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作成: 1997/12/22 富永 洋

データ番号   :040089
蛍光エックス線発生用低エネルギー光子線源の調製
目的      :蛍光X線発生用低エネルギーγ(またはX)線源の開発、調製
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :55Fe, 57Co(0.5 - 5GBq), 93mNb(30MBq), 109Cd(34.1MBq, 0.1 - 2.5GBq), 241Am(3.7 - 37GBq)
フルエンス(率):Max. 8.33 x 109photons/(4π・s)
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :元素組成分析、濃度測定、密度測定、X線測定器の校正

概要      :
 電磁放射線を試料、ターゲット等に当てたとき発生する蛍光X線は、試料の元素成分分析(蛍光X線分析)、特定成分濃度・密度の測定、X線エネルギースペクトル測定器の校正などに利用される。その用途、目的に応じて、低エネルギーγまたはX線を放出する種々の放射性同位体(RI)線源が開発、調製され、市販もされている。 

詳細説明    :
 一次放射線として電磁放射線を物質に照射したとき生ずる二次放射線のうち、元素ごとに異なる固有のエネルギーをもった特性X線を蛍光X線と呼ぶ。1次放射線としてα線、β線等の荷電粒子線が用いられることもあるが、線源取扱いの容易さ、特性X線の発生効率および測定におけるピーク対バックグラウンド比などの点から、ふつう、低エネルギーのγまたはX(両者まとめて光子)線源が用いられる。蛍光X線を発生させる目的、用途には、1) 直接それを測定して元素成分を定性・定量分析する蛍光X線分析、2) 特性X線の透過減衰による物質の濃度、密度等計測への応用、3) X線スペクトル測定器の校正への利用などがある。このうち、2) が最も光子出力の大きい線源を要し、3) が出力の弱い線源で間に合うのに対し、1) の場合(エネルギー分光方式)には、適度に強い比較的小寸法のアイソトープ線源が多く用いられる。
 蛍光X線の発生効率は一次光子線のエネルギーが目的の特性X線の吸収端以上でそれに近いほど良い。2 - 3倍をかなり超えるほどエネルギーの離れた光子線源は好ましくない。このため、蛍光X線分析では分析対象元素に応じて適当な線源が選択使用される。多くの場合に対応できる線源のセットとして、55Fe (5.9keV X, 2.73y), 244Cm (14.3keV X, 18.1y), 109Cd (22.2keV X, 463d), 241Am (13.9keV X, 59.5keVγ,432y), 57Co (122keVγ,272d)などが市販の同位体線源のなかから取り上げられる(原論文1、2および参考資料1を参照:ただし括弧内の主な光子エネルギーと半減期は、日本アイソトープ協会編 アイソトープ手帳1996年版による)。
 上記線源の初めの4種だけで、LX線測定を含めれば原子番号12以上の全元素の分析ができる。しかし、高原子番号元素に対してKX線により高感度分析を行うには、57Coが必要になる。Physics Power Institute(旧ソ連)では1970年以来、最大2.5GBqのアルミカプセル封入の57Co点状線源等をサイクロトロンにより製造、供給してきた。その後、線源強度と安全性に対する要求の増大に伴って、高比放射能57Co (0.2TBq/mg以上)を用いるとともにステンレスカプセルに切り替えて、最大5GBqの円盤型線源(図1参照:寸法単位はmm)等をレーザー溶接により作っている。密封安全性の等級を含めて、国際級性能の線源となっている(原論文2)。


図1 The enclosed disk-shaped a) GK57.VD4 and b) GK57.VD7γ radiation sources with 57Co. (原論文2より引用。 Reproduced, with kind permission of the authors, from Atomic Energy, Vol.72, No.4, 366-68 (1992), (Data source 2), Copyright (1992) by Plenum Publishing Corporation.)

 55Feと109Cdの間のエネルギーをもつ新しい線源として、93mNb (16.6keV X, 16.1y)の製造・利用を試みたもの(原論文3)がある。高速炉BR-10での中性子非弾性散乱反応を利用して作製した環状線源(3x107Bq)を光子出力の同じ109Cd線源と比較し、TiからSrまでの分析で約1.4倍良い測定下限値が得られている。
 China Institute of Atomic Energy(北京)では、高強度(8GBq / cm2以上)の241Amγ線源調製のため、新たに二重のエナメルガラス被覆法を開発し、これにより3.7 - 37GBqのγ線源を製造してきた。この方法で得られた単位面積当たり放射能の最高値は66GBq/cm2、そのときの59.5keVγ線の利用率は31%であった。なお、低エネルギー域のNpLX線(13.9keV, ほか)は遮蔽し、利用しないこととしている(原論文4)。
 他方、蛍光X線分析の外、多分野のX線測定に用いられるSi(Li)検出器に対して、とくに5keV以下の領域では十分な種類の校正用線源がなく、蛍光X線を利用するにも箔状のターゲットがない元素が多い。そこで、P, S, Cl, K, Caの各元素についてイオン交換膜を利用したターゲットの作製が試みられ、環状の55Fe X線源と図2のように組み合わせて、種々の校正用蛍光X線(図3参照)が簡便に利用可能となることが示された(原論文5)。


図2 Source geometry. (原論文5より引用。 Reproduced from Appl. Radiat. Isot., Vol.43, No.7, 847-851(1992), M.C.Lepy, J.De Sanoit, R.Alvarezi: A Set of Low Energy X-ray Sources Including Ion-Exchanged Membranes as Fluorescence Targets: A Qualitative Study, Copyright (1992), with permission from Elsevier Science.)



図3 Fluorescence spectrum obtained with a calcium-exchanged AG-50 membrane. (原論文5より引用。 Reproduced from Appl. Radiat. Isot., Vol.43, No.7, 847-851 (1992), M.C.Lepy, J.De Sanoit, R.Alvarezi: A Set of Low Energy X-ray Sources Including Ion-Exchanged Membranes as Fluorescence Targets: A Qualitative Study, Copyright (1992), with permission from Elsevier Science.)



コメント    :
 RI光子線源を利用する蛍光X線分析は、シンチレーションカウンタまたは比例計数管をX線検出器とする携帯型元素分析計、鉱業工程管理用のオンストリーム分析計、さらには、半導体検出器を使用した分析計などに、とくに海外において広く用いられている。このためのRI線源は、早くから欧米の2、3の国で開発・市販されてきた。しかし、用途によっては、いまなお開発の余地があるものと思われる。

原論文1 Data source 1:
57Co and 109Cd Photon-Radiation Sources for X-ray Fluorescence AnalysisN.A.Konyakhin, B.V.Zatolokin, V.G.Meshcheryakov and G.V.Tyamin
Physics Power Institute (SATEA),USSR
Atomic Energy, Vol.64, No.2, 163 - 166 (1988)

原論文2 Data source 2:
Gamma Radiation Sources with 57Co for X-ray Fluorescence Analysis
A.I.Leonov, V.G.Meshcheryakov and G.V.Tyamin
Physics Power Institute (SATEA),USSR
Atomic Energy, Vol.72, No.4, 366 - 368 (1992)

原論文3 Data source 3:
Production of 93mNb in a BR-10 Fast Reactor
Yu.G.Sevast'yanov, A.A.Razbash, G.A.Molin, A.I.Leonov, M.P.Nikulin and L.I.Mamaev
Physics Power Institute (SATEA),USSR
Atomic Energy, Vol.67, No.3, 671 - 674 (1990)

原論文4 Data source 4:
Research for Technique of Preparing High-Intensity 241Am Low-Energy Gamma-Source
Y.Q.Li, Y.M.Wang, C.Liu, J.R.Zhang, L.M.Jian and C.Y.He
China Institute of Atomic Energy, Beijing, P.R. China
J. Radioanal. Nucl. Chem., Articles, Vol.205, No.1, 121 - 133 (1996)

原論文5 Data source 5:
A Set of Low Energy X-ray Sources Including Ion-Exchanged Membranes as Fluorescence Targets: A Qualitative Study
M.C.Lepy, J.De Sanoit and R.Alvarez
Laboratoire Primaire des Rayonnements Ionisants, C. E. Saclay, France
Appl. Radiat. Isot., Vol.43, No.7, 847 - 851 (1992)

参考資料1 Reference 1:
Radiation Sources for Industrial Gauging and Analytical Instrumentation
英国アマシャム・インターナショナル社
 
カタログ、アマシャム株式会社 QSA事業部、東京 (1995) 

キーワード:放射性同位体、放射線源、低エネルギーγ線、X線、蛍光X線分析、X線測定器校正
radioisotope, radiation source, low energyγ-ray, X-ray, X-ray fluorescence analysis, X-ray spectrometer calibration   
分類コード:040204, 040301, 040401,  

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