放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/08/30 吉田 真

データ番号   :040086
測定器校正用面状ベータ線源の開発と利用
目的      :放射線測定器の校正に必要な線源の開発
放射線の種別  :ベータ線
放射線源    :ベータ線源(<1MBq)
線量(率)   :<10mGy/h
照射条件    :大気中
応用分野    :放射線管理

概要      :
 校正用面状ベータ線源は、ベータ線放出核種が線源支持板上に均一に分布した面線源であり、その面積は数cm2から数1000cm2のものがある。これらの線源の作製には、各種の方法が開発されているが、イオン交換膜線源を用いた作製法が放射能分布の均一性において優れている。これらの線源は放射線管理測定において重要な表面汚染検査計やベータ線量計の校正などに広く利用されている。

詳細説明    :
 放射線測定機器を用いて放射能や放射線を測定する場合、既知の放射能を持つ線源や線量既知の放射線場を用いて、その測定機器のレスポンスをあらかじめ評価しておくこと、すなわち校正が必要となる。こうした放射線測定機器の校正を目的として使用される線源は、校正用線源と呼ばれ、その内の一つとして、面状ベータ線源が含まれる。この面状線源は、放射線管理測定において使用頻度の高い表面汚染検査計やベータ線量計の校正において特に重要となる。
 表面汚染検査計は、床、物品、手足などの表面の放射能汚染密度の測定を目的としており、比較的広い検出面積を有しているため、校正用線源も広がりのある面状のベータ線源が必要となる。これら校正用線源についてはISO-8769に規定されている。校正用線源の標準の大きさは15x10cm2であり、対象となる主な放射性核種及び線源支持板の厚さは表1に挙げられる(但し、241Amのみはアルファ線源)。これらの線源は、特に、表面汚染検査計の機器効率(表面放出率に対する計数率の比)の決定に使用されるため、表面放出率の値付け、放射能分布の均一性の確保、線源の安定性などが求められる。

表1 Characteristics of the radionuclides for class 1 reference sources. (原論文4より引用。 Reproduced from ISO-8769 (1988) (Data source 4), with the kind permission from tha International Organization for Standardization, ISO. This standard can be obtained from any member body or directly from the Central Secretariat, ISO, Case postal 56, 1211 Geneva 20, Switzerland. Copyright remains with ISO.)
----------------------------------------------------------------------------
Radionuclide  Approximate  Maximum               Backing surface   
              half-life    energy    ---------------------------------------
                       	              Mass per        Minimum  thickness
                                      unit area   -------------------------
                                                    Aluminium     Stainless 
                                                                  steel
               years        keV         mg*m-2          mm          mm
----------------------------------------------------------------------------
  14C          5,730        156           22             0.08        0.03
 147Pm          2.62        225           35             0.13        0.04
 204Tl          3.78        763          180             0.7         0.23
  36Cl       300,000        710          170             0.6         0.20
  90Sr+90Y     28.5       2,274          850             3.1         1.1
 106Ru+106Rh    1.01      3,540         1300             4.8         1.7
 241Am        432.6       5,544            6             0.02        0.01
----------------------------------------------------------------------------
 大面積の面状ベータ線源の作製には、ろ紙上の複数の点に放射性溶液を滴下乾燥させたもの、金属板に塗布焼結したもの、陽極酸化膜内に放射性溶液を含浸させたもの、放射性核種イオンをイオン交換膜に吸着させたものなど、各種の方法が開発されている。それらの作製法の多くは線源供給元の独自の技術開発に委ねられている。
 放射能分布の面方向の微視的均一性は、イオン交換膜線源がもっとも優れている。この線源は、ポリエチレン・ベースの陽イオン交換樹脂を放射性核種水溶液に浸漬し、放射性核種イオンを化学的に吸着させて作製される。浸漬において、pH、キャリア濃度、浸漬時間などを適切にコントロールすることにより、イオン交換膜の単位面積当たりの重量分布とほぼ等しい放射能分布の均一性が得られる。25-50μmのイオン交換膜を使用して作製した線源では、5%以下の放射能分布のばらつきであることが確認されている。また、線源面積においても、50×30cm2を越える大面積の面線源の作製が可能である。イオン交換膜線源は均一性に優れているほか、通常使用において放射能の離脱が極めて小さく、また十分な機械的強度を有しているため、その応用範囲は広い。
 ベータ線量計の校正においては、ベータ線源を用いて照射場を作り、その照射野の線量(特に、皮膚の組織吸収線量当量)を外挿電離箱による絶対測定で決定した後、対象となる線量計と置き換えて校正を行う。この際の線源は従来広がりの小さいものを使用して、その線源と線量計校正位置の間にベータ線を散乱させて照射野面積を広げるためのフィルターが使用されてきた。しかし、線源径が小さいとフィルターの厚みを増す必要があり、このフィルターによるベータ線エネルギーの減少が校正結果に影響する。このため、線源径を大きくして照射野を大きくすることが試みられ、直径20mmのベータ面線源が使用されている。
 放射性物質による皮膚の汚染にともなう皮膚の組織吸収線量当量の測定に表面汚染検査計やベータ線量計を用いる場合、皮膚の汚染を模擬した特殊な校正用線源が必要となる。上記のイオン交換膜線源を皮膚組織等価の材質であるポリスチレン板に貼付することにより、この校正用線源を作製する方法が開発された。イオン交換膜線源は、貼付前に、外挿電離箱の入射窓に密着させて皮膚組織に与える吸収線量当量の値付けがなされている。この線源を使用した校正により、モンテカルロ計算などの手法を用いることなく、測定器の支持値から直接、皮膚の被ばく線量が評価できる。 

コメント    :
 校正用面状ベータ線源は放射線測定器の校正に不可欠のものであり、各種の線源作製法が開発されてきた。しかし、これらの線源の作製技術はそれぞれに長所・短所があり、今後さらに完成された技術の開発が期待される。また、放射線測定技術の発展を考えると、近い将来、放射能の二次元分布測定も容易に可能となり、これらの校正においては均一性の極めて良い大面積の面状線源の需要が増すものと思われる。

原論文1 Data source 1:
Preparation of Extended Sources with Homogeneous Polyethylene Ion-Echange Membrances
M.Yoshida and R.H.Martin
Japan Atomic Energy Research Institute and Atomic Energy of Canada Limited
Appl. Radiat. Isot., Vol 41, No.4, 387-394 (1990)

原論文2 Data source 2:
Development of Beta Calibration Sources at the Pacific Northwest Laboratory
P.L.Roberson, K.L.Jones and L.A.Braby
Pacific Northwest Laboratory
PNL-SA 13662 (1987)

原論文3 Data source 3:
Preparation of Beta-ray Calibration Sources for Estimating Tissue Doses from Skin Contamination
M.Yoshida, H.Murakami and K.Bingo
Japan Atomic Energy Research Institute
J. Nucl. Sci. Technol., vol.30(4), p.333〜338 (1993)

原論文4 Data source 4:
References Sources for the Calibration of Surface Contamination Monitors - Beta-Emitters (Maximum Beta energy greater than 0.15MeV) and Alpha-Emitters
International Organization for Standardization
International Organization for Standardization
ISO-8769 (1988)

キーワード:ベータ線、校正、面状線源、放射線測定機器、表面汚染検査計、ベータ線量計、イオン交換膜、皮膚汚染
Beta-ray, Calibration, Extended source, Radiation measuring instrument, Surface contamination monitor, Beta-ray dose meter, Ion exchange membrane, Skin contamination
分類コード:040202, 040301, 040302

放射線利用技術データベースのメインページへ