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作成: 1997/08/06 井上 信

データ番号   :040062
大型放射光施設SPring-8の特徴と利用計画
目的      :大型放射光SPring-8の高輝度、高エネルギーX線と多目的利用
放射線の種別  :エックス線,電子,陽電子
放射線源    :電子蓄積リング(8GeV,100mA)からのX線
フルエンス(率):1019/s/mm2/mrad2/0.1%b.w.( undulator)、1015/s/mm2/mrad2/0.1%b.w.( dipole)
利用施設名   :高輝度光科学研究センター大型放射光施設SPring-8
照射条件    :空気中、真空中など
応用分野    :材料物性、蛋白質構造解析、医療診断、元素分析、光反応

概要      :
 科学技術庁は、理化学研究所、日本原子力研究所共同チームを作り、西播磨の播磨科学公園内に、世界最大の放射光施設SPring-8の建設を行ってきた。この利用については、放射光利用研究促進機構としての財団法人高輝度光科学研究センターがとりまとめる。主リングの周長は1435.95mで偏向電磁石の強さは0.679Tである。蓄積される陽電子のエネルギーは8GeV、電流は100mAである。周囲に61本のビームラインを設置でき、多目的の研究に用いられる。

詳細説明    :
 高速の荷電粒子が磁場中を通過すると、力を受けて軌道が曲げられる。このとき、電磁波が発生する。電子はイオンにくらべ、非常に軽く少しエネルギーが高くなると光の速度に近づく。電子シンクロトロンでこの電磁放射が問題になった。これをシンクロトロン放射(SR)という。加速にとってはエネルギーが電磁波(光)になって失われるので、電子の加速が困難になるが、この放射光は非常に輝度が高いことがわかり、新しい光源として使われるようになった。
 初期には原子核や素粒子の実験用の電子シンクロトロンからのSR光を利用したが、次第に専用の電子ビーム蓄積リングを作ってSR光を得るようになった。さらに最近は、ビームを曲げて円軌道に閉じこめるための磁石の所から出るSR光を使うだけでなく、直進部を作り、ここにウイグラーとかアンジュレータとか呼ばれる電子ビームを蛇行させる磁石を置き、ここから円軌道からの光よりさらに高強度の光を発生させるようにしたものが作られるようになった。これを第3世代の放射光といっている。
 SPring-8は、この第3世代の世界最大の放射光源である。製作には理化学研究所と日本原子力研究所の共同建設チームがあたり、運営には放射光利用研究促進機構である高輝度光科学研究センター(JASRI)があたる体制が科学技術庁の管轄のもとにできた。
一般に電子のエネルギーが高いほど、また使用する磁場が高いほど、出てくる光の波長が短く、8GeVの蓄積リングをもつSPring-8では高強度のX線が発生する。また蓄積リングの周長が長いほどシャープで指向性のよい(エミッタンスの小さい)光が得られる。SPring-8では周長は1.5km近くになっている。
 主なパラメータは表1のようになっている。

表1 SPring-8 蓄積リングの主なパラメータ(原論文2より引用)
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エネルギー            8 GeV
電流(多バンチ/単バンチ)    100 mA/5 mA
周長               1435.95 m
ラティス             Chasman-Green 型
セル数              通常セル44 + 直線セル4
偏向電磁石磁場          0.679 T
偏向半径             39.272 m
直線部長さ(通常/長直線部)   6.65 m/〜30 m
エミッタンス           5.55 nm・rad
特性光子エネルギー        28.9 keV
ベータトロン振動数        53.22(水平),20.16(垂直)
シンクロトロン振動数       0.01005
モーメンタムコンパクション    1.46×10-4
クロマティシティ(補正前)    -151.86(水平),-36.67(垂直)
偏向部でのエネルギー損失     9.226 MeV/turn
エネルギーのひろがり       0.001094
減衰時間(水平/垂直/縦)    8.30/8.30/4.15 msec
ハーモニック数          2436
加速周波数            508.58 MHz
加速電圧             17 MV/turn
バンチ長(σ)          3.63 mm
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 なお、最終的に蓄積リングに8GeVの陽電子が蓄積されるのであるが、加速器の構成は次のようになっている。まず電子銃からの電子ビームが線形加速器で250MeVに加速される。ここでターゲットに当て、陽電子を発生させる。この陽電子をさらに線形加速器で1GeVまで加速し、シンクロトロンに入射する。シンクロトロンは陽電子を8GeVまで加速して、蓄積リングに入射する。ここで陽電子を用いるのは、電子を用いるより、蓄積リングでのビームの不安定化の原因を少なくできるからである。
 また、SPring-8から出てくる放射光の特性は図1のようになっている。円軌道を形成するための磁石(ダイポール)部分からの光と直線部に挿入するウイグラーおよびアンジュレータ部分からの光が示してある。SPring-8では高強度のウイグラー光に特徴があることがわかる。


図1 SPring-8 各種光源の輝度の例(原論文2より引用)

これらの光を利用するビームラインとしては61本が予定されている。最初は10本の共用ラインが建設されその後順次整備される。主なものは蓄積リング棟内に納まり、ビームラインの長さは80m程度までとることができる。このほかに将来は蓄積リング棟の外にまで延長する300mのラインおよびさらに長い1000mのビームラインも予定されている。完成予定のレイアウトを図2に示す。


図2 SPring-8 完成予定図(概要)(原論文3より引用)

 利用計画については、SPring-8発足以前から関係者の間で研究会が組織され、ワーキンググループが作られて検討が進められた。その後、この研究会は建設が進んだ段階で、SPring-8利用者懇談会という形に発展した。いまは30あまりのサブグループができている。これらの中から共通性の高いものとしてまず10本の共用ビームラインが建設されている。これらは、XAFS、結晶構造解析、高温構造物性、高エネルギー非弾性散乱、核共鳴散乱、高圧構造物性、軟X線固体分光、軟X線光化学、生体分析、生体高分子結晶構造解析等に使われる。これとは別に、装置などのR&D用のビームライン、理化学研究所および原子力研究所の専用ラインが数本予定されている。
 このほかに、専用ビームラインとして特定の研究目的で特定の研究グループ(組織)が専用できるビームラインも公募されている。これについては、建設は当事者の負担で行う。現在、兵庫県の専用ライン、企業が共同で建設する産業用ビームライン等が進められている。
 蓄積リング本体へのビームの蓄積は平成9年3月下旬に始まり、4月にはアンジュレーター光をビームラインに通した。挿入されたアンジュレータは真空封止型である。

コメント    :
 世界最高のSPring-8もいよいよ運転を開始した。今後の問題としては、他の同レベルの放射光施設である、グルノーブルのESRF、米国のAPSに遅れてスタートしたので、基礎研究の面でパイオニア的研究でどこまでその特徴を発揮した独創的な研究を出せるかということと、運営がユーザーに対しては、高輝度光科学研究センターが当たるとはいえ、運営が理化学研究所、原子力研究所との3者による共同運営ということによる不便が生じないかということであろう。幸い今は適材を得て順調に、世界をリードする技術開発をともないつつ建設、運転が進んでいるようである。今後の人材の育成と研究の活性化のために、国内外の研究機関、大学との連携が望まれる。

原論文1 Data source 1:
大型放射光施設SPring-8の利用をめざして
菊田惺志
東京大学工学部
放射光, Vol.6, No.4, 108 (1993).

原論文2 Data source 2:
Spring-8蓄積リングの光源としての性能
原 雅弘
日本原子力研究所 理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム
SR Science and Technology Information, Vol.3, No.9, 2 (1993).

原論文3 Data source 3:
新世代の放射光 SPring-8計画
上坪宏道
日本原子力研究所 理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム
科学, Vol.62, No.6, 388 (1992).

参考資料1 Reference 1:
挿入光源・基幹部の試運転調整運転
北村英男、櫻井吉晴
日本原子力研究所 理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム
SPring-8 Information (JASRI), Vol.2, No.4, 1 (1997).

キーワード:放射光、アンジュレータ、輝度、
synchrotoron radiation, undulator, brilliance
分類コード:040105,040503,030103

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