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作成: 1998/07/02 井上 信

データ番号   :040112
欧米の高エネルギー重イオン加速器のイオン源
目的      :高エネルギー重イオン加速器で使われている重イオン源の比較
放射線の種別  :重イオン
放射線源    :レーザーイオン源(LIS)、電子ビームイオン源(EBIS)、電子サイクロトロン共鳴イオン源(ECRIS)
フルエンス(率):109 ions/pulse
利用施設名   :ドブナのシンクロファゾトロン、ブルックヘブンのRHIC、CERNのLHC
照射条件    :真空中
応用分野    :高エネルギー物理学、核物理学、イオン注入

概要      :
 ロシアのドブナのシンクロファゾトロンの入射器である線形加速器LU-20では1976年以来レーザーイオン源(LIS)が稼働している。またLU-20には電子ビームイオン源(EBIS)も設置されており各種の重イオンが加速されている。米国のブルックヘブン国立研究所の相対論的重イオン衝突型加速器RHICでもEBISが開発されており、ヨーロッパのCERNでは大型ハドロン衝突型加速器LHCでEBISと電子サイクロトロン共鳴イオン源(ECRIS)が開発されている。

詳細説明    :
 従来、陽子を加速していた高エネルギー物理学用のシンクロトロンを用いて重イオンを加速し核物理の研究を行ったり、さらにはこの高エネルギー重イオンビームを衝突型リングで正面衝突させ、究極の物質を探す実験が各地で行われつつある。
 ロシアでは、ドブナの原子核共同研究所で重イオンを加速することが早くから行われてきた。レーザーイオン源(LIS)が線形加速器LU-20で1976年以来使われてきた。この線形加速器はシンクロファゾトロン(ロシアでは周波数を変化させなくてよい電子シンクロトロンをシンクロトロンといい、周波数を変化させなくてはならないイオンのシンクロトロンをシンクロファゾトロンというが、西側では共に単にシンクロトロンという)およびニュクロトロン(超電導シンクロトロン)の入射器として使われている。
LISの概念図は図1に示すようなものである。


図1 Laser Ion Source(LIS). (原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Physica Scripta, Vol.T71, 104-106 (1997), Figure 1 (Data source 1, pp.104), Copyright(1997) by The Royal Swedish Academy of Science.)

ここで使われている炭酸ガスレーザーの出力は107 Wである。レーザービームが固体ターゲットに当たり、レーザープラズマが発生する。このプラズマからイオンが出てきて150cm飛んでから核子あたり170keVまで加速され線形加速器の入口に達する。線形加速器ではZ/A=0.33のイオンが核子あたり5MeVまで加速されさらにストリッパーで電荷を高くしてシンクロトロンで相対論的エネルギーまで加速する。イオンの種類はLi,B,C,N,O,F,Mg,Siである。例えば、Cの場合109 ions/pulseの強度が得られている。これとは別にLU-20には電子ビームイオン源(EBIS)も設置されている。これはC,N,O,Ne,S,Ar,Kr,Xeのイオンを発生している。軽いイオンではLISの方が有利であるが、重いイオンではEBISの方が強いビーム強度が得られるようである。
 EBISは、米国のブルックヘブン国立研究所のRHICという相対論的高エネルギーの重イオンビームを互いに正面衝突させる加速器のイオン源としても使われようとしている(RHICの完成は1999年の予定)。ここでは、テストのために図2のようなEBISをサンディア国立研究所から借りて、新しいEBIS開発の実験をしている。


図2 Schematic of BNL Test EBIS setup. (原論文2より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Physica Scripta, Vol.T71, 83-87 (1997), Figure 2 (Data source 2, pp.85), Copyright by The Royal Swedish Academy of Science.)

 目標としているEBISは電子ビームの電流10Aで、電子加速電圧は20KVである。この電子ビームを超電導ソレノイド磁場で絞り、このビームで原子を電離してイオンにする。金の35価のイオンを3×109 ions/pulse発生させることを目標としている。このイオンを高周波四重極(RFQ)型線形加速器および15MVの線形加速器で加速し、更にブースターシンクロトロンで加速する。その後ストリッパーで79価にして、AGS(シンクロトロン)でさらに加速し、RHICに入射する。
 ヨーロッパのCERNでは、さらに大型のハドロン衝突型加速器(LHC)の計画が進行中である。ここではLISやEBISのほか、電子サイクロトロン共鳴イオン源(ECRIS)も比較検討されている。
図3はECRISの場合とEBISの場合の加速器の全体構想である。


図3 Block diagram of the heavy ion facility at CERN. A present scenario; B-scenario with an EBIS in the preinjector. (原論文3より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Physica Scripta, Vol.T71, 23-27 (1997), Figure 2 (Data source 3, pp.24), Copyright (1997) by The Royal Swedish Academy of Science.)

ECR型イオン源は電子がサイクロトロン共鳴を起こす条件のソレノイド磁場と高周波電場(通常GHz)で電子を加熱しこの電子によって原子を電離するものである。プラズマの閉じこめのために、ソレノイドの内側のプラズマの周囲に多極の磁石を置くことが多い。これによって重イオンの高い電荷が得られる。LHCの目標としてはECRISにしてもEBISにしても現状のものよりは強いビームが要求されている。

コメント    :
 レーザーや高周波を使う方がフィラメントの寿命の問題が無くなる点でメンテナンスの面では有利である。一方、EBISはパルス的なイオン発生には電子ビームの調節で対応できて便利である。

原論文1 Data source 1:
Comparative Characteristics of Laser and Electron Beam Ion Sources at the Linac LU-20
I.V.Kalagin and V.A.Monchinsky
RU-141980 Dubna, Joint Institute for Nuclear Research, LHE, Moscow reg., Russia
Physica Scripta, Vol.T71, 104-106 (1997)

原論文2 Data source 2:
The BNL EBIS Program: Status and Plains
E.Beebe, J.Alessi, A.Hershcovitch, A.Kponou, K.Prelec, and R.W.Schmieder
AGS Department, Brookhaven National Laboratory, Upton, NY, 11973-5000, USA, and Div. 8347, Sandia National Laboratory, Livermore, CA, 94551,USA
Physica Scripta, Vol.T71, 83-87 (1997)

原論文3 Data source 3:
Possible Application of an EBIS in Preinjectors for Large Heavy Ion Colliders
H.Haseroth and K.Prelec
CERN,1211 Geneva 23, Switzerland and BNL, AGS Dept., 911B, Upton, N.Y. 11973-50000, USA
Physica Scripta, Vol.T71, 23-27 (1997)

キーワード:レーザーイオン源、電子ビームイオン源、電子サイクロトロン共鳴イオン源、シンクロトロン、イオン源、
LIS、EBIS、ECRIS、synchrotron、ion source
分類コード:040101,040106

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