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作成: 1998/07/06 井上 信

データ番号   :040113
負イオン源の発展
目的      :負イオン源の発展とその応用
放射線の種別  :軽イオン,重イオン,中性粒子
放射線源    :負イオン源、タンデム加速器
フルエンス(率):10mA/cm2
利用施設名   :高エネルギー加速器研究機構、核融合科学研究所、日本原子力研究所、京都大学工学部、ローレンスバークレイ研究所など
照射条件    :真空中
応用分野    :タンデム加速器イオン源、イオンビーム蒸着、イオンエッチング、イオン注入、プラズマ加熱

概要      :
 負イオンは正のイオンと同じ頃発見されたが、実用化されだしたのはかなり遅くタンデム加速器の発達にともない、改良されてきた。
 現在では、負イオンがタンデム加速器以外でも有用で核融合のプラズマ加熱のためや、半導体のイオン注入、材料のエッチング、蒸着など、正のイオンより負のイオンの方が優れていることがわかり、非常に発展してきている。特にセシウムを利用したスパッターイオン源で10Aにおよぶものも開発されている。

詳細説明    :
 英国のJ.J.Thomsonにより、陰極線中に負のイオンビームのあることが知られたが、微量であったこともあり、注目されなかった。しかしタンデム加速器が作られるようになってから必然的に大電流の負イオンが要求され、負イオン源の開発が進んだ。
 初期のタンデム用負イオン源は、デユオプラズマトロン型イオン源のビーム引き出し軸を少しずらすことにより同時に引き出される電子ビームの量を抑え、負イオンビームの割合を増やすものと、いったん正のイオンビームを作り、これをアルカリ金属あるいはアルカリ土金属のガス中を通過させて荷電変換させて負イオンビームとするものとが考えられた。
 しかし、これよりも格段に優れたものとして、固体表面にイオンを当ててスパッターさせ、発生するイオンが固体表面でセシウムの膜を通過することにより負のイオンとなる、いわゆるスパッター負イオン源が開発された。
 最近のmA級のものは、米国バークレイで核融合プラズマの中性粒子入射加熱のために開発されたマルチカスプ型の負水素イオン源が原型となっている。高エネルギー物理学研究所(現高エネルギー加速器研究機構)の森らは加速器用の負水素イオン源を開発していたときに、より重いイオンも出ていることを発見し、各種の負イオン発生用のイオン源を開発した。
 図1にその構造を示す。


図1 マルチカスププラズマスパッタ型負イオン源(原論文1より引用)

プラズマの発生にフィラメントからの電子を使う代わりにマイクロ波放電を利用するものも考案されている。

コメント    :
 負イオン源の用途はタンデム加速器にとどまらず、高性能ビームを得るための線形加速器用イオン源としても、また材料プロセス用としても期待されるものである。フィラメント交換が不要で連続運転可能なrf利用のものの実用化は今後有望である。

原論文1 Data source 1:
負イオンの発見から現在の応用に至るまで
石川順三
京都大学工学研究科電子物性工学教室、京都市左京区吉田本町
IONICS(アイオニクス), 第23巻 別冊1、1-16、1997年7月

キーワード:負イオン、スパッターイオン源、マルチカスプ、
negative ion, sputter ion source, multi-cusp field
分類コード:040101,040106,010205

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