放射線利用技術データベースのメインページへ

作成: 1997/08/07 三戸 美生

データ番号   :040079
CdTe放射線検出器
目的      :医療及び工業計測用放射線検出器の開発とその応用
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :241Am
利用施設名   :神戸大学医学部QR装置
照射条件    :大気中
応用分野    :線量計測、エックス線診断、非破壊検査

概要      :
 CdTe放射線検出器はSiやGeに比較して、実効原子番号が高く、エックス線やγ線の検出効率が高い。近年、結晶育成制御技術の向上により、大型で均質な結晶の製作が可能になってきた。さらに電子と正孔の移動度の差が大きく、スペクトル測定に課題があったが、デジタル信号処理技術の発展により、高分解能が得られるようになった。
 これらの技術により、高度な放射線計測が医療や工業計測の分野で可能となった。

詳細説明    :
 CdTeはエックス線又はガンマ線検出器として室温で使用でき、検出効率がシリコンに比べて飛躍的に向上できる化合物半導体として最近注目され、線量計測やアレイ状に加工してエックス線画像診断に応用されている。ここでは、高品質CdTe単結晶の製造、その放射線検出器としての特性、及び画像用検出器としての応用等に関する最近の開発動向を概観する。


図1 Energy spectra of 2X2X1.2mm CdTe: Cl detectors which were fabricated from the same crystal but have different thermal histories.(原論文1より引用)

 THM(Travering Heater Method)により成長させたCdTe結晶にさらに熱処理を施して得られるCdTe素子のエネルギースペクトル(241Amγ線源)を図1に示す。抵抗は共に2×109Ωcmである。成長を終了し急冷後に380℃でアニールして高抵抗化した結晶から得られるスペクトルa)は、もう一度成長温度から徐冷し直して同じ380℃でアニールすると、b)のように改善される。
 as-grownのインゴットから作製した素子の特性は不十分であり、成長方向にも大きく変化する。これは、as-grownインゴットの熱履歴が放射線検出器用素子としての特性を引き出すには最適でなく、インゴットの場所により冷却履歴が異なっていることに起因している。この問題の解決のために成長温度からの徐冷が効果的である。
この技術の結果、高品質かつ大型(直径50mm)の半絶縁性CdTe単結晶が供給されるようになった。


図2 CdTeポケット線量計の構成とエネルギー応答特性.(原論文2より引用。 (社)応用物理学会及び著者のご承認に基づき、馬場末喜、応用物理、第65巻、第10号 (1996)、図5 (Data source 3, pp.1049)から転載したものです。)

 放射線の線量計測では、物質の吸収線量を測定することによって線量当量を測定するため、検出器材料は原子番号が7に近い生体等価な材料が優れた材料として開発が進められていた。しかし、原子番号がそれより大きいCdTeはエックス線のエネルギー測定に優れており、線量計への応用が可能である。
 光子の計測による線量計測においては、エックス線、γ線の光子数と線量とのエネルギー依存性に合致するように、まず検出器の量子効率のエネルギー応答特性を合わせる。エックス線領域の感度を最適化するためにPbのシールドを配置するとともに200keVをディスクリレベルとして高エネルギーと低エネルギーに分離してこれらから得られる特性を合成することによって60keVから6MeVまでのエックス線、γ線を±20%の誤差で測定することが出来る。
 この検出器は1×1×0.3mmと非常に小さいため、例えば警報付きポケット線量計に応用されている。CdTeポケット線量計の構成とエネルギー応答特性を図2に示す。
CdTe検出器の容積を大きくすることにより、同様の構成で小型で高性能なサーベイメータなどにも応用できる。


図3 Schematic view and a photograph of the 256-channel detector module.(原論文3より引用)

 CdTeは検出器の微細化が可能であるため、これをアレイ状に並べることにより、画像用検出器として応用できる。特にエックス線に対してはCdTeは非常に吸収効率が高く、電流出力による画像検出器として用いられるが、最も特徴ある方法はX線光子を個々に検出して各画素信号を直接デジタル信号とするエックス線量子計数受像方法である。
 株式会社島津製作所はマルチチャンネルCdTe放射線検出器を高密度実装技術を用いてQR(Quantum Radiography)装置を開発し、神戸大学医学部にて胸部の臨床撮影を行い従来のエックス線フィルム式と比較している。その結果、全体的に画質が鮮明であり、特に肺野及び横隔膜・心臓に重なる部位での画質に優れていた。使用している検出器は幅32mm×全長55mmのセラミック配線基板上に64×4=256チャンネルの検出器モジュールとして構成されている。その概略図と写真を図3に示す。QR装置ではこの検出器モジュールを12個並べて、768チャンネル×4列のマルチラインセンサーユニットを形成している。セラミック基板の端から、第1列目に16×4チャンネル(チャンネルサイズ0.5mm角)のCdTe素子が4個並び、第2列目、第3列目には、それぞれ32チャンネル分を集積した8個のアンプIC、コンパレータICが並んでいる。そして中央付近には、64チャンネル分を集積した4個のカウンタICが配備されている。これらのICの実装はハンダバンプ等の高密度技術が活かされている。

コメント    :
 CdTeはエネルギー分解能はSi(Li)やGe(Li)等には及ばないが、小型化を目的とする種々の応用が期待される。特に1次元センサアレイや2次元センサマトリックスとして小型高性能な装置を実現できる結晶として今後大いに応用されると考えられる。

原論文1 Data source 1:
放射線検出素子用高品質CdTe単結晶の開発
大野良一、船木稔、尾崎勉
(株)ジャパンエナジー・総合研究所
放射線, Vol.22, No.3 (1996) p.9-18 

原論文2 Data source 2:
CdTe放射線検出器と最近の進展
馬場末喜
松下産業機器(株)・電子機器事業部
応用物理, 第65巻 第10号 (1996) p.1047-1051

原論文3 Data source 3:
マルチチャンネルCdTe放射線検出器とその応用
佐藤賢治、徳田敏、足立晋、井上尚明、浮田昌昭、石田進一郎、佐藤敏幸、喜利元貞
(株)島津製作所・基盤技術研究所
放射線, Vol.22, No.3 (1996) p.53-62

キーワード:CdTe、線量計、THM、放射線検出器
cadmium telluride, dosimetry, travering heater method, radiation detector
分類コード:030103,040301,040302,040305

放射線利用技術データベースのメインページへ