小型中性子源など
線量(率)   :50mSv/yなど
利用施設名   :高輝度光科学研究センター大型放射光施設SPring-8、近畿大学原子力研究所
照射条件    :大気中
応用分野    :放射線管理技術、モニタリング

概要      :
 加速器施設における放射線管理はその設計の段階から必要になる。思いがけない事故が絶対に起こらないようにするという考え方(hazard-based safety)は加速器のような複雑なシステムでは、実現に無理がある。危険性評価に基づく考え方(risk-based management)が合理的である。シールド、インターロック、放射線モニタ、汚染検査等について、考え方と、大型放射光SPring-8のモニターシステムと近畿大学の日常管理の実例を示す。

詳細説明    :
 米国エネルギー省(DOE)では、加速器の放射線安全について委員会を設けて検討した。大型加速器のような電力系に繋がる複雑なシステムでは最悪の事故を想定する作業はきりがなく、実際の安全性とかけ離れてしまう。この考え方はhazard-based safetyという。 これに対し、合理的なのは危険性の評価に基づく安全確保で、これをrisk-based managementという。hazardもriskも日本語では危険というので、この区別に注意する必要がある。リスクの考え方は当然リスクの定量的な評価を必要とする。
 図1に加速器放射線管理の概念図を示す。


図1 Shielding, radiatioin detectors, and access zones used in radiation safety systems. (原論文1より引用。 Reproduced from Los Alamos Report, LA-UR-96-3418, CONF - 970134--16 (1996), with permission from Los Alamos National Laboratory.)

ここで、加速器の周囲の遮蔽壁は厚ければ厚いほど良いというべきであろうか。例えば、ロスアラモスの陽子線形加速器では800MeVで1mA程度のビームが加速される。したがって最終的なビームを止めるビームダンプでは、これが全て失われて中性子等が多量に発生する。ここでは、発生する放射線を外に出さないように十分な壁の厚さを確保する。どの程度にすべきかについては、国際的な放射線管理に関する委員会の報告等(ICRP)がある。ビームダンプ以外のビームラインでは、通常1/1000以下のビームしか失われない。したがって、あらゆるビームラインで全てのビームが失われるかもしれないという考えで壁の厚さを決める必要はない。そのかわりに、万一途中でビームが失われるときには、ビームが失われたこと、あるいは、放射線量が異常に増えたことを検知して直ちに運転を止めるインターロックシステムを作っておく、といった対処が合理的である。また、このインターロックなどの安全システムは一系統だけではなく、多重にしておくことで、安全性が増す。インターロックは、公衆に対する安全だけでなく、人が加速器室に入っているときに運転できないようにするとか、ドアを開けたら運転が止まるとかといった作業者の安全のためにも必要である。
 加速器施設の内外の放射線レベルを常に監視しておくことも重要で、その一例として大型放射光施設SPring-8のシステムを表1に示す。

表1 大型放射光施設建屋概要およびモニタ一覧表(原論文2より引用)
建屋名称 建屋の概要 モニタ施設区分 モニタ名称 使用検出器 チャンネル
直線加速器棟(リニアック) 電子銃から打ち出された電子を直線加速器により1GeVまで加速してシンクロトロン棟へ送るための施設。 リニアック・シンクロトロン施設 光子線高レベル線量当量率モニタ 電離箱検出器 4
光子線低レベル線量当量率モニタ 電離箱検出器 7
光子線環境レベル線量当量率モニタ(屋内) 球形電離箱検出器 1
中性子線高レベル線量当量率モニタ BF3計数管 4
中性子線低レベル線量当量率モニタ 中性子レムカウンタ 2
シンクロトロン棟 直線加速器棟にて加速された電子を受け取り、高周波を使って電子を8GeVまで加速して蓄積リング棟へ送るための施設 リニアック・シンクロトロン施設 中性子線環境レベル線量当量率モニタ(屋内) 中性子レムカウンタ、 1
排気麈埃モニタ 半導体検出器 3
排気ガスモニタ 大型プラスチックシンチレーション検出器 3
室内麈埃モニタ 半導体検出器 2
室内ガスモニタ プラスチックシンチレーション検出器 2
表面汚染モニタ プラスチックシンチレーション検出器 1
蓄積リング棟 シンクロトロン棟より受取った電子は、約1.4kmのリングにて10時間以上回り続け、軌道を変える度に放射光を発生する。この放射光を取出す施設であり、研究施設が付設されている。また、放射光を発生することにより電子はエネルギーが失われるため、8GeVのエネルギーを保つための高周波加速装置が設けられている。 蓄積リング棟A区域
蓄積リング棟B区域
蓄積リング棟C区域
蓄積リング棟D区域
光子線高レベル線量当量率モニタ 電離箱検出器 5
光子線低レベル線量当量率モニタ 電離箱検出器 8
低エネルギー光子線低レベル線量当量率モニタ 組織等価型電離箱検出器 8
中性子線高レベル線量当量率モニタ BF3計数管 5
中性子線低レベル線量当量率モニタ 中性子レムカウンタ 8
排気麈埃モニタ 半導体検出器 1
排気ガスモニタ 大型プラスチックシンチレーション検出器 1
RI実験棟 光子線低レベル線量当量率モニタ 電離箱検出器 4
低エネルギー光子線低レベル線量当量率モニタ 組織等価型電離箱検出器 1
排気麈埃モニタ 半導体検出器 1
排気ガスモニタ 通気型電離箱検出器 1
室内麈埃モニタ 半導体検出器 2
室内ガスモニタ 通気型電離箱検出器 2
表面汚染モニタ プラスチック・ZnS(Ag)シンチレーション検出器 1
建屋屋外 環境放射線監視用モニタと気象観測用設備 環境放射線監視設備 光子線環境レベル線量当量率モニタ(屋外) 球形電離箱検出器 3
中性子線環境レベル線量当量率モニタ(屋外) 中性子レムカウンタ 3
気象観測設備 温度計、湿度計、風向風速計、日射計、雨量計、放射収支計、気圧計 各センサ 一式
ここでは、いくつかのエリアごとに監視装置を置くとともに全体の中央管理室も設けている。放射線の検出器(モニタ)は、ガンマ線用、中性子用線、ガスモニタ、ダストモニタなど、100近い数になっている。いくつかの特徴をあげると、ガンマ線に関して、この加速器の場合パルス的なビーム加速であるため、カウント計数ではなく積分値で測定する電離箱を採用している。また、蓄積リングでは放射光としてのX線の検出を必要とするので、低エネルギーの光子検出のための電離箱型検出器を設置している。一方、中性子については、原子炉のような事故時対応が必要な所では、通常測定用と事故時測定用とがあるが、この加速器では事故時用の高レンジモニタはない。そのかわりビームの損失状態を監視する中性子レムカウンタを設置している。
 放射線管理の日常業務の例として、近畿大学原子力研究所の平成7年度の結果を示す。ここには小型の原子炉、中性子発生源などがある。管理は個人管理、研究室管理、野外管理に分けて行われている。個人管理は、健康診断とフィルムバッジによる被ばく管理である。研究室管理は、各種の計測器による定点観測、空中水中濃度測定、表面汚染測定である。加速器棟の表面汚染測定点を図2に示す。


図2 トレーサー・加速器棟内における表面汚染密度測定点(原論文3より引用)

加速器室で床に7.8Bq/cm2のトリチウムによる汚染が見られ除去したことが報告されている。野外管理は付近の水路、植物試料を調査している。

コメント    :
 加速器については、従来原子炉や放射性同位元素にくらべて放射線管理の法的な基準が実状に合わず、過剰な対応がなされていた感じがある。米国の報告にあるような合理的な考えを取り入れた法整備が必要である。なお、加速器ビームによる加速器部品などの放射化物の取り扱いに関しても再利用などに対する合理的な法整備が必要である。

原論文1 Data source 1:
Radiation Risk Management at DOE Accelerator Facilities
O.B. van Dyck
Los Alamos National Laboratory, Los Alamos, N.M.
Los Alamos Report, LA-UR-96-3418, CONF-970134--16, 1996

原論文2 Data source 2:
大型放射光施設の放射線監視設備
青木 勝則、高木 俊博、射場 浩史
富士電機(株)電力システム製作所 放射線システム部
FAPIG, No.145, pp.20-25 (1997)

原論文3 Data source 3:
放射線管理
古賀 妙子、稲垣 昌代、森嶋 彌重、青木 隆、瀧口 千鶴子、高橋 一博、谷 康輔
近畿大学原子力研究所
近畿大学原子力研究所年報、Vol.33, p.61-8, (1996)

キーワード:放射線管理、加速器、モニタ、
radiation control, accelerator, monitoring
分類コード:040106,040306

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