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作成: 1996/11/15 川面 澄

データ番号   :040058
全反射蛍光X線分析法の微量高感度分析への応用
目的      :全反射蛍光X線分析法の原理とその微量・高感度分析への応用
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :放射光(2.5 GeV, 4.1 keV)、X線源(W-Lβ, Au-Lβ, 10 keV)
線量(率)   :1015-1016 photons/s/1%B.W.
利用施設名   :高エネルギー物理学研究所放射光施設(PF)、日本原子力研究所・理化学研究所大型放射光施設(SPring-8)
照射条件    :真空中、空気中
応用分野    :材料分析・材料創製、触媒、分離濃縮、医学

概要      :
 全反射蛍光X線法(TRXRF)は極めて簡単な原理であるが応用性が高い。十分平滑な面に微量の試料を置き、面にほぼ平行にX線を入射させ全反射条件下におく。こうすると微量の試料のみが励起され高感度・低バックグラウンド測定が出来る。すでに10-12g以下の検出限界が認められている。この原理を応用するとnmオーダーの表面や薄膜の分析が可能となる。

詳細説明    :
 全反射蛍光X線分析法(Total Reflection X-Ray Fluorescence Analysis, TRXRF)は米田らにより1971年に初めて提案され、最近極めて大きな注目を集めている。この方法は極めて簡単な原理であるが応用性が非常に高い。十分平滑な面に微量の試料を置き、その面にほぼ平行にX線を入射させる全反射条件下において蛍光X線を測定する。こうすると微量の試料のみが励起され高感度・低バックグラウンド測定が出来る。このバックグラウンドが検出下限を決める。低濃度試料では、バックグラウンドは試料自体からの散乱と光電子による制動放射であり、本質的に避けられないものである。しかし分析する試料全体の絶対量が小さい微量分析では事情が異なってくる。試料より試料ホルダーが大部分を占めるので、試料のみを分析できる方法があれば都合がよい。このような条件を満たすのが全反射蛍光X線法による分析である。すでに10-12g以下の検出限界が認められて、実用的にも有望である。また、バルク試料に関しても全反射条件下では散乱および光電子によるバックグラウンドが低下することが認められており、平滑平面試料については有効な分析法である。
 微量分析への応用として、平坦な物質上に溶液試料を滴下・乾燥させ、全反射条件下で蛍光X線を測定すると高感度分析が可能となった。実際の応用として環境水中の不純物分析を行い、Cl, K, Ca, Fe, Cu, Znなどを検出した。また、血清中のSeがppbオーダの検出限界で分析された。全反射法は、乾燥溶液試料の分析のみではなく、半導体ウェハーの表面分析にも利用される。現在市販の全反射蛍光X線分析装置でもSiウェハーに対して、遷移金属では1010 atoms/cm2のインラインモニターが可能である。さらに分析試料の前処理を工夫すると108 atoms/cm2台の検出限界が得られるとともに、NaやAlについても、それぞれ1x1012 atoms/cm2, 4x1010 atoms/cm2の検出限界が達成されている。
 全反射法は微量分析以外にも広い可能性をもつ。全反射条件下でX線は試料内部にある程度侵入する。その侵入程度は、物質と波長と入射角に依存する。入射角は自由に変化させうるパラメータである。もし十分に平行性の良い強力なX線ビームがあり、試料表面が極めて平滑であれば、このパラメータを変化させることにより試料中の励起領域を走査できることになる。その結果、適当な数値計算を行うことにより試料中の深さ方向の元素分布を非破壊的に測定できる。この方法はNTEF(Near-total External Fluorescence)法と名付けられた。このような試みは既に報告されており、平滑な試料が得られるときは大変有効な方法である。高分子や半導体などで1-100 nmの非破壊分析が可能である。
 全反射法の注目すべきもう一つの応用はX線定在波法である。全反射条件下では入射光と反射光のあいだに干渉効果がおこり、表面から一定の位置に定在波がたつ。これは波長のオーダで表面の物質を分別励起することを意味しており、吸着・薄膜の分析法として、大きな可能性をもつ。この原理を応用するとnmオーダーの表面・界面や薄膜の分析が可能となる。
 表面近傍や薄膜中の元素の深さ分析では、表面の吸着や半導体材料の界面構造などの研究や液面上に展開したLangmuir単分子膜中のMnの分析なども行われている。この分野の研究例はまだ少なく、材料分析への応用は今後の発展が期待される。

コメント    :
 全反射蛍光X線分析法(TRXRF)は原理は極めて簡単であるが応用性は非常に高い。
全反射という極めて小さい入射角度を利用する分析法であるので、X線源としては通常のX線管のような発散光源を利用するより放射光を利用するほうが適している。今後、利用可能な放射光施設が増加するとともに、ますます発展が期待される微量、微小領域の分析法である。

原論文1 Data source 1:
全反射蛍光X線分析法による表面汚染元素の超高感度評価 
宮崎 邦浩、嶋崎 綾子
東芝、半導体事業本部、川崎市幸区小向東芝町1
電子情報通信学会技術研究報告、94(1994), p.7-12.

原論文2 Data source 2:
放射光による分析の極限
合志 陽一、飯田 厚夫
東京大学工学部工業化学科,、〒113 東京都文京区本郷7-3-1
応用物理、55(1986), p.389-396.

原論文3 Data source 3:
放射光によるナノ領域へのアプローチ
飯田 厚夫
高エネルギー物理学研究所、〒305 茨城県つくば市大穂1-1
ぶんせき、p.783-786 (1993).

原論文4 Data source 4:
シンクロトロン放射を利用した分析技術
飯田 厚夫
高エネルギー物理学研究所、〒305 茨城県つくば市大穂1-1
ぶんせき、p.692-698 (1990).

参考資料1 Reference 1:
Opitical flats for Use in X-Ray Spectrochemical Microanalysis
Y.Yoneda, T.Horiuchi
Department of Applied Physics,Faculty of Engineering, Kyushu Univ., Fukuoka 812, Japan
Rev. Sci. Instrum., vol.42-7 (1971) 1069-1070.

キーワード:全反射蛍光X線分析、TRXRF、放射光、蛍光X線、微量分析、
Total Reflection X-Ray Fluorescence Analysis, TRXRF, Synchrotron Radiation, Fluorescence X-Ray , Trace Analysis
分類コード:040105, 040401,

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