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作成: 1997/12/31 井上 信

データ番号   :040066
放射光におけるX線構造解析用ビームラインの技術
目的      :シンクロトロン放射光を利用したX線回折用のビームラインの技術
放射線の種別  :エックス線,電子
放射線源    :電子ビーム蓄積リング(2.5GeV, 230mAほか)
フルエンス(率):450W/mradなど
利用施設名   :高エネルギー加速器研究機構放射光施設、ブルックヘブン国立研究所シンクロトロン光源、グルノーブルESRF、ダレスベリ放射光施設
照射条件    :真空中、大気中
応用分野    :固体材料構造解析、たんぱく質構造解析

概要      :
 シンクロトロン放射光は輝度が大きいので従来のX線回折にくらべてはるかに精度の良いX線構造解析が可能になった。日本では高エネルギー加速器研究機構およびSPring-8がその代表である。ここでは放射光におけるX線回折用ビームラインの特徴と、いくつかの例について紹介する。

詳細説明    :
 X線構造解析は物質構造を調べる手段として古くから使われてきたが、最近シンクロトロン放射光のエネルギーが高くなり、X線領域の高輝度光が得られるようになってきて、さまざまな構造解析が放射光を用いて行われるようになってきた。X線領域の放射光ビームラインを備えているのは日本では高エネルギー加速器研究機構の放射光施設(PF)と西播磨のSPring-8である。放射光ビームラインの構成の例を図1に示す。


図1 放射光ビームラインの構成の例。モノクロメータ、ミラー、スリット、防X線ハッチなどの位置を示す。(原論文1より引用)

一般にシンクロトロン放射光は連続スペクトルなので単色光を取り出すために、モノクロメータが置かれる。2結晶モノクロメータは板状のシリコン単結晶を(111)面に平行に切り出したものが対になっていて入射光と1番目の結晶の結晶面とのなす角度(Bragg角)を変えて選び出す光の波長を変え、この単色光のビーム位置がずれないように2番目の結晶で入射光と平行な軸になるようにしている。高次光を取り除く工夫も必要に応じて行う。またシンクロトロン放射光は通常電子軌道面(水平面)に直線偏光しているので、そのための強度補正が必要であるが、この補正を省くために、回折・散乱面(入射線ベクトル、回折・散乱ベクトル、結晶面法線ベクトルを含む面)が水平面に対して垂直になるようにしてある。このことは従来の市販のX線回折計の走査面が水平であるのと対照的であるので注意が必要である。
 Brookhaven国立研究所のNational Synchrotron Light Source(NSLS)では、X線構造解析用のビームラインX25の設計にあたり特にモノクロメータの第1結晶の冷却について検討をしている。このビームラインは2.5GeVの蓄積リングのなかに、1.1Tの磁場の強さをもつ、27極のハイブリッド型ウイグラーを挿入している。このウイグラーはサマリウムコバルトの永久磁石とバナジウムパーメンジュールのポールピースでできていて、単位周期長は12cmである。臨界エネルギーは4.6keVで、ビーム電流が230mAのとき、ウイグラーから1.8kWの光が出る。そのときの密度は450W/mradである。リングから光が出てくる所の窓は0.25mmの厚さのベリリウムになっていて、その直前に窓での吸収による熱を避けるために、7枚の合計0.17mmの厚さのグラファイトの吸収体がある。この両方で波長の長い部分が除かれて、200W/mradのパワーになる。1番目の結晶は薄くて水冷した銅のブロックに張りつけてある。また、2番目の結晶はピエゾ電気で動く3個の真空中のモーターで角度を微調できる特徴がある。このラインはたんぱく質のラウエ法による結晶解析など多くの用途に使われる。 粉末回折法による多結晶材料の高分解能の研究にもシンクロトロン放射光は有用である。
 図2にはDaresburyの粉末回折のビームラインの例を示す。


図2 Schematic drawing of the powder diffractometer 2.3(previously 8.3) at Daresbury which exploits parallel-beam optics. The diffracted-beam collimators define rigorously the angle through which the photons have been scattered.(原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., Vol.B97, 63-69 (1995), A.N.Fitch,: High Resolution Power Diffraction Studies of Polycrystalline Materials, Figure 1 (Data source 3, pp.64), Copyright (1995), with kind permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

ここでは平行ビーム法が採用されている。サンプルと検出器の間にコリメータがあり、取り付け誤差などに対して影響を受けないようになっている。
一方、Grenobleの大型放射光施設ESRFではビームライン15が高分解能の粉末回折用のものとなっている。その概念図を図3に示す。


図3 Schematic drawing of the optical layout of the high resolution powder diffraction beam line built at ESRF, Grenoble. For kinetic measurements, it may be desirable to replace the Si(311) monochromater crystals with Si(111) or Ge(111). (原論文3より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., Vol.B97, 63-69 (1995), A.N.Fitch,: High Resolution Power Diffraction Studies of Polycrystalline Materials, Figure 5 (Data source 3, pp.67), Copyright (1995), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

その特徴は回折角度の精度の高いことで、装置による誤差は0.002度である。エネルギーは5-40keVでTiからUまでの元素のK端ないしL端まで測定可能である。エネルギー分解能は10keVのX線のときに1eVである。もし分解能を下げればミリ秒の速さで回折像を得ることができる。

コメント    :
 放射光施設が大型になりエネルギーの高いX線が使えるようになってきて、放射光によるX線回折は飛躍的に用途が広がるであろう。小角散乱による高分子の動的特性の時分割測定などはその一例である。高輝度になるに伴い、耐熱性の良いミラーの開発が重要である。

原論文1 Data source 1:
放射光による構造解析
岩崎 博
立命館大学理工学部、草津市野路町1917
まてりあ、Vol.35, No.4, 398-404 (1996).

原論文2 Data source 2:
Optical design and performance of the X25 hybrid wiggler beam line at the National Synchrotron Light Source
L.E.Berman, J.B.Hastings, T.Oversluizen, and M.Woodle
National Synchrotron Light Source, Brookhaven National Laboratory, Upton, New York 11973
Rev. Sci. Instrum., Vol.63, No.1, 428-432 (1992).

原論文3 Data source 3:
High resolution powder diffraction studies of polycrystaline materials
A.N.Fitch
ESRF, BP220, 38043 Grenoble Cedex, France
Nuclear Instruments and Methods in Physics research, Vol.B97, p.63-69 (1995).

キーワード:X線回折、結晶解析
X-ray diffraction, crystallography
分類コード:040105

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