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作成: 1997/12/04 小嶋 拓治

データ番号   :040075
熱量計(カロリメータ)
目的      :熱量計による放射線計測
放射線の種別  :ガンマ線,電子,軽イオン
放射線源    :不特定
線量(率)   :102-104Gy
利用施設名   :線形加速器(8-50MeV、パルス)、日本原子力研究所2号加速器(1-3MeV、max.25mA)
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :放射線標準計測、放射能標準測定、荷電粒子線のエネルギーフルエンス測定

概要      :
 比熱が既知である吸収体における、放射線照射による温度上昇を測定し、吸収エネルギーを測定するという、最も直接的な吸収線量の測定法である熱量計(カロリメータ)について、特に電子線を対象として概説する。井戸型容器内で放射性同位元素の放射能の絶対測定に用いられることもある。

詳細説明    :
 熱量計は、水、グラファイト、アルミニウム、ポリスチレン等熱容量が既知である吸収体の放射線照射による温度上昇を用いた、吸収エネルギー(吸収線量)の計測器である。他の物理的・化学的放射線計測器と異なり、原子核反応や放射線化学反応による発熱/吸熱が既知あるいは無視できる場合は、物質に吸収された放射線エネルギーのほとんどの部分は、最終的には熱エネルギーの形で物質中に堆積するので、熱量計は最も直接的な吸収エネルギー(線量)の測定法といえる。また、測定量が粒子のエネルギー、吸収線量率、吸収体の温度等にも影響を受けない特徴がある。
 しかし、実際の取り扱いでは、微小の温度上昇の高精度測定に必要な厳密な断熱状態を作ることが非常に困難であることなどから、主として絶対的な線量測定や基準あるいは実用線量計の校正に用いることが多い。ただし、高線量率の電子線や荷電粒子線等については、熱損失が少なく十分大きい温度上昇が見込まれ、吸収体を絶縁体で包む比較的簡単な(準)断熱状態で応用が期待できる。
 こうした準断熱式の熱量計には、吸収体の厚さが放射線の飛程より小さくとった部分吸収型、及びそれより大きくとった全吸収型があり、一般的にはそれぞれ高エネルギー及び低エネルギーの荷電粒子線により適している。


図1 NIST large graphite disk calorimeter.(原論文1より引用。 Reproduced from Radiat. Phys. Chem., Vol.35, 744-749 (1990), J.C.Humphreys, W.L.McLaughlin: Calorimetry of Electron Beams and the Calibration of Dosimeter at High Dose, Figure 1 (Data source 1, pp.745), Copyrighyt (1990), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

 部分吸収型の例として、米国立標準技術研究所(NIST)で用いている4〜12MeV電子線用熱量計の構造を図1に示す。中心の直径30mmの吸収体(グラファイト、密度1.70g/cm3、熱容量Cp=632+3.35T J/(kg・℃))は、側壁における電子の散逸や入射に関する平衡条件を満たすように同じグラファイト製のリングに囲まれており、さらに発泡プラスチックの絶縁体で周囲を囲っている。吸収体には、電子エネルギーに応じて飛程の約1/3にあたる厚さ0.5〜1.4mmのものが数種用意されている(参考資料1)。熱センサーには直径2mm長さ4mmのサーミスタを用いており、熱測定の全体の不確かさは±0.4℃である。


図2 Cross-sectional view of total absorption calorimeter. Dimensions in mm.(原論文2より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from The proceedings of the international symposium on high-dose dosimetry for radiation processing, 5-9 Nov., 1990, International Atomic Energy Agency, STI/PUB/846(IAEA, Vienna), p.189-201 (1991), Figure 5 (Data source 2, pp.196).)

 全吸収型の例として、原研高崎研で使用している1.0〜5.5MeV電子線用熱量計を図2に示す。構造は上記のものと類似しているが、グラファイト吸収体(密度1.86g/cm3、熱容量Cp=641+3.35T J/(kg・℃)、直径20mm、厚さ12〜20mm)と先端が1mmφのサーミスタを用いている。静止状態の使用ではなく,主として走査ビーム(例えば幅60cm)で形成された照射場をコンベア(例えば4m/min)を用いて移動しながら測定することを目的として設計されている。このため、斜め入射する電子に関する考慮から、吸収体とリングと間隙を加工可能な最小値0.25mmにしていること、後方散乱の影響を最小にするために底部にポリマーシートを入れてあること等の特徴がある。 
 熱量計と粒子フルエンス測定に用いるファラデーカップを同時に用いた場合(あるいは粒子フルエンスが既知の場合)、熱量計で測定されたエネルギーフルエンスΨ(MeV/cm2)及びファラデーカップで測定された粒子フルエンスΦ(/cm2)は以下の式で表される。
 
  Ψ=(Cp・ΔT・m)/1.602x10-19xS1(1-ξe)(1-σ)   (1)
  Φ=q/1.602x10-19xS2(1-ξn) (2)
 
ここで、Cpは熱容量(J/(kg・℃))、ΔT(℃)は温度上昇量、mは熱量計の吸収体の実効質量(kg)、S1及びS2はそれぞれの計器の吸収体の実効面積(cm2)、qは測定された電荷量、ξe及びξnはエネルギー及び粒子数の後方散乱係数、σは制動放射生成の係数である。この両者から、入射粒子の平均エネルギーE(MeV)は次式で表される。
 
  E=Ψ/Φ=(Cp・ΔT・m)S2(1-ξn)/S1(1-ξe)(1-σ)  (3)
 
吸収線量Dは質量衝突阻止能の値Sを用いて、例えばD=E・S等により求めることができる。
 また、例えば、着色が線量に正比例するフィルム線量計(厚さzi)をi層積層して熱量計と同時に照射すると、着色量(ΔODi)の積分値Σ(ΔODi)ziは熱量計で測定した全吸収エネルギーに等しいので、両測定値から線量換算係数を求めること(校正)が可能である。

コメント    :
 熱量計は絶対測定が可能な計測器ではあるが、高精度を得ようとすると取り扱いが相当面倒である。熱量計の市販品はなく、使用条件に応じて設計製作する。このためかなりの経験を必要とする。ここでは比較的容易な電子線を対象とした熱量計について述べたが、十分な温度上昇が期待できる荷電粒子(イオン)ビーム等へも応用が可能である。

原論文1 Data source 1:
Calorimetry of Electron Beams and the Calibration of Dosimeter at High Doses
J.C.Humphreys and W.L.McLaughlin
National Institute of Standards and Technology, Gaithersburg, MD20899i, USA
Radiation Physics and Chemistry, Vol.35, p.744-749 (1990)


原論文2 Data source 2:
A Simultaneous Electron Energy and Dosimeter Calibration Method for an Electron Beam Irradiator
R.Tanaka, H.Sunaga, T.Kojima
Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment, 1233 Watanuki, Takasaki, Gunma, 370 Japan
The proceedings of the international symposium on high-dose dosimetry for radiation processing, 5-9 Nov., 1990, International Atomic Energy Agency, STI/PUB/846(IAEA, Vienna) , p.189-201 (1991)

参考資料1 Reference 1:
Standard Practice for Use of Calorimetric Dosimetry Systems for Electron Beam Dose Measurements and Dosimeter Calibration
ASTM Committee E-10 on Nuclear Technology and Applications
American Society for Testing and Materials, 100 Barr Harbor Drive, West Conshohocken, PA 19428, USA
1997 Annual Book of ASTM standards, Vol.12.02, Nuclear(II), Solar, and Geothermal energy, E-1631-96 (1997)

キーワード:熱量計、吸収線量、エネルギーフルエンス、標準線量計、校正
calorimeter, absorbed dose, energy fluence, standard dosimeter, calibration
分類コード:030603,030701,040302

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