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作成: 1997/12/20 井上 信

データ番号   :040072
小型電子線照射装置と電子線源
目的      :電子ビームプロセシング用の小型電子照射装置と電子線源の開発
放射線の種別  :電子
放射線源    :電子加速器(200kV-900kV, 10mA-200mA)
線量(率)   :5MGy・m/min
利用施設名   :日新電機変圧器型照射装置、電気興業高周波型照射装置、住友重機エミッション型電子銃
照射条件    :空気中
応用分野    :材料照射、製品照射、

概要      :
 被覆電線や自動車タイヤ等の生産において大規模な電子線照射装置が使われてきたが、最近小規模生産用や研究用に小型の電子線照射装置の必要性が高まってきた。日新電機では変圧器型の照射装置を小型化した。電気興業では高周波加速の原理を採用して小型の照射装置を開発した。一方、住友重機では、従来の電子銃を使わず、二次電子放出型の電子線源を開発し広い幅のビームを作ることに成功した。

詳細説明    :
 電子線照射は1960年代に高分子の架橋、重合など工業的に利用されるようになり、大量生産に使われるようになっている。しかし、工業生産においてもそれほど大規模な照射を必要としない場合もあり、また試験・研究的な用途も多く、コンパクトな装置で効率の良いものが必要とされる。このような要望に対応した例として、日新電機では変圧器型の電子線照射装置を小型化した。
 図1に構成機器を示す。


図1 構成機器(原論文1より引用)

整流回路のコンデンサ容量を小さくするために、入力電源の周波数は高周波を採用している。二次側の整流回路はグライナッヘル倍電圧回路を用い、カスケード接続して高電圧を得ている。電子銃は通常よく使われるスパイラル型のフィラメントを使用している。加速管はアルミ合金の電極板と耐熱ガラスの円筒を交互に重ねて接着したものである。定格加速電圧と電流は、500kV, 20mAであり、8時間連続運転しても加速電圧、電流ともに2%以内の平坦度が得られている。
 一方、直流高電圧よりも高周波の高電圧の方が放電しにくいという性質を利用して200MHz程度の高周波電場で電子を加速する照射装置が電気興業で開発された。図2にその概念図を示す。


図2 横型電子線照射装置(ES)概念図(原論文2より引用)

加速空洞は両端の板からステムが挿入されている円筒共振器となっている。電子銃から出た電子ビームはステム内のバンチャーで加減速されて加速ギャップに来るまでに一定位相に集められるので、高周波で加速してもエネルギーの広がりは、直流加速器よりは大きいが、5%以下におさまっている。高周波電力の供給方式はいわゆる自励式にしてシステムを簡素化している。加速された電子ビームは偏向電磁石で曲げられ、さらに走査電磁石でビームが引き出し窓の一部に集中して破壊されずまた試料に均等に照射できるようにスキャンされる。300kVのときに平均電流は10mAである。
 以上はいずれも電子線源としては通常のフィラメント型の電子銃を用いているが、住友重機では、二次電子放出型の広い面積に電子が出てくる電子線源を開発した。
 図3にその概念図を示す。


図3 Electron gun arrangement. Helium gas is supplied through a gas-inlet. A shield cover completely surrounds the gun and irradiation chamber. |Reproduced from Vacuum, Vol.47, No.6-8, 613-616 (1996), H.Suezawa, H.Morimoto, Y.Kumata, H.Saito, K.Sinani: Large-area secondary emission electron gun,Figure 1 (Data source 3, pp.614), Copyright (1996), with permission from Elsevier Science.(原論文3より引用)

ハチの巣状のグリッドで仕切られたプラズマ発生用の部屋と、二次電子を発生する冷陰極のある部屋があり、プラズマチェンバー側にはヘリウムガスをいれて17mTorrで放電させる。放電を発生させるためにはパルス的に負の電圧をかけるタングステンのフィラメントを置いてある。パルス幅は500マイクロ秒、繰り返しは1800Hzまで可能である。プラズマチェンバー中に正の電圧のワイヤがあり、イオンは加速されてグリッドを通り抜け、さらに加速されて冷陰極に衝突し二次電子を発生する。このカソードはモリブデンでできていて、250kVの負の電圧がかかっており、二次電子はイオンとは逆方向に加速されてグリッドを抜けプラズマチェンバーを通って薄膜の窓を抜けて大気中に出て材料を照射する。平均電流は200mAに達しビーム幅は65cmで均一性は5%である。照射量(Gy)と材料の移動速度(m/min)を掛けたプロセシングの能力は5MGy・m/minである。 

コメント    :
 小型化は重要であるが、電圧が高くなるとX線が発生しやすくなるので遮蔽に関する配慮も重要になる。この点では、電力効率はやや落ちるが、共振空洞が遮蔽壁にもなる高周波型は便利であろう。直流より高周波の方が照射効果が大きいという実験結果があるようであるが、パルス的に強い照射が良いのであれば、二次電子型の電子銃についてもパルス幅と繰り返しを変えて試験をするとおもしろいかもしれない。

原論文1 Data source 1:
変圧器型電子線照射装置
星 康久、林 啓三、麻生 神治、杉田 達信
日新電機
日新電機技報、vol.40, No.2, 33-37 (1995)

原論文2 Data source 2:
高周波加速方式小型電子線照射装置の紹介
小寺 正俊
理化学研究所
放射線化学、第60号、p.41-43 (1995)

原論文3 Data source 3:
Large-area secondary emission electron gun
H.Suezawa, H.Morimoto, Y.Kumata, H.Saito and K.Sinano
Quantum Equipment Center, Sumitomo Heavy Industries, Ltd., Tokyo 141, Japan
Vacuum, Vol.47, No.6-8, 613-616 (1996)

キーワード:電子銃、照射、電子ビームプロセシング、electron gun, irradiation, electron beam processing
分類コード:040102,010101,010205

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