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作成: 1997/08/07 村上 博幸

データ番号   :040083
ガラス線量計
目的      :蛍光ガラス線量計の特徴とその放射線防護分野への応用
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,ベータ線
放射線源    :X線装置、γ線(10keV-10MeV)、β線(200keV-3MeV)、熱中性子線
線量(率)   :0.01mGy -10Gy,  0.01mSv -10Sv
照射条件    :一般環境中、作業環境中
応用分野    :個人線量測定、環境放射線モニタリング、

概要      :
 蛍光ガラス線量計は、読み取り操作による蛍光中心の消滅がなく、また長期間のフェーディングが無視できるなど優れた特性を有している。最近、窒素ガスレーザーを利用した紫外線パルス励起法の発展により、測定の簡便化及び測定精度の著しい向上が図られ、放射線防護分野における多方面の応用が期待されている。

詳細説明    :
 ある種のガラス(銀活性化リン酸塩ガラス)に放射線を照射し、その後紫外線を照射すると蛍光を発する。この現象はラジオフォトルミネッセンス(Radiophotoluminescence:RPL)と呼ばれ、その蛍光量が照射された線量に比例することを利用し、個人モニタリングや環境モニタリング用の線量計(蛍光ガラス線量計;以下、ガラス線量計)として用いられている。放射線の大線量照射(10 Gy以上)によってもガラス中に色中心が生成され、その着色現象を利用した線量計も利用されているが、RPLを利用した線量計はそれとは異なり、低線量の測定が可能で、蛍光中心の安定性もはるかに優れている。従来、このガラス線量計には、プレドースと呼ばれる放射線に無関係な固有の発光成分による影響や、ガラス表面の汚れによる読み取り精度の低下を避けるため洗浄が必要であるなどの難点があったため広く普及することはなく、わずかに軍事用や事故時用として利用されるのみであった。 しかし近年になって、連続パルス発振のできる窒素ガスレーザを紫外線源として用いたリーダが開発されたことにより、プレドースと放射線による蛍光の分離が容易になり、読み取り前の洗浄が不要で読み取りが自動化され、きわめて低線量域までの測定が可能となった。図1に蛍光からプレドースを分離する原理を示す。全蛍光量からプレドーズ蛍光量を差し引いた部分(M=F1-aF2)がRPL蛍光量として記録される。


図1 パルス励起後の蛍光減衰曲線(原論文2より引用)

 ガラス線量計には熱ルミネセンス線量計(TLD)やX線フィルム線量計などの他の線量計と比較して大きな特徴がある。即ち、まず蛍光中心の安定性によりフェーディングが極めて小さい(10年10%以内)ことである。また、蛍光発光が放射線エネルギーの散逸を伴わないため何度でも繰り返し読み取りが可能であること、並びにガラス組成の均一性によりガラス素子間の特性のばらつきが小さいこと(同一ロット内の感度のばらつきが±1%以内)などにより、再現性に優れた極めて高精度の測定値が得られる。線量測定範囲は0.03 mSvから10 Svであり、環境線量レベルから、事故時の大線量レベルまでの測定が可能である。特に1年間連続測定時の検出限界線量値は0.1mSv程度であり、長期間の測定に適している。一方、使用済みのガラス線量計素子は400℃程度の高温で加熱してやれば、TLDと同様に放射線照射による蛍光中心が消滅し(再生処理)、再び測定に利用できる。
 ガラス線量計の欠点としては、被照射直後は蛍光中心の生成が十分ではなく、飽和に達するまでに一日以上を要することがあげられる(ビルドアップ)。このため、緊急を要する測定に際しては、比較的低温(70-100℃)で加熱して蛍光中心の生成を促進すること(加熱処理)が必要である。また、照射時や保存時の雰囲気温度等環境条件によってわずかな読取値の差が生じるが、これも加熱処理によって低減できる。この様に環境条件の影響も受けにくいため長期にわたって極めて安定した測定値が得られる(図2参照)。


図2 Long time stability of glass dosimeter readings( Type GD-400).(原論文4より引用。 日本原子力研究所のご承認に基づき、JAERI-Tech-94-034, 図30 (Data source 4, pp.36)から転載したものです。)

 ガラス素子自体の光子エネルギー依存性は一部のTLDに比べて大きいが、エネルギー補償用フィルタとの組み合わせにより線量計としては良好で、日本工業規格(JIS)では25keV-60Coのエネルギー範囲において±30%以内とされている。また、40 keV以上では±15%以内である。


図3 RPL reading method.(原論文4より引用。 日本原子力研究所のご承認に基づき、JAERI-Tech-94-034, 図26 (Data source 4, pp.34)から転載したものです。)

 近年、紫外線レーザーパルスの照射方法がさらに工夫されて新しいリーダが開発されたことにより、ガラス素子のごく表面の蛍光中心を発光させることが可能となり( 図3 参照)、従来の光子に加えてβ線の測定も可能となった。さらにSnとCdのフィルタを組み合わせて熱中性子の測定も可能となるなど、様々な線種に対応したタイプの線量計が市販されている。
 ガラス線量計は、その安定性と精度の高さにより、個人線量計としてだけでなく環境モニタリングにおいても使用されているほか、長期にわたる積算性能を利用して生涯線量用モニタとしての利用も有望視されている。

コメント    :
 蛍光ガラス線量計は測定精度が優れているため、最近では、基準γ線照射場の相互比較認証等への利用も検討されている。加熱処理やリーダ変動の補正技術などが必要だが、照射線量(空気カーマ)の照射量を1%程度の高精度で比較認定することができる。今後も各種放射線測定への発展的応用が期待される。

原論文1 Data source 1:
蛍光ガラス線量計測装置
日本工業標準調査会
(財)日本規格協会、107 東京都港区赤坂4-1-24
日本工業規格, JIS Z 4314 (1995)

原論文2 Data source 2:
窒素ガスレーザーを用いたガラス線量計リーダについて
池上 徹
東芝硝子(株)、140 東京都品川区東大井2-13-8
放射線, Vol. 17 No.3 p.10 (1991)

原論文3 Data source 3:
Photoluminescence Dosimetry: Progress and Present State of Art
E.Piesch, B.Burgkhardt and M.Vilgis
Karlsruhe Nuclear Research Centre GmbH, Central Safety Department D-7500 Karlsruhe, FRG
Radiation Protection Dosimetry, Vol.33, p.215 (1990)

原論文4 Data source 4:
蛍光ガラス線量計の基本特性
石川達也、村上博幸
日本原子力研究所保健物理部、319-11 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
JAERI-Tech, 94-034 (1994)

参考資料1 Reference 1:
アイソトープ便覧
日本アイソトープ協会 編
(財)日本アイソトープ協会、113 東京都文京区本駒込2-28-45
アイソトープ便覧, 改訂3版 p.329 (1984)

キーワード:蛍光ガラス線量計、ラジオホトルミネッセンス、再生処理、レーザーパルス紫外線励起、加熱処理
Photoluminescent Glass Dosimeter, Radiophotoluminescence, Annealing, Pulsed UV Laser Excitation, Thermal Treatment
分類コード:030603, 030604, 040302

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