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作成: 1997/11/25 小嶋 拓治

データ番号   :040073
電離箱式照射線量率計
目的      :吸収線量評価を目的とした照射線量率の測定
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線,電子
放射線源    :主として60Co線源(1.85x109MBq(原研)、1.11x108MBq(電総研))
線量(率)   :5.16x10-3 - 2.58x10-2C/kg/h
利用施設名   :日本原子力研究所高崎研究所60Coガンマ線施設、電子技術総合研究所60Coガンマ線大線量率照射室
照射条件    :大気中、室温(22゜C付近)
応用分野    :放射線防護線量の計測、放射線治療線量の計測、放射線加工線量の計測、標準線量計

概要      :
 放射線照射によって電離箱の空洞内で発生する電離電流(電荷)を計測することを利用した電離箱線量計は、簡便かつ精度の高い方法として広く吸収線量評価に用いられており、日本の国家標準器(電総研所有)もこの型式である。線源形状や照射線量率範囲等の目的に応じて、空気等を媒質とした円筒(指頭)型や平行平板型等の気体電離箱と、半導体を媒質とした円筒型の「固体の電離箱」が用いられる。

詳細説明    :
 主として空気電離箱に関して、その構造、測定法、及び応用について概説する。
図1は、標準電離箱を例として、空洞内の空気が外気と流通している自由空気電離箱の基本的な構造を示す。


図1 平行平面板の自由空気電離箱(原論文1より引用)

断面積Sの円形コリメータを通過したX線は50〜100V/cmの直流電圧をかけた平行平面板A,Bの間を通り抜ける。空気との相互作用によって発生した二次電子は図中のe1,e2,e3のように線束の内外に進み、その飛跡に沿ってイオン群を作る。二次電子の及ぶ範囲は線束の端から、二次電子の最大飛程R以内の空間である。下側の電極3つのうち外側の2つは接地されている保護電極であり、中央にある面積Cの電極範囲での電気力線を電極に垂直にするためである。
 上部電極に-Vの電圧をかけたとき、正及び負の電荷のイオンはそれぞれ上部及び下部の電極に引き寄せられ、底面積cの両極板に挟まれた体積efgh(点線で囲まれた体積)内の全てのイオンが中央の集電極Cに集められ、これを精密な微小電流計または校正済みコンデンサを使用した電位計で測定する。斜線内(abcd)で発生した二次電子でもe2のようにefghから外へ逃れるもの、逆にe3のようにabcd外で発生してもefgh内でイオンを作るものがあり、これらの寄与が等価となる二次電子の平衡(electron-equilibrium)状態が成り立つことが必要である。
 コリメータの位置から電離箱中心までの空気におけるX線の吸収が無視しうると仮定すると、コリメータ位置における照射線量率Xは、50keV〜3MeVの光子について、
 
   X=(Q/ρSLt)x(1/2.58x10-4) [R/h]     1R=2.58x10-4C/kg/h
 
で与えられる。ここで、Qはt(h)時間で集められた電荷(クーロン)、ρは空気の密度、Sはコリメータの大きさ、Lは集電極と保護電極の隙間の中心間の距離である。
 実際の測定にあたっては、コリメータと電離容積中心との距離間(Dc-Ds)の空気層における吸収に関する補正項eμ(Dc-Ds)や次式で表される大気補正が必要である。

   R=[M(T+273)/273]x(760/P)
 
ここで、R:補正した値、M:電離箱による測定値、T:測定時の温度、P:測定時の大気圧、である。
 この原理に基づく空気電離箱(Al壁)として、放射線防護及び治療分野では指頭型電離箱(thimble chamber,0.006〜60ml)、放射線加工分野では平行平板型電離箱(Parallel-plate chamber,0.3ml)が実用的に用いられている。両者ともに電離箱の壁厚、測定対象の部位に対応した空洞の大きさの選択に注意を要するが、放射線治療分野では市販されている電離箱を利用できる。
 パノラマ状線源を用いたMR/h付近の高線量率の照射場については、kR/h付近で校正した市販計器をそのまま使用することはできないため、平行平板型電離箱の開発(JPC-6)が原研で行われた(原論文2及び参考資料1)。またこの電離箱JTC-6と電総研の電離箱(PC-B)との相互比較により電離箱の柄(ステム)や接続ケーブル等の照射効果、電荷の捕集効率(イオンの再結合損失)等の考慮すべき問題点の抽出とその補正法の検討等がなされた。この結果、図2に示すように放射線加工分野で必要な数10-106R/hの線量率範囲で原研と電総研の電離箱による測定値の比率は±1%のばらつき内で一致し、高線量率域についても電離箱による測定が有用であることが示された。


図2 Comparison of the measured values between the JTC-6 and PC-B chambers in the high exposure rate region in the JAERI(see Fig.3). (○= the ratio of exposure rate values calibrated with JTC-6 to those calibrated with PC-B; ●=the ratio of exposure rate values absorutely determined with JTC-6 to those calibrated with PC-B.)(原論文2より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Proceedings of an international symposium on high-dose dosimetry, ( International Atomic Energy Agency, Vienna, 8-12 Oct., 1984), STI/PUB/671, p.203-220 (1985), IAEA-SM-272/17, Figure 10 (Data source 2, pp.217). )

 実際の吸収線量評価では、次式を用いて照射線量率から対象物質の吸収線量率に換算する必要がある。
 
   Dm=0.873[(μen/ρ)m/(μen/ρ)air]Xfa

ここで、Dm:対象物質の吸収線量率、(μen/ρ):空気あるいは対象物質の質量エネルギー吸収係数、X:照射線量率、及びfa:物質表面から物質内の対象部位までの減衰の補正(<1)である。
 CdTe放射線検出器のように放射線による半導体中の電子-正孔対生成を利用した「固体の電離箱」もある。一般的には、気体電離箱に比べて、時間分解能が高い、放射線損傷を受けやすい、温度依存性がある等の特徴がある。

コメント    :
 吸収線量の絶対測定法として熱量計(カロリメータ)がある。しかし、測定器の取り扱いが非常に難しいため、多くの補正を必要とするが簡便な電離箱式照射線量率計がこれに代わり広く用いられている。使用にあたっては、システム一式を定期的に国家標準器で校正する必要がある。これら物理的な計測器は高精度計測が可能であるが、線量分布測定やトランスファー線量測定等には適さず、この目的には放射線による着色を利用したポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計、三酢酸セルローズ(CTA)線量計やアラニン線量計などが用いられる。

原論文1 Data source 1:
第5章 X(γ)線の測定法 II.照射線量の測定法
岡島 俊三
長崎大学
医学放射線物理学(南山堂、東京), p.123-141 (1980)

原論文2 Data source 2:
Standard mesurement of processing level gamma ray dose rates with a parallel-plate ionization chamber
R.Tanaka, H.Kaneko, N.Tamura, A.Katoh*), Y.Moriuchi*)
Japan Atomic Energy Research Institute, Takasaki Radiation Chemistry Research Establishment(1233 Watanuki, Takasaki, Gunma, Japan), *)Electrotechninical Laboratory(1-1-4 Umezono, Tsukuba, Ibaraki, Japan)
Proceedings of an international symposium on high-dose dosimetry,(International Atomic Energy Agency, Vienna, 8-12 Oct., (1984)), STI/PUB/671, p.203-220 (1985)

参考資料1 Reference 1:
電離箱によるγ線大線量率測定の相互比較および問題点の検討
田中 隆一、河合 視己人、田島 訓、田村 直幸、加藤 朗*)、山地 馨、直井 次郎*)、森内 和之*)
日本原子力研究所高崎研究所(群馬県高崎市綿貫町1233)、*)電子技術総合研究所(茨城県つくば市梅園1-1-4)
JAERI-M, 6364 (1975)

キーワード:電離箱、照射線量率、自由空気、電流(電荷)測定、相互比較、吸収線量
ionization chamber, exposure-rate, free-air, current(charge) measurement, intercomparison, absorbed dose
分類コード:030701,040302

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