作成: 1997/09/10 加藤 久
データ番号 :040087
工業用Ir-192線源の開発
目的 :非破壊検査用192Ir線源の開発とその利用
放射線の種別 :中性子,ガンマ線
放射線源 :原子炉、192Ir線源(370GBq)
フルエンス(率):2×1014n/cm2・s
利用施設名 :日本原子力研究所東海研究所3号原子炉、日本原子力研究所大洗研究所JMTR、日本原子力研究所東海研究所アイソトープ製造棟
照射条件 :窒素中、大気中
応用分野 :ラジオグラフィ
概要 :
放射性の192Ir線源は、イリジウムを原子炉で熱中性子照射して放射化する。192Ir線源は放出するガンマ線を利用して、プラント配管類溶接部などの欠陥をラジオグラフィによって検査するのに用いられる。非破壊検査で用いる192Ir線源は、放射能の強度の均一性と、さらに形状が理論的に点状線源に近いほど鮮明な撮影像がえられることから、これらの課題にたいする研究開発が必要である。
詳細説明 :
192Ir線源は、40年以上前からラジオグラフィ用線源として欧米各国で普及してきたが、我が国ではおよそ30年前に国産化されるとともに利用が拡大してきた。192Ir線源は、主として原子力発電所などにおける配管類溶接部の欠陥検査等に利用され、そしてかっては航空機エンジンの摩耗検査に利用されていた。非破壊検査のための放射線源には60Co線源がよく用いられるが、被検査物の厚みが比較的薄い場合には、60Co線源より弱いエネルギ(平均エネルギ0.37MeV)のガンマ線を放出する192Ir線源が有効とされている。非破壊検査に適した線源は、ラジオグラフィによる撮影画像を鮮明にするため、理論的には限りなく点状線源に近い形状を持つことが望まれる。
現在、最もよく使用されている線源の形状は、直径が2mm、長さが2mmである。この形状のイリジウムは、原子炉で照射中に大部分の中性子がイリジウム表面においてしゃへいされ、中心部までほとんど到達しない。この結果、与えた中性子の量に見合う放射能を得ることができない。同時に、イリジウム全体が均一に放射化されないという問題も起きる。この現象を中性子自己しゃへい効果という。一方、小型のイリジウムの場合には中性子のしゃへい効果を減らすことができ、効率よく放射化ができる。とくに径方向に比し厚さが薄い、いわゆるコインのような形状はより効果的である。例として、いくつかの小型線源とともにそれらの中性子自己しゃへい係数を表1に示す。
表1 Neutron self-shielding factor for 192Ir sources
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192Ir source dimension Neutron self-shielding factor
(Diameter x Thickness) (Observed)
(mm) (f)
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2.0 x 2.0 0.18
2.0 x 0.5 0.42
2.0 x 0.1 0.74
1.6 x 0.8 0.36
1.6 x 0.4 0.48
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192Ir線源の放射能は外国では数多くの強度を用いているが、日本においては、非破壊検査などで一時的に使用する場合の放射能が放射線障害防止法により370GBqと定められているため、非破壊検査用192Ir線源の放射能は限定されている。
192Ir線源を生成するための国内の原子炉は、現在、日本原子力研究所(JAERI)の3号原子炉(JRR-3)および材料試験炉(JMTR)に限られる。これらの原子炉における熱中性子束密度はおよそ2×1014n/cm2・sの付近に分布しているため、192Ir線源の放射化に適した能力を備えている。熱中性子束密度が高い場合はそれに反比例して照射時間を短くすることが可能である。したがって、熱中性子束密度の差により照射時間をコントロールしながら最終的な放射能を調整することができる。192Ir線源を放射化するため、原子炉でイリジウムを照射する場合の中性子束密度を変数とした照射時間と生成する比放射能の関係を計算値として図1に示す。なお、図1の比放射能には上述の中性子自己しゃへい効果およびカンマ線出力の吸収等は含まれていない。
図1 Specific activity of 192Ir produced as a function of the irradiation time for various values of the thermal neutron fluxes(φ).(原論文2より引用。 日本原子力研究所のご承認に基づき、JAERI-M, 8810 (1980)、図4 (p.25)から転載したものです。)
イリジウムを原子炉で照射するとき、イリジウムどうしの間隔が接近しすぎていると互いに中性子を奪い合い、さらに、イリジウム近傍の中性子を擾乱させて正常な放射化を妨げ、計画した放射能を得ることが困難になる。この現象を防ぐためには、中性子照射中のイリジウムを互いに影響が及ばない程度の間隔に配置・保持しなければならない。その模様を図2に示す。
図2 Configuration of iridium metals for neutron irradiation
192Ir線源は、非破壊検査の分野において将来も貴重なアイソトープとしての役割を担っていくと思われる。しかし上に述べたように、非破壊検査時における被検物の欠陥が微小な場合など撮影像をより鮮明にするためには、できるかぎり192Ir線源の形状は小型化することが必要である。この課題について今後も引き続き検討を進めていかなければならない。
コメント :
192Ir線源の小型化については過去にも試みられ、中性子照射技術に関するデータはほぼ満足するものが得られた。しかし照射後の線源の組み立て等、取り扱い技術について多くの課題を残したままになった。今後、これらの問題解決に向けた技術開発を進めていくことの重要性が認識され始めている。
原論文1 Data source 1:
非破壊検査用小型192Ir線源の開発
加藤久、佐藤彰、木暮広人、和田延夫
日本原子力研究所
JAERI-M, 85-011 (1985)
原論文2 Data source 2:
Production of Radioisotopicic Gamma Radiation Sources in JAERI
H.Kato, H.Kogure and K.Suzuki
Japan Atomic Energy Research Institute
JAERI-M, 8810 (1980)
キーワード:原子炉、中性子照射、ラジオグラフィ、非破壊検査、ガンマ線源、Ir-192線源
reactor, neutron irradiation, radiography, non-destructive testing, gamma radiation source, Ir-192 source
分類コード:040103, 040204, 040303