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作成: 1997/09/15 井上 信

データ番号   :040064
放射光における高性能アンジュレータビームライン
目的      :高性能のアンジュレータとそれを用いる安定なビームラインの開発
放射線の種別  :電子,陽電子,エックス線
放射線源    :電子ビーム蓄積リング(2GeV, 6GeV, 7GeV, 100mA, 400mA)
フルエンス(率):1013photon/s at resolution of 10,000
利用施設名   :高エネルギー加速器研究機構放射光、バークレイALS、グルノーブルESRF
照射条件    :大気中、真空中
応用分野    :X線構造解析、放射光の高輝度化

概要      :
 シンクロトロン放射光の高輝度化のためにアンジュレータという挿入光源が開発されている。これは小型の磁石を交互に極性を変えながら直線状に数多く並べたものを、電子蓄積リングの直線部に挿入するものである。これにより特定の波長の光が強く発生する。またこのような高性能の光源になると、装置全体の安定度が保たれていないと鋭い光が標的以外の方向に進むことになる。したがって蓄積リングの安定性が問題になる。

詳細説明    :
 シンクロトロン放射を高輝度の光源として利用するために専用の電子あるいは陽電子ビームの蓄積リングを作りいわゆる放射光という装置が建設されてきた。普通には蓄積リングに使われる偏向磁石の所でビームが曲げられ光が発生するのを利用するが、最近の進んだ施設ではこのリングのいくつかの偏向磁石が並んでいる間の直線部にウイグラーとかアンジュレータとか呼ばれる挿入光源を設置し、偏向磁石の所からの光より強度の強い光を得るようになってきた。これらの挿入光源は磁石の極性を交互に変えたものを直線状に並べたものである。ウイグラーの場合は強い白色光を得ることを目的にしており比較的大きな磁石を数個並べるが、アンジュレータの場合は特定の波長の光を特に強く発生させるためのもので、小さな磁石を数多く直線状に並べる。ビームがこのアンジュレータの中で交互に曲げられるたびに光が発生するが、その発生点の並び方が一定のピッチになっているので光の波長との関係で常に光の強度を強めあうような波長のものがある。このような波長の光がアンジュレータからの強い光となる。これは当然特定の波長の光である。またその波長の整数倍のものも強い光となる。
 米国バークレイの放射光施設ALSのビームライン7.0は最新のアンジュレータによるビームラインの一つである。このアンジュレータは磁石の1周期が5cmの長さのものが89周期並んだものから成っている。また、そのギャップは23mmまで近づけるようになっている。発生する光子のエネルギーは60eVから1200eVである。このビームラインには球面格子のモノクロメータがあり、その前後に固定の入り口スリットと可動式の出口スリットが付いている。
 このアンジュレータビームラインのレイアウトを図1に示す。


図1 Layout of the optical components for ALS beamline 7.0, showing mirror lengths,radii and distances from the sources in meters. All optics are spherical or cylindrical. (原論文1より引用。 Reproduced from Rev. Sci. Instrum., Vol.66, No.2, 2037-2040 (1995), T.Warwick, P.Heimann, D.Mossessian, W.McKinney, H.Padmore: Performance of a high resolution, high flux density SGM undulator beamline at the ALSe, Copyright (1995), with permission from American Institute of Physics and the authors.)

高性能のアンジュレータからの光は強度が強く不必要な光の成分まで光学系や試料に当てると熱による損傷等が起こるので、必要な光の成分だけ通すビームラインの設計と冷却の設計が重要になる。最初のアパーチャー部分でビームの両側の不必要な波長の90%を取り除く。またこのアパーチャーは軸を中心軸とずらして、アンジュレータからの、より広いスペクトルのビームを取り出すという使い方もできるようになっている。モノクロメータを使っているのは、光源の動きに影響されないためと、最初のミラーで高調波を落としスリットで垂直方向に軸からずれている光を落とすためである。これによって、回折格子での熱を減らすことができる。
 図2にはアンジュレータ光源の回折格子入り口スリットでの垂直方向の像の大きさが示されている。


図2 The vertical image of the undulator source at the entrance slit. The upper part of the figure is measured using the "white" light. The lower part is measured through the monochromator at photon energies (a) in the central cone so that the third-order mirror aberration is less and (b) off-axis, so that the ends of the mirror are used the aberration is worse.(原論文1より引用。 Reproduced from Rev. Sci. Instrum.,Vol.66, No.2, 2037-2040 (1995), T.Warwick, P.Heimann, D.Mossessian, W.McKinney, H.Padmore: Performance of a high resolution, high flux density SGM undulator beamline at the ALSe, Copyright (1995), with permission from American Institute of Physics and the authors.)

さらに、この光が、試料の点で再び焦点を結んだときの像の大きさは、水平方向が45ミクロンで、垂直方向が30ミクロンである。
 アンジュレータには、水平あるいは垂直方向のものだけではなく、ヘリカルのものもある。高エネルギー物理学研究所(KEK)ではヘリカルアンジュレータを作り、その偏極度を0.95という値を得ている。このとき、12.8nmの波長に対して、半波長だけ光の波長をずらす通過型多層膜を使って精度の良い測定を行っている。
 アンジュレータのような挿入光源を主とするいわゆる第3世代の放射光はシャープな光であるだけに、そのサイズと方向性について、精度が要求される。例えば、ビーム軌道の変化については、グルノーブルのESRFでは一つのQ電磁石が1ミクロン動くとビームは100ミクロン動く。長期的な建物等の変化には、装置の位置を再調整できる機構で対応する。 図3にESRFのQ磁石の位置検出と補正機構を示す。


図3 ESRF quadrupole magnet girder with HLS sensors and remotely controlled jacks.(原論文2より引用。 Reproduced from Rev. Sci. Instrum., Vol.66, No.2, 2000-2005 (1995), G.Muelhaupt: Beam stability in the third-generation SR source, Copyright (1995), with permission from American Institute of Physics and the author.)

 一方、短期的な主として温度変化によるものに対してはESRFでは水平、垂直とも224個ずつの補正磁石で対応している。このほか、ビーム電流が大きくなるための不安定に対する考慮や、真空度をよくすることも安定性を増すために重要である。

コメント    :
 最近ではアンジュレータを主とした高性能の放射光がエネルギーの高さだけでなく重要視されてきている。光源の方がこのように高輝度化、高精度化してくると、試料の効率のよい冷却など、これを使いこなすための実験技術の進歩が必要になってくるであろう。

原論文1 Data source 1:
Performance of a high resolution, high flux density SGM undulator beamline at the ALS(invited)
T.Warwick, P.Heimann, D.Mossessian, W.McKinney, H.Padmore
Lawrence Berkeley Laboratory, Berkeley, California 94720
Rev. Sci. Instrum., Vol.66, No.2, 2037 (1995).

原論文2 Data source 2:
Beam stability in the third-generation SR source(invited)
G.Muelhaupt
European Synchrotron Radiation Facility, Avenue des Martyres, 38043, Grenoble, France
Rev. Sci. Instrum., Vol.66, No.2, 2000 (1995).

原論文3 Data source 3:
Polarization measurement of SR from a helical undulator using a quarter-wave plate for a wavelength of 12.8nm
H.Kimura, T.Miyahara, Y.Goto, K.Mayama, M.Yanagihara, M.Yamamoto
Department SR Science, The Graduate University for Advanced Studies, KEK-PF, Tsukuba 305, Japan, Photon Factory, National Laboratory for High Energy Physics, Tsukuba 305, Japan, Research Institute for Scientific Measurement, Tohoku University, Sendai 980-77, Japan
Rev. Sci. Instrum., Vol.66, No.2, 1920 (1995).

キーワード:アンジュレータ、偏光、シンクロトロン放射、
undulator, polarization, synchrotron radiation
分類コード:040105

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