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作成: 1997/08/26 井上 信

データ番号   :040063
高性能ウイグラーを用いる放射光
目的      :放射光におけるウイグラービームラインの開発
放射線の種別  :エックス線,電子,陽電子
放射線源    :放射光用電子蓄積リング(800MeV,7GeV,2GeV)
フルエンス(率):73kW/mrad2
利用施設名   :電子技術総合研究所TERAS、アルゴンヌAPS、ノボシビルスクVEEP-3ほか
照射条件    :大気中、真空中
応用分野    :構造解析、X線分光、リソグラフィー、アンジオグラフィー

概要      :
 放射光からの白色光の強度を強くする挿入光源であるウイグラーについて、ノボシビルスクでのウイグラーの使い方を紹介する。より高いエネルギーのX線を発生させるために超電導の磁石を使うこともある。その例として、電子技術総合研究所のTERASでの10Tの超電導ウイグラーを示す。また、ウイグラーからの白色ビームラインの技術的な要素の一つとしてビームのスペクトルの一部をカットするためのフィルターの例も示す。

詳細説明    :
 高速の電子が磁場中で加速度を受けるときに電磁波を発生する。電子シンクロトロンでは円軌道を形成するための偏向磁石の所で、軌道の接線方向に、いわゆるシンクロトロン放射が発生する。これとは別に蓄積リングの直線部に電子の軌道を蛇行させるための磁石をおくことによって放射光を発生させる、ウイグラーという挿入光源がある。この磁石の中では電子は蛇行するが最初と最後は直線部と重なるような軌道になり、リングの円形な形状には影響しない。従って偏向磁石の強さとは関係なく、磁場を強くすればそれだけ波長の短い光が発生できる。また蛇行することによって前方方向に出る光が重なり合い強い光となる。このように、ウイグラーは発生する光の波長を適当に選んで設計でき、また偏向磁石からの光より高輝度の光が発生する。
 ノボシビルスクでは、Budker原子核研究所という加速器科学の研究センターがあり、いまではシベリア・シンクロトロン放射センター(SSRC)が作られて、研究が盛んである。研究所にはVEPP-2M,VEPP-3,VEPP-4Mという蓄積リングがある。VEPP-2Mは0.7GeVの電子および陽電子ビームを蓄積し、極端紫外および軟X線用の装置である。これには8Tの強さの超電導ウイグラーがあり、ここから0度方向および-0.7度方向の2本のビームラインが作られている。VEPP-3が現在の主要な装置で2GeV,250mAのビームが蓄積され、X線専用の3極のウイグラーが設置されている。この磁場の強さは各極とも約2Tである。X線は合計0.8mmの厚みのベリリウムの薄膜で真空と縁切りされた窓を通過して蓄積リングの真空系からビームラインの真空系に入る。ウイグラーからの放射光の角度幅は120mradでこれを7本のビームラインに分けている。その内の5本は5mrad幅で、残りの2本は8mrad幅である。図1および 図2にVEPP-3のレイアウトおよびビームラインの配置を示す。


図1 Layout of the VEPP-3 facility.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl.Instr. Meth. Phys. Res., A359, 1 (1995), V.N.Korchuganov, G.N.Kulipanov, N.A.Mezentsev, A.D.Oreshkov, V.E.Panchenko, V.F.Pindyurin, A.N.Skrinsky, M.A.Sheromov, N.A.Vinokurov, K.V.Zolotarev: Syncrotron Radiation and Free Electron Laser Activities in Novosinbirsk, Figure 2 (Data source 1, pp3), Copyright (1995), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)



図2 Arrangement of the SR experimental stations at the VEPP-3 storage ring.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., A359, 1 (1995), V.N.Korchuganov, G.N.Kulipanov, N.A.Mezentsev, A.D.Oreshkov, V.E.Panchenko, V.F.Pindyurin, A.N.Skrinsky, M.A.Sheromov, N.A.Vinokurov, K.V.Zolotarev: Syncrotron Radiation and Free Electron Laser Activities in Novosinbirsk, Figure 3 (Data source 1, pp4), Copyright (1995), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

また、これらのビームラインで行われる研究分野について表1に示す。

表1 SR beamlines and experimental stations of the VEPP-3.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., A359, 1 (1995), V.N.Korchuganov, G.N.Kulipanov, N.A.Mezentsev, A.D.Oreshkov, V.E.Panchenko, V.F.Pindyurin, A.N.Skrinsky, M.A.Sheromov, N.A.Vinokurov, K.V.Zolotarev: Syncrotron Radiation and Free Electron Laser Activities in Novosinbirsk, Table 4 (Data source 1, pp4), Copyright (1995),with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)
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Beamline   Radiation point         Experimental station
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 2         wiggler             a)Laue diffractometry
                               b)Anomalous scattering
 3         wiggler               X-ray fluorescence element analysis
 4         wiggler               Subtraction angiography
 5         wiggler             a)X-ray microscopy and microtomography
                               b)Time  resolved  diffractometry
                               c)Macromolecular crystallography
                               d)Inelastic  scattering
                               e)Small-angle  diffractometry
 6         wiggler               Time resolved spectroscopy
 7         wiggler               X-ray topography and diffractometry
 8         wiggler               EXAFS-spectroscopy
10         bending magnet        X-ray lithography
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 電子技術総合研究所(電総研)では10Tの超電導ウイグラーを設計製作した。電総研では800MeVの電子線形加速器とTERASと呼ばれる蓄積リングがある。これは鉄芯を用いた3極のウイグラーで、中央の磁場は10Tで、リターンの磁場は6Tである。中央のコイルは2分割されており、Nb3SnとNbTiの線材をそれぞれ使っている。内側の部分が軟鉄のポールに巻き付いているMb3Snで直径1.25mmの線材である。外側は内側と仕切を隔てて巻いてあり、1.4×0.7mm2の断面のNbTiの線材である。電流は230Aで10Tでの臨界電流の60%で使用する。超電導ウイグラーの実際の磁場は、偏向磁場(ダイポール)だけでなく4重極磁場もともなう。そこ、で電子軌道に沿って1mm毎に4重極成分も入れた計算をした結果、蓄積リングのビームの安定性を示すベータトロン振動数(チューン)の安定領域が共鳴線に沿って分割されるが、安定領域の大きさはウイグラーの両サイドに置く4重極電磁石で調節すれば問題ないことが示されている。
 一方、ウイグラーから出てくる白色光の低エネルギー部分をカットして無駄な光を下流に導かないようにすることも、このような高輝度の放射光の場合には重要になってくる。米国アルゴンヌの世界最大級の7GeVの放射光(APS)ではウイグラーからの白色光のビームラインに対するグラファイトを用いたフィルターを設計している。APSからの光のパワーはウイグラー部で73kW/mrad2である。グラファイトの安全性を考慮してグラファイトのフォイルでのパワーの吸収が800Wを越えないようにするために、最初のフォイルの厚みは0.3mm以下にする。実際には20μmから2mmの厚さのフォイルを組み合わせて必要なグラファイトの厚みを得るようにしている。

コメント    :
 蓄積リングの偏向磁石の磁場とは独立にしかも強い光を得ることのできるウイグラーは高輝度白色光の挿入光源として優れているが、光子のエネルギーを選別するにはそのための光学系が必要である。このようなときにはシャープなスペクトルをもつ光が出てくるアンジュレータの方がより優れている。

原論文1 Data source 1:
Synchrotron radiation and free electron laser activities in Novosibirsk
V.N.Korchuganov, G.N.Kulipanov, N.A.Mezentsev, A.D.Oreshkov, V.E.Panchenko, V.F.Pindyurin, A.N.Skrinsky, M.A.Sheromov, N.A.Vinokurov, K.V.Zolotarev
BUdker Institute of Nuclear Physics, Russian Academy of Science, 630090 Novosibirsk, Russian Rederation
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A359, p.1 (1995).

原論文2 Data source 2:
Design and manufacture of a 10-T superconducting wiggler magnet at TERAS
S.Sugiyama, H.Ohgaki, T.Mikado, K.Yamada, M.Chiwaki, R.Suzuki, N.Sei, T.Ohdaira, T.Noguchi, T.Yamazaki, S.Isojima, H.Usami, C.Suzawa, T.Masuda, T.Keishi, Y.Hosoda
Electrotechnical Laboratory, 1-1-4 Umezono, Tsukuba City, Ibaraki 305, Japan, Sumitomo Electric Industries, Ltd., 1-1-3, Shimaya, Konohana-ku, Osaka554, Japan
Rev. Sci. Instrum., vol.66, No.2, 1960 (1995).

原論文3 Data source 3:
Modular filter design for the white-beam undulator/wiggler beamlines at the Advanced Photon Source
C.Brite, T.Nian, D.Shu, Z.Wang, D.Haeffner, E.Alp, T.Kuzay
Experimental Facilities Division, Argonne National Laboratory, Advanced Photon Source, Argonne, Illinois 60439
Rev. Sci. Instrum., Vol.66, No.2, 1639 (1995).

キーワード:シンクロトロン放射、ウイグラー、フィルター、
Synchrotron radiation, wiggler, filter
分類コード:040105,040106

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