放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/09/05 野村 貴美、氏平 祐輔

データ番号   :040092
メスバウアーCo-57線源の作製−最近の例−
目的      :メスバウアー57Co線源の開発とその特性
放射線の種別  :陽子,ガンマ線
放射線源    :コンパクトサイクロトロン(p,22MeV,500μA)、57Co線源(数10MBqから数100MBq)
フルエンス(率):p(500μAh≒1019proton), γ(107/cm2・s-108/cm2・s)
利用施設名   :Technischen Universitat Munchenコンパクトサイクロトロン
照射条件    :水冷、回転ターゲット
応用分野    :メスバウアースペクトルの測定、固体物理、化学、金属、材料 

概要      :
 ドイツでは、1982年に散乱実験のためには強力なCiオーダーの57Coの線源が必要となり、58Ni(p,2p)57Co反応で57Co線源を効率よく製造した。一方、今まで報告されてきた,Coの電着などの作製条件が異なること、および販売されている線源は高価であることから、電着・アニールによって線源を自作する研究が中国、メキシコにおいて最近おこなわれた。
 

詳細説明    :
 メスバウア-スペクトロメトリ-は、γ線の無反跳核共鳴吸収の現象を利用する、分光法で、さまざまな分野の物質のマイクロ構造の分析に応用される。メスバウア-用線源の製造としてエネルギ-高分解能を維持するために必要な条件は、
 
 (1)γ線の線幅が自然幅に近いこと。
 (2)基底状態の共鳴核の数が少ないこと。
 (3)無反跳分率ができるだけ大きいこと。
 (4)親核種の崩壊中に生じる中間状態の寿命が親のそれより短いこと。
 (5)磁気分裂や四極子分裂のない、共鳴吸収のシングルピ-クを与えること。
 (6)混在する非共鳴γ線の放出が少ないこと、である。
 
 57Co線源の製造―――散乱、回折実験には、強力な線源が必要であるため、その開発が行われた。 ドイツ、ミュンヘン大学ではコンパクトサイクトロンの22MeVプロトンビ-ムを使用して、58Ni(p.2p)57Co反応により57Co線源を効率よく製造した。この反応にはさらに58Ni(p.pn)57Ni反応が伴うが、57Niは半減期36時間でβ+崩壊で57Coに変わるため、これによる吸収率は全収率の20%に相当した。これらの反応の収率は、36時間以上で約1.8μCi/μAhであった。500μAhのプロトンビ-ム(〜1019p)で、8日間以内に1Ciの57Coを製造することができた。11kWのビ-ム電力で照射するので過熱を防ぐため図1の回転タ-ゲットを用いる。


図1 The geometry of the target.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth., vol.203(1982) 527-531, Huenges E., Loock J., Morinaga H., Parak F.,: The Development of Strong 57Co Mossbauer Sources for Scattering Experiments on 57Fe. Figure 1(Data source 1, pp.528), Copyright (1982), with permission from Elsevier Science, Oxford, England. )

 供給電力は、最大50W/mm2が限界であるが,回転することによって220W/mm2まで可能である。バッキング材としての銅には化学分離の時の銅の溶解を防ぐため金を電着し、その上に 89%濃縮58Ni、50μmを電着したものをターゲットとして用いた。バッキング材の銅の放射化(65Cu(p,n)65Znによって半減期244日の65Znが生成)を防ぐため63Cuを同母材に電着して用いている。
 
 化学分離―――― タ-ゲットはホットセルの中で、37%HCl 50ml、60℃で溶解する。(溶解に約10時間要する。)溶液にはNi、Coの他Au、Cu、FeとZnを含む。酸を蒸発後さらに50ml HClを加え、30%過酸化水素2ml を加える。沸騰するとFe2+はFe3+に酸化されるので、Feと57Coの分離には都合がよくなるためである。冷却して陰イオン交換カラム(Dowex1×8)に通す。このイオン交換樹脂を2N NaOHと2NH3Clで交互に洗浄した後、37%HClで予備洗浄をする。CoのフラクションにはNi、Znが混ざるのでGe(Li)半導体検出器でモニタ-をしながら、数回イオン交換法をおこなう。ただし、放射能のないCuの不純物はその色から判断する。56Coと58Coの不純物は57Co 1Ciあたり1.5mCiであった。56Co、58Coの半減期は約70日であるから、約1年後に57Co(57Coの半減期:270d)を使用するとその影響は少なくなる。
 
 線源の電着――― キャリ-を含まない57CoのRI電着は、一般の電着とは異なるため、Coの電着条件についてステンレス鋼のマトリックス上に電着した数10μCi の低放射能を用いてメキシコのグループにより比較検討がおこなわれた。
 
 図2に電解溶液のpH依存を示す。


図2 Electrodeposition of 59Co (curve 1) and 57Co (curve 2) as a function of electrolyte pH; current density: 10 mA/ cm2, electrolysis time: 18 hours.(原論文2より引用。 Reproduced from J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol.174, No.2 (1993) 291-298, Gonzalez-Ramirez R., Jimenez-Dominguez H., Solorza-Feria O., Ordonez E., Cabral-Prieto A., Bulbulian S., Figure 2 (Data source 2, pp.294), Copyright (1993), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

 59Co(NO3)2(2.4×10-3mg/ml)ではpH9.5以上で電着の最大値を示すが、無担体57Coの場合にはpH9.5〜10が最適範囲である。59Coの電着では電流密度とともに電着収率は増加するが、57Coでは電流密度10mA/cm2の電着条件で、時間は少なくとも22時間を要した。
 
 中国でも線源の自主開発がおこなわれ、Pdマトリックスに57Co電着した線源を作製した。電解質の組成および電解条件は,クエン酸アンモニウム(2.5g/100ml), 水酸化ヒドラジン(2.5g/100ml), 57CoCl2-0.1HCl, pH &g 10.5(アンモニアで調整)、体積1.5-3ml,電流密度50mA/cm2,室温である。電流密度 50mA/cm2で、電着時間を3,4 時間と短縮することができた。
 

コメント    :
 1958年にメスバウアー効果が発見され以来、各種のメスバウアー線源の開発が行われ、通常測定に用いる、57Co線源は、Rh,PdやCr金属等のマトリックスに熱拡散した、数10mCi(数100MBq)のものが市販されている。プロトンの照射により短寿命核種が生成し、建屋内は高い線量になるため、2日以上のク-リングが必要となる。不純物をできるだけ混入しないように、その後の化学分離はホットセル内でおこなう必要がある。線源の性能は、電着に使用するマトリックス金属とアニール条件に依る。
 
 なお、1.85GBq以下の市販の密封57Co線源では、その半値幅の実測値が自然幅(0.103mm/s)の二倍に近い値(0.22mm/s)が得られている。メスバウア−線源は現在国内では製造されていない。
 

原論文1 Data source 1:
The Development of Strong 57Co Mossbauer Sources for Scattering Experiments on 57Fe.
Huenges.E., Loock J., Morinaga H., and Parak F.
Physik Department der Technischen Universitat Munchen, 8046 Garching, Germany
Nuclear Instruments and Methods, vol.203, (1982) 527-531

原論文2 Data source 2:
Electrodeposition of Cobalt on Stailess Steel Foils. Preparation of 57Co Sources for Mossbauer Experiments
Gonzalez-Ramirez R., Jimenez-Dominguez H., Solorza-Feria O*., Ordonez E., Cabral-Prieto A., Bulbulian S.
Insti. Nacional de Investigaciones Nucleares, Apartado Postal18-1027, Col. Escandon, Mexico11801, D.F. MEX, *) Depart. de Quimica, CINVESTAV-IPN, Apartado Postal14-740, Col,Zacatenco, Mexico 07000,D.F.MEX
J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol.174, No.2 (1993) 291-298.

原論文3 Data source 3:
Preparation of the 57Fe/57Co[Pd] Mossbauer Source
Pannian C., Jinrong C.
Institute of Atomic Energy, P.O.Box 275, Bejing China
Trans. Am. Nucl. Soc., Vol.56, No. Suppl.1, (1988) 373-378.

原論文4 Data source 4:
The Preparation of Single-line Mossbauer Sources of 57Co in Metallic Matrices
Weicheng Z., Zhongyang W., Aibao S., Dengqui S., Tingsong F., Quifang S.,
Inst. Morden Physics, Academica Sinica, P.O.Box31, Lanzhou, Gansu, People's Republic of China
Appl. Radiat. Isot., Vol.41, No.8. (1990) 783-784.

キーワード:メスバウアー線源、コバルト-57、製造、電着、アニーリング
Moessbauer sources, Co-57, preparation, electrodeposition, annealing
分類コード:040204, 040206

放射線利用技術データベースのメインページへ