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作成: 1997/10/29 井上 信

データ番号   :040069
廃棄物処理と中性子利用のための加速器
目的      :核エネルギー問題に対する加速器の役割
放射線の種別  :陽子,中性子,重イオン
放射線源    :陽子加速器(1.5GeV,50mA)など
フルエンス(率):1015-1016n/cm2・s
利用施設名   :日本原子力研究所、ブルックヘブン国立研究所、ロスアラモス国立研究所
照射条件    :密封容器中
応用分野    :核燃料廃棄物処理、エネルギー生成、中性子利用研究

概要      :
 原子力発電所より排出される燃料廃棄物は地中に保管されているが、非常に長期にわたり保管しなければならない。そのリスクを減らすために、高速の中性子を当てて、原子核を転換し、より短寿命の原子核にする方法が考えられている。このためには、例えば1.5GeV-10mA程度以上の大強度の加速器が必要になる。このような加速器と未臨界集合体とを組み合わせれば、エネルギー源ともなる。また研究用の中性子源としても有用である。

詳細説明    :
 原子力発電所のための核燃料サイクルの問題は極めて重要である。最近軍事用のプルトニウムが大量に出てきたこともあって、従来の燃料廃棄物の問題に加えてこれの消滅と利用が問題になっている。プルトニウムに代わる、より兵器利用の困難な核燃料としてのトリウムサイクルも話題になっている。このような状勢に中で、加速器の役割が注目されている。なかなか現実の舞台に上がらなかった、加速器による消滅処理が再び注目され始めたのは、このような状勢と、加速器技術の向上で大強度の加速器の可能性が増したことがその原因である。
 ブルックヘブンでは、早くから加速器を利用したトリウムサイクルの研究がなされてきた。トリウムに加速器で発生する中性子を当てて、ウラニウム233を作りこれを燃料とする原子炉を作れば、長寿命のアクチナイドの生成が少なく、廃棄物としてプルトニウムサイクルのものより保管のリスクが少ない。さらにこの方式ではやや高いエネルギーのガンマ線がともなうので兵器には使いにくいということも、核拡散防止上有利である。一方、核分裂生成物については処理が困難なので、高周波四重極(RFQ)型線形加速器でこれらのイオンを1keV程度に加速して、地球の磁場に束縛されないように中性にして宇宙に放り出すという提案をしている。
 ロスアラモスでは長寿命の廃棄物をただ消滅するのではなく、熱中性子束の大きい状況下で廃棄物を照射すれば、使った中性子よりも多くの中性子が出てきてエネルギー源にもなるのではないかと期待している。例えば、Np237の場合を図1に示す。


図1 Diagram illustrating two-step process for thermal burning of threshold fissioning actinides. The upper branch dominates at low fluxes.(原論文1より引用)

この場合、熱中性子束が弱いとNp237はPu239になって、核分裂し、2.7個の中性子を発生するが、このために3個の中性子を消費している。一方、中性子束が強いとプルトニウムに崩壊する前に中性子を吸収して核分裂を起こし、2.7個の中性子を発生するが、このために2個の中性子しか消費していない。したがって、中性子を得するわけである。このシナリオがうまく行くかどうかはより詳しい解析と実験データが必要である。うまく行けば廃棄物の消滅だけでなく、発電までできて、加速器を運転する電力に使ってもおつりが来るというわけである。
 そのシステムとしては図2のようなものが提案されている。


図2 The accelerator-driven energy production and transmutation of waste system(ATW).(原論文2より引用)

このようなシステムに使われる加速器として、ロスアラモスのグループはかれらのLAMPFという800MeVの陽子加速器の経験をもとに、次のような構成を提案している。まず350MHzで運転する125mAのRFQ型とアルバレ型(DTL)の線形加速器で陽子を20MeVまで加速する。このシステムを2台つくってビームを合流し、250mAにする。そのうえで700MHzで運転するアルバレ型線形加速器(DTL)で40MeVまで加速する。そして最後に、このビームを同じく700MHzで運転する結合空洞型線形加速器(CCL)で1600MeVまで加速するのである。このような大強度加速器はまだ実現していないので加速器技術の面からも挑戦的なものである。
 日本原子力研究所でもこのようなシステムの開発研究が行われている。当初は廃棄物処理と発電が主であるOMEGA計画として知られていたが、最近では中性子物理学、中間子およびミュオンの科学、短寿命核ビームの生成など広い研究分野を含む計画となってきている。その加速器の構成としては図3のようなものが提案されている。


図3 原研・大強度陽子加速器のレイアウト(原論文3より引用。 p.4)

ここでは高エネルギー側の加速管構造が超電導で考えられている。

コメント    :
 核燃料廃棄物の処理方法として加速器によるものが、地中に保管するよりもすぐれているかどうかは自明ではない。トリウムサイクルを採用して長寿命の放射性廃棄物ができないようにすることに加速器を利用することは悪くないが、現状ではプルトニウム路線が政治的に固まっているので、実験的に積み上げて行かねばならないだろう。
 なお、従来研究用原子炉で行われた中性子利用研究が、加速器による中性子源と代わりつつあるので、この意味では確実に大強度の加速器の建設が望ましい。ただし、ここで提案されているような強度のものを作るためには、今後、基礎的なビームの物理の研究と加速器構成要素の技術開発が必要である。

原論文1 Data source 1:
Nuclear Physics Information Needed for Accelerator Driven Transmutation of Nuclear Waste
P.W.Lisowski, C.D.Bowman, E.D.Arthur, and P.G.Young
Los Alamos National Laboratory, Los Alamos, NM 87545 USA
LA-UR--91-1585(Los Alamos report), 1991

原論文2 Data source 2:
Advanced High Brightness Ion RF Accelerator Applications in the Nuclear Energy Area
R.A.Jameson
Los Alamos National Laboratory, Los Alamos, NM 87545 USA
LA-UR--91-2196(Los Alamos report), 1991

原論文3 Data source 3:
中性子科学研究計画の概要
鈴木康夫
日本原子力研究所
JAERI-Conf 96-014, pp.1-7(1996).

原論文4 Data source 4:
A New Role of Accelerator to Nuclear Energy
H.Takahashi
Brookhaven National Laboratory, Upton, NY 11973, USA
Progress in Nuclear Energy, Vol.29(supplement), pp.423-430 (1995).

キーワード:廃棄物消滅処理、中性子、エネルギー、加速器、incineration, neutron, energy, accelerator
分類コード:040103,040101

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