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作成: 1997/10/13 三浦 勉

データ番号   :040102
α線スペクトル測定用線源の調製
目的      :α線スペクトル測定用線源の調製とその性能
放射線の種別  :アルファ線
放射線源    :235U(1Bq/cm2), 237Np, 238Pu, 242Pu(420Bq/cm2), 243Am(13kBq/cm2), 244Cm
利用施設名   :AERE・Harwell, IAEA Safeguards Analytical Laboratory, Sweden Lund University, 日本原子力研究所
応用分野    :放射化学、放射能分析

概要      :
 α線スペクトロメトリーによりα放射体を定量する場合には、薄く均一な線源を作成することが求められる。作成法としては真空蒸着、静電スプレー、蒸発、沈殿、電着法等がある。

詳細説明    :
 α線スペクトロメトリーでα放射体の定量分析を正確に行うには、できるだけ薄く均一な測定線源を作成する必要がある。しかし環境試料では大量の共存物質が存在するため、この条件を満たすことは困難なことが多い。線源作成法としては、真空蒸着、静電スプレー、蒸発、沈殿、電着法等がある。それぞれの方法によって、得られる線源の品質や作成法の容易さは異なるので、目的によって選択されるべきである。以下各作成法について示す。

 a)真空蒸着法:最も高いエネルギー分解能が得られる作成法であるが収率は高くない。検出器校正用α線源等の高いスペクトル分解能が必要な場合に用いられる。
 図1にAERE・Harwellの真空蒸着装置を示す。


図1 Vacuum sublimation chamber.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., Vol.223, 259-265 (1984), A.E.Lally, K.M.Glover: Source Preparation in Alpha Spectrometry, Figure 1 (Data source 1, pp.261), Copyright (1984), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

放射性溶液をタングステンフィラメント上に滴下して乾燥後、真空中でフィラメントを2400℃程度に加熱することにより、目的核種を支持体上へ昇華析出させる。均一な線源を作成するためには支持体とフィラメントの距離が重要である。エネルギー分解能として5.5MeVで10.8keV(FWHM)が得られた(原論文1)。

 b)静電スプレー法:100μl程度の放射性エタノール溶液をキャピラリーや注射針から支持体に吹き付け、支持体上に放射性同位体を析出させる。この時スプレー部を陽極とし、支持体を陰極として8kV程度の電圧を印加する。その際、支持体を回転させると均一性が向上し、5.4MeVで17keV(FWHM)のエネルギー分解能が得られた(原論文1)。図2に静電スプレ−装置を示す。


図2 Diagram of electrospraying electrode assembly.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl.Instr.Meth.Phys.Res., Vol.223,259-265(1984), A.E.Lally, K.M.Glover: Source Preparation in Alpha Spectrometry, Figure 3 (Data source 1, pp.263), Copyright (1984), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)


 c)蒸発法:迅速で定量的な析出が可能である。得られる線源の品質(分解能)は蒸発する液量と塩濃度に依存する。テトラエチレングリコールを添加することで、均一な厚さの析出層が得られる。目的核種を含む溶液を支持体上に滴下し、溶媒を赤外線ランプ等の熱源で蒸発させる。支持体として研磨したステンレス鋼板、タンタル板やセラミック板が用いられる。ウラン,トリウムを抽出したTTAベンゼン溶液に応用した例(原論文1)、使用済み核燃料の燃焼度測定に応用した例(原論文2)、NBS947標準試料に応用した例(原論文3)がある。線源の品質としては、タンタル板上にウラン燃料10μgを析出させた例(原論文2)では、エネルギー分解能として5.5MeVで20keV(FWHM)が得られた。図3に使用済み燃料に応用した際のα線スペクトルを示す。


図3 Alpha-ray spectrum of dissolved PWR spent fuel by measuring the α-source prepared by direct drop deposition using TEG. Burnup of the fuel: 3×104 MWd/t; Cooling time: 5 y; amount of uranium deposited: 〜10μg.(原論文2より引用。 Reproduced from Appl. Radiat. Isot., Vol.40, 41-45 (1989), N.Shinohara, N.Kohno: Rapid Preparation of High-Resolution Sources for Alpha-ray Spectrometry of Actinides in Spent Fuel, Figure 4 (Data source 2, pp.44), Copyright (1989), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)


 d)沈殿法:ラジウム,ポロニウム以外のα放射体の線源作成が可能である。化学分離により精製後、冷溶液から結晶性Ce(OH)370μgを沈殿させ、孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過する。乾燥後、フィルターを試料皿にマウントする。沈殿は一様に分散し、エネルギー分解能として65keV(FWHM)が得られた。ほとんどのアクチニドに対して収率は99%以上である(原論文1)。

 e)分子電着法:電解液として有機溶媒を用いる電着法である。分子電着法は一種の電気泳動法であり、イソプロピルアルコールのような有機溶媒に高電圧の弱電流を印加することで溶質を析出させる。析出層は溶液中に最初に存在する陰イオンと同じ分子形であると推定されている。分子電着法の利点は迅速で定量的であることである。242Puに応用した例(原論文2)では電圧400-600V、電流密度3-5mA/cm2、電着時間15-20分の条件で収率99%、エネルギー分解能は4.9MeVで15keV(FWHM)が得られた。

 f)電着法:電解液として水溶液を用いる電着法で、最も応用例が多いと考えられる。条件の設定により、1時間程度の電着で定量的で均一な厚さの線源が得られる。電解液の組成としてはアンモニウム塩が最も多く、硫酸塩、塩化物、シュウ酸塩、ギ酸塩が用いられる。錯形成剤として、HF,Na2SO4,DTPAを添加すると不純物の影響を少なくすることが可能である。水溶液からの電着では、印加電圧は12-20Vであり、有機溶媒系より低い。Na2SO4を添加して、pHを2.1から2.4に調節した(NH4)2SO4系電解液による例(原論文4)では、電流密度250mA/cm2、電着時間60分の条件で電着したとき、アクチニドの収率は定量的だった。
 なお、有機溶媒系、水溶液系の双方とも収率は酸添加量、pH等の液性に強く依存する。

コメント    :
 各作成法にはそれぞれ特徴があり、対象試料によって作成法を選択する必要がある。比放射能が高い場合には真空蒸着、静電スプレーで優れた品質の線源を作成できるが、環境試料のように比放射能が低い場合には、化学的に精製した後、電着法を用いるのが一般的であろう。迅速性と定量的析出を優先するならば蒸発法が適している。いずれにしろ、不純物が少ない原液でなければ良い線源が得られないので化学分離が非常に重要である。

原論文1 Data source 1:
Source Preparation in Alpha Spectrometry
A.E.Lally, K.M.Glover
AERE, Enviromental and Medical Science Division, Harwell, Oxfordshire, UK
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, Vol.223, p.259-265 (1984).

原論文2 Data source 2:
Rapid Preparation of High-Resolution Sources for Alpha-ray Spectrometry of Actinides in Spent Fuel
N.Shinohara, N.Kohno.
Japan Atomic Energy Research Institute, Department of Chemistry, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki-ken, 319-11, Japan
Appl. Radiat. Isot., Vol.40, p.41-45 (1989).

原論文3 Data source 3:
Preparation of Drop Deposited Plutonium Sources on Porcelain Support; Results and Limitations of Alpha Spectrometric Analyses
M.Miguel, A.Dellesite, S.Deron, W.Raab, H.Swietly
International Atomic Energy Agency,Safeguards Analytical Laboratory, Vienna, Austria
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, Vol.223, p.270-275 (1984).

原論文4 Data source 4:
A Method for the Electrodeposition of Actinides
L.Hallstadius
Lund University,Department of Radiation Physics, S-221 85, Lund, Sweden
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, Vol.223, p.266-267 (1984).

キーワード:α線、線源、エネルギー分解能
α-ray, radiation source, energy resolution
分類コード:040201,040206

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