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作成: 1998/01/12 石川 勇

データ番号   :040084
高比放射能核種の製造とガンマ線源
目的      :高比放射能核種の製造と線源利用
放射線の種別  :中性子,ガンマ線
放射線源    :原子炉(6MW,10MW,100MW), 33P(1.9x1014Bq/mmol), 153Gd(1.9x1012Bq/g), 60Co(4.0x1011Bq), 192Ir(1.2x1012Bq), 75Se(4.4x1012Bq), 169Yb(6.8x1010Bq), 170Tm(4.4x1012Bq), 124Sb(1.9x1011Bq)
フルエンス(率):1.4x1014-5x1015n/cm2・s
利用施設名   :レーニン原子炉研究所(Lenin RIAR)
照射条件    :大気中
応用分野    :非破壊検査、厚み計、液面計、生化学、生命工学

概要      :
 高比放射能核種の製造方法とそれを応用した線源の開発が、放射線技術を利用する新装置の出現に役立っている。
 RIARで開発した60Co、192Ir、169Yb、170Tm、75Se、124Sb、153Gdそれぞれの比放射能値は、使用者が装置で必要とする特性のものである。
すべての医学用、工業用線源は、操作する際の信頼性と安全性に特色を持っていて、環境を汚さず、ISO規格に準じた特別な形の放射性物質として保証されている。

詳細説明    :
 放射線技術の新しい装置の創作は、高比放射能核種と線源製造技術の開発と密接に関連している。専門家の評価によれば、近い将来表1にあるような核種の大きな需要がある。

表1 Radionuclides with high specific activity and fields of their application (原論文1より引用。 Reproduced from Trans. Am. Nucl. Soc., TANSAO 67(suppl. 1), p.426-432 (1993), Table 1 (Data source 1, pp.426), Copyright (1993) by American Nuclear Society,La Grange Park, Illinois, USA, and with kind permission of the author.)
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 Radionuclide   Specific activity,    Application
                     Ci/g 
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   60Co            400-500            Gamma-flaw detection,
                                      gamma-thickness gauges,
                                      level gauges,densitometers,
                                      ray contact therapy
  192Ir            500-800            the same
  169Yb            800-1000           Gamma-flaw detection
  170Tm            700-800            the same
   75Se            500-800            the same
  124Sb             30-40             Technological processes
                                      control, 124Sb-Be neutron
                                      sources
  153Gd             50                Bone densitometry
   33P           (1-1.5)x105          Biochemistry, biotechnology,
                                      genetics
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 生化学の研究、特に、人ゲノム計画を実施するのに比放射能100,000Ci/g以上の33Pが用いられ、海外及び国内市場でかなりの需要がある。これらの核種の製造技術をめぐる研究開発とそれに基づく製品は、原子炉研究所(RIAR)における何よりも優先すべき傾向の一つである。この論文では最近5年ないし7年内のこの傾向の内、達成できた研究と開発の成果を述べている。
 放射性核種製造に用いたRIARでの研究炉施設は、熱出力100MWで5x1015ncm-2s-1の高中性子束炉SM-2炉、100MWで5x1014ncm-2s-1のMIR炉、6ないし10MWで1.4から1.5x1014ncm-2s-1のBT-6、-10炉がある。これらの施設は、高比放射能核種の大規模製造のために必要な照射能力は保有していないが、研究所の技術基盤能力は十分高く、質の点では世界的な製品の製造が可能である。
 研究所の伝統的な超プルトニウム製造に加えて、基礎的傾向である二つの新しい製造法がある。(1)高比放射能の33Pと153Gdの製造、(2)60Co、192Ir、153Gd、75Se、169Yb、170Tm、124Sbを基とするガンマ照射線源の製造である。
Pの放射性核種の製造、特に33Pの製造は生化学、生命工学、医学の研究が進み活気づいている。この核種の製造プロセスは4つの段階から構成されている。即ち、(1)濃縮33Sの原子炉照射、(2)硫黄Pの分離、(3)オルソ-Pの形での33Pの抽出、(4)不純物からの分離精製である。これらの開発段階で分離精製法のアイデア、ユニークなイオン源を用いる質量スペクトル法の開発などが生まれ、分析精度の向上に繋がり無担体の33P(148PBq/モル、以下)の製造が可能となった。
 骨の病気を診断する骨密度計に使われている153Gd線源は世界的な需要があり、今後もこの傾向が続き定常的な骨密度計の製造と線源製造が急務である。RIARでは153Gd製造の原材料として、濃縮された151Euあるいは天然のEuを用いている。153Gdの製造では照射過程の核反応系列からも分かるように、製造での課題は、多くの混合核種の中から153Gdを抽出し、放射性不純物を放射能強度で0.005%以下にすることである。RIARで開発した照射Euターゲットからの153Gd抽出技術は、NaアマルガムによるEu還元が基礎になっている。
 悪性腫瘍治療のための集中的な研究開発が進み、腫瘍への照射効果を増すために線源の微小化と照射エネルギーを変化させる方法の傾向がある。
 工業用の高比放射能ガンマ照射線源の応用がかなり増加している。特にGAMMARID型という種々の目的のためのガンマ線欠陥検出器を使用しているが、高比放射能で、点線源に近い線源コアの微小化がラジオグラフィ研究において、画像の鮮明さを得るために焦点距離や露光時間の点で役立っている。ラジオグラフィによる鋼鉄(5-40mm厚)溶接の品質管理のために開発された2.5Ci-120Ciの線源である75Se線源を図1に示す。


図1 Design of 75Se sources for radiography (原論文1より引用。 Reproduced from Trans. Am. Nucl. Soc., TANSAO 67(suppl. 1), p.426-432 (1993), Figure 7 (Data source 1, pp.430), Copyright (1993) by American Nuclear Society, La Grange Park, Illinois, USA, and with kind permission of the author.)

厚み(50-80mm)のある溶接のラジオグラフィには2-800Ciの放射能の192Irが開発され、60Coの多種類の線源は直径2mまでの管や150mm厚さの大型鋼製品の欠陥の検出に使用できる。
 169Yb線源(0.2-2.0Ci)と170Tm(最大120Ci)線源は軽合金製品の欠陥検出に開発され、このような低エネルギーガンマ線源は携帯用の欠陥検出器を可能にし、現場条件や接近の困難な場所での製品コントロールなどで装置の使用効率を上げている。
 高圧ポリエチレンの合成を制御する液面計のような工程管理に60Co線源が用いられ、最大5Ciの124Sb線源が鉱石中のBeの含有量を決め、工程を管理するのに用いられている。

コメント    :
 今日における高比放射能核種の製造法の開発は、放射線利用技術の高度化に伴って進展しているとも言える。医学、工業いずれの分野においても、これまでのような単に特定の放射性核種の線源使用による成果に満足せず、高度の照射を施し、得られる最高の装置機器を使い、高度な解析をすることによって、より良い成果を得る傾向にある。
 そのため、高い比放射能核種の製造には、高い中性子束密度での原子炉照射と高度の分離技術の駆使が必要である。また、照射線源の製造には微小化加工技術の開発が照射の局所化、照射性能の向上それに使用者の被曝線量の低減化から望まれる。

原論文1 Data source 1:
Radionuclide Preparations with High Specific Activity and Gamma-Sources on Their Basis
V.V.Chesanov, N.F.Demchenko, V.I.Karasev, E.A.Karelin, R.A.Kuznetsov, V.M.Lebedev, Yu.G.Toporov, V.T.Filimonov
V.I.Lenin Research Institute of Atomic Reactors
Trans. Am. Nucl. Soc., TANSAO 67(suppl. 1), p.426-432 (1993)

参考資料1 Reference 1:
Carrier-Free 33P-Orthophosphoric Acid of Special Purity
N.V.Kuznetsova, R.B.Vinogradova, V.V.Kalugin, L.S.Konovalova, A.V.Mamelin, J.N.Spiridonov, V.T Filimonov
V.I.Lenin Research Institute of Atomic Reactors
Trans. Am. Nucl. Soc., TANSAO 67(suppl. 1), p.432 (1993)

参考資料2 Reference 2:
Extraction-Chromatographic Affinage in Gadolium-153 Preparation Production Technology
M.I.Melnik, E.A.Karelin, R.A.Kuznetsov, V.T.Filimonov
V.I.Lenin Research Institute of Atomic Reactors
Trans. Am. Nucl. Soc., TANSAO 67(suppl. 1), p.433 (1993)

キーワード:高比放射能、放射性核種、ガンマ照射線源
hight specific activity, radionuclide, gamma radiation source
分類コード:030105,030203,040204

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