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作成: 1998/07/14 井上 信

データ番号   :040114
電子線形加速器による中性子源と遮蔽体の放射化
目的      :電子線形加速器による連続およびパルス中性子源と東北大学における中性子発生源の遮蔽体の放射化の実例
放射線の種別  :エックス線,ベータ線,ガンマ線,電子,中性子
放射線源    :電子加速器(30MeV, 33mAおよび220MeV, 5kW)
フルエンス(率):1011/(cm2・s), 107/(cm2・s)
利用施設名   :東北大学理学部附属原子核理学研究施設電子加速器
照射条件    :大気中など
応用分野    :材料物性研究、

概要      :
 電子線形加速器から出てくる電子ビームを重い金属ターゲットに照射し中性子を発生させ、物性研究などに用いる中性子源とすることができる。東北大学ではこの方法でパルス中性子源を作り、23年間使用してきた。最近この中性子源を閉鎖しその遮蔽体等を解体した。この時、放射化に関する貴重なデータが得られた。最近は連続運転の線形加速器も作られるようになり、これによる連続中性子源の検討が動燃でなされている。

詳細説明    :
 中性子は原子核等基礎的な物理学研究だけでなく、材料研究や生物医療研究などさまざまな研究に利用されている。このための中性子源としては主に研究用原子炉が用いられてきた。しかし早くから加速器から出てくる粒子ビームをターゲットに当てて中性子を発生させることも注目されてきた。
 通常、電子線形加速器は1マイクロ秒程度のパルス幅でパルス運転されるので、発生する中性子もパルス中性子ビームとなる点が、原子炉の連続ビームと異なる特徴となる。パルス中性子ビームでは飛行時間(TOF)法を使うことによる連続ビームとは異なる知見を得ることができる。この性質を活かしたわが国のパルス中性子源のパイオニア的な装置が東北大学理学部附属原子核理学研究施設に1971年に設置された。ここでは、エネルギー220MeV、パルス幅3マイクロ秒、繰り返し100ppsで平均出力5MWの電子ビームが加速され、タングステンのターゲットに当たって中性子が発生する。
 そのターゲット部つまり中性子発生源の部を図1に示す。


図1 中性子散乱実験用遮蔽体の平面図。図中の番号はボーリング箇所を示す。(原論文1より引用)

この中性子源は23年間利用されたが、施設全体の改造計画であるストレッチャー・ブースターリング建設のために閉鎖されることになった。これにともない周囲のコンクリート遮蔽体を解体撤去した。このとき遮蔽体の放射化などの放射線管理上貴重なデータが得られた。使用中の中性子束は発生源の直ぐ近くは 3x109/(cm2・s)であるが、200cmのシールドの内側での中性子束は、ほぼ 104/(cm2・s)である。ただし、ターゲットは水冷されていて、これにより中性子を熱中性子化することが期待されていたが、改めて測定した結果、ビーム側方向は熱中性子が多いものの、ビーム下流方向は熱外中性子が殆どで、そのスペクトルは方向によって異なることがわかった。遮蔽体内で、放射化によるビーム下流の正面壁面の表面の放射線線量率は1.1mSv/hであるが、実際の放射化は資料を採取して測定した結果、半径10cm程度の狭い範囲で起こっていた。
 さらに、遮蔽体コンクリートをボーリングしてサンプルを取り出し表面の線量率を測定した。その結果を図2に示す。


図2 コンクリート・コア試料の表面線量率の変化(原論文1より引用)

サンプル中の各元素についてガンマ線およびベータ線測定で放射能を測ることにより図中No.2のビーム下流は制動放射線による放射化が主であり、制動放射線はビーム下流で1010/(cm2・s)、側方向で107/(cm2・s)であること、中性子は等方的で107/(cm2・s)であることが推定された。また、コンクリートの遮蔽能力としては1/10価層がビーム下流で60cm(130g/cm2)、側方向で35cm(75g/cm2)であった。なお、このコンクリートはCaが通常のセメントの5分の1以下で岩石に近い。

コメント    :
 遮蔽に関することも含めて東北大学の経験は、放射線管理上貴重なものである。電子線形加速器は大電流の加速が容易なので、電子加速器による中性子源もよく使われてきた。しかし、陽子等にくらべ電子のビームでは1粒子あたりの中性子の発生量が少ないので最近では高エネルギーの加速器で陽子を加速して核破砕反応を利用して中性子源とする計画が盛んである。

原論文1 Data source 1:
中性子散乱実験用遮蔽体の放射化評価
枡本 和義、大槻 勤、笠木 治郎太
東北大学理学部附属原子核理学研究施設
核理研研究報, 第29巻 第1号 1996年9月 p.111-130

原論文2 Data source 2:
An Assessment of the Continuous Neutron Source Using a Low-Energy Electron Accelerator
T.Kase and H.Harada
Power Reactor and Nuclear Fuel Development Corporation, Tokai, Ibaraki319-11, Japan
Nuclear Science and Engineering, Vol.126, p.59-70 (1997)

キーワード:電子線形加速器、中性子源、遮蔽体、放射化、
electron linac, neutron source, radiation shield, activation
分類コード:040102,040103,040306

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