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作成: 1997/08/22 須永 博美

データ番号   :040081
三酢酸セルロース(CTA)線量計
目的      :三酢酸セルロース線量計の概要とその使用法
放射線の種別  :電子,ガンマ線,軽イオン
放射線源    :電子加速器(0.2-3 MeV)、60Co 線源(〜37PBq)
線量(率)   :5kGy-300kGy, 10kGy/h-10MGy/h
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所電子加速器及び60Coガンマ線照射施設
照射条件    :大気中、温度0-60゜C、湿度20-80%
応用分野    :放射線重合、放射線架橋、環境保全、医療器具の滅菌

概要      :
 放射線加工処理における5kGy-300kGy程度の吸収線量の測定に用いられる実用線量計である三酢酸セルロースフィルム線量計について、開発の経過、特性、使用方法、測定の基である着色機構及び種々の応用について述べた。

詳細説明    :
 三酢酸セルロース(Cellulose triacetate、CTA)線量計は、放射線加工処理における5 - 300 kGy程度の線量域用の実用線量計として広く用いられているフィルム状の線量計である。CTA線量計はまずフランスで開発され、1972年から日本原子力研究所とフランス原子力庁との研究協力として、実用線量計としての基本特性を調べる研究等が行われた。
 この線量計はフランスのNumelec社から市販されていたが、1977年に製造が停止され、その後日本原子力研究所において国内で製造するための検討が行われた。その結果、1981年から富士写真フィルム(株)からFTR-125という商品で市販されるようになった。
 FTR-125は、CTAに増感剤としてのTriphenylphosphate (TPP)のみが15wt%含まれたもので、その他の添加物がわずかに含まれていたNumelec社製とは少し異なる。市販されているFTR-125は厚さ125μm、幅8mmのテープ状の無色透明のフィルムで、リールに100m巻いたものを単位としている。
 線量測定は、放射線照射による波長280nmの光の吸光度の増加が吸収線量に比例することに基づいている。吸光度の増加が線量に正比例するという特性は他のフィルム線量計ではなかなか見当たらない大きな特長である。また、形状が長いテープ状になっており、線量分布測定がし易くなっていることも特長といえる。図1には電子線及びガンマ線照射に対する吸収線量と厚さ125μm当たりの吸光度変化との関係を示す。


図1 The relation between the increment of optical density △A/0.125mm at 280 nm and dose in CTA by electron and γ-ray irradiation. The △A values were determined 2h after irradiation. ○ : electron irradiation (dose rate : 109 rad/h, temperature: 15 ℃, relative humidity : 60%), ● : γ-ray irradiation (dose rate : 106 rad/h, temperature : 25℃, relative humidity : 50〜60%).(原論文3より引用。 日本原子力研究所のご承認に基づき、JAERI-M, 82-033 (1982), 図9 (Data source 3, pp.9)から転載したものです。)

ここに示すようにガンマ線照射の場合の方が単位線量当たりの吸光度変化量(K値と定義する)は大きくなる(1Mrad(10kGy)当たり、ガンマ線;0.081、電子線;0.063)。このガンマ線と電子線照射に対する感度の違いは線質によるものでなく、両者の照射で一般的に異なる線量率によるものであることが明らかとなっている。その他、照射してからの経過時間に対する吸光度の変化、照射中の温度や湿度の影響等について明らかにされており、特に電子線照射のような高い線量率領域では温度、湿度の影響が小さく、従ってこのCTA線量計は電子線照射の場合に適した線量計といえる。
 この線量計の吸光度の測定は、一般の紫外分光光度計で行うことができるが、このCTA線量計用に開発され、市販されているFDR-01(日新ハイボルテ−ジ(株))という装置の使用が便利である。FDR-01は光源より発生する279.5nmの線スペクトル光を取り出して用いており、常に一定波長での測定ができ、短冊状に切った試料の測定や長いテープを連続的に移送することによる分布測定が行え、また可搬式である。
 このCTA線量計の放射線照射による着色機構についての検討も行われた。この着色は照射中に生じる安定成分と不安定成分、及び、照射後の着色とからなる。照射中の着色のうち、安定成分はCTA/TPPの放射線分解生成物によるもの、不安定成分はCTAから生成するラジカルによるものと考えられる。また、照射後の着色(2次着色)は空気中での照射によって生成するNO2とCTA及びTPPとの反応生成物によるものであると考えられている。
 この照射後の着色は短時間の電子線照射の場合は無視できるほど小さく、長時間となるガンマ線の場合は、照射中でもこの2次着色がかなり進むことによる寄与が大きくなり、これが線量率依存性やガンマ線照射の場合に温度や湿度の影響を受けやすくなることの説明となり得る。
 CTA線量計は上記のように実用線量計として優れた特性を有しており、この利用分野を拡大するための研究も行われた。0.15〜0.3MeVの低エネルギー電子線照射の場合への利用のため、厚さ方向の分解能を高めることをねらった薄いフィルムの開発研究もその一つである。
 FTR-125と同じ組成で単に薄くしたのでは感度の低下を招き、一方TPPを増量し過ぎると混ざりきれずに析出してしまう。検討の結果TPP含有量30%で厚さ30μmが最適であることを見出した。これによりFTR-125に比べ、厚さ方向の分解能を4倍高めることが可能となった。
 ま、た電子線やガンマ線以外に、イオンビーム照射に対する利用も検討されるようになり、FTR-125と共に薄いCTA線量計を用い、線量計としての特性研究や試料内の線量分布評価への応用研究が始まっている。

コメント    :
 既に、CTA線量計は放射線加工レベルの実用線量計として、特に中、高エネルギー電子線照射の場合に広く用いられている。これは広い範囲で線量と照射による吸光度変化量が正比例すること、温度、湿度の影響を受けにくい事などの優れた特性を持ち、線量分布等の測定が容易に可能なテープ状であるためと考えられる。現在、イオン照射に対する応答特性も明らかにされつつあり、更に利用範囲が拡がることになろう。

原論文1 Data source 1:
CTAフィルム線量計の着色機構
松田光司、永井士郎
日本原子力研究所
JAERI-M, 8471, (1979)

原論文2 Data source 2:
Properties of Cellulose Triacetate Dose Meter
N.Tamura, R.Tanaka, S.Mitomo, K.Matsuda and S.Nagai
Japan Atomic Energy Research Institute
Radiat. Phys. Chem., Vol.18. No.5-6, 947-956 (1981)

原論文3 Data source 3:
CTA線量計マニュアル
田中隆一、三友昭市、須永博美、松田光司、田村直幸
日本原子力研究所
JAERI-M, 82-033 (1982)

原論文4 Data source 4:
Thin Cellulose Triacetate Film Dosimeter
H.Sunaga, R.Tanaka, T.Sasaki and K.Yoshida
Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, Japan Atomic Energy Research Institute
Proceed. Conf. on Radiation Curing Asia (CRCA '88), p.385-390, Tokyo, Japan (1988)

キーワード:放射線、放射線加工処理、線量計測、線量計、フィルム線量計、三酢酸セルロース線量計
radiation, radiation processing, dosimetry, dosimeter, film dosimeter, cellulose triacetate dosimeter
分類コード:040302, 040102, 040104

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