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作成: 1996/10/11 寺澤 昇久

データ番号   :040057
シンクロトロン放射光を利用した蛍光X線分析
目的      :シンクロトロン放射光を利用した分析化学手法の現状
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :シンクロトロン放射光発生装置
フルエンス(率):1012-1019photons/s
利用施設名   :シンクロトロン放射光利用施設
照射条件    :真空中、室温
応用分野    :微量元素分析、微小領域分析、表面分析、状態分析、深さ方向分析

概要      :
 シンクロトロン放射光はX線光源として他の光源より3〜4桁強く、その他の特徴も蛍光X線分析に有利に働く。偏光特性はSN比向上に用いられている。連続スペクトルである光を単色化することにより、特定の微量元素を検出することができる。強い指向性を生かすことによって全反射を利用し、SN比を向上させることができる。マイクロビームの技術を利用して微小領域の元素分析が可能である。

詳細説明    :
 シンクロトロン放射光は、電子、陽子、陽電子などの荷電粒子が光速に近い速度で円運動をするときに軌道の接線方向に放射される電磁波であり、赤外からX線領域にわたる幅広い連続スペクトルを持つ光である。放射光には輝度が大きいこと、鋭い指向性を持つこと、偏光していること、パルス光源であることなどの優れた特性がある。これらの特性からエネルギー的、空間的、角度的に高分解能な測定が可能になり、また微量、微小な対象を高精度で計測することが可能になった。
 稼働中または建設中の主な国内における共同利用できる放射光実験施設を表1に示す。

表1 国内における共同利用施設として稼働中及び建設中の主な放射光施設の概要。(原論文1より引用)
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                        電子の    光子臨界
  機   関    名  称   所在地   エネルギー  エネルギー
                         (GeV)         (keV)
------------------------------------------------------------------------
東京大学物性研究所 SOR-RING        田無         0.38          0.13
電子技術総合研究所 TERAS           つくば        0.8           0.57
高エネルギー    Photon Factory  つくば        2.5           4.0
   物理学研究所 TristanAR       つくば        6.5          10.0
分子科学研究所   UVSOR           岡崎         0.75          0.22
日本原子力研究所・ SPring-8*       西播磨        8.0          28.9
   理化学研究所                (兵庫県)
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  * 建設中(1998年から利用開始予定)
 ほかに大学、研究所、企業などに稼働中、計画中の施設がある。表1の光子臨界エネルギーは光の強度が最大となるエネルギーを表し、実際の光は図1に示すエネルギー分布を持っている。


図1 放射光のスペクトル分布及びX線領域の放射光を用いる主な分析法。(原論文1より引用)

 放射光はX線光源として他の光源より3〜4桁強く、ウィグラーやアンジュレーターという挿入光源を利用すると10桁程度大きな強度が得られる。このようなシンクロトロン放射光を利用する応用分野の中で、蛍光X線分析はもっとも著しい効果を期待できる。蛍光X線分析法は非破壊元素分析法であり、X線照射により発生する特性X線を分光結晶や半導体検出器で測定する。放射光を励起X線源とすることにより、微量分析、微小領域分析、表面分析、状態分析などを行うことができる。

偏光利用:
 コンプトン散乱の散乱断面積は、放射光の分極方向と検出器方向とのなす角をθとすると、sin2θに比例する。したがって、入射光の偏光ベクトルと同じ方向に検出器を置くことにより、散乱X線をきわめて小さく押さえ込むことができる。

連続光利用:
 入射光エネルギーの違いに対し分析元素の検出下限が変わり、目的元素を選択的に励起して検出感度を上げることができる。この特徴は重畳ピークの分離に有効である。特に、X線のエネルギーが大きくなると、蛍光収率が大きくなる上、内殻軌道のエネルギーレベルの間隔がしだいに大きくなり、元素の選別がしやすくなる。まもなく利用可能な100 keV付近のエネルギー領域では妨害元素のLX線やMX線は全く存在しないのでバックグラウンドが小さく、重元素の超微量分析法として注目される。一方、白色光を励起光として用いると、入射光強度を大きくとれるためシグナル強度が上がり、サブピコグラム以下の元素が検出される。ただし、白色光を用いると試料によっては散乱光によるバックグラウンドが上がるため、モノクロメーターで分光した光を励起光として用いた方が、濃度としての検出限界は向上することがある。

全反射利用:
 試料表面が平坦でなめらかなときに、指向性の高い放射光のX線を試料表面にすれすれに入射させると、X線が試料にほとんど進入することなく反射される。このときバックグラウンドを形成する下地からの散乱X線が抑えられ、表面近傍や表面吸着原子の感度を著しく高めることができる。このような表面分析法を全反射蛍光X線分析法と呼ぶ。主に半導体試料表面の超高感度不純物分析やその深さ分析、多層薄膜の解析などが行われている。

マイクロビーム利用:
 集光ミラーをうまく組み合わせて、X線領域でミクロンサイズのビームを作り、分析を行うことができる。またサブミクロンレベルの空間分解能分析も試みられている。X線マイクロビームと蛍光X線の斜出射条件を組み合わせると、微小領域の表面分析ができる。得られる情報は、斜入射条件と同じであり、微小領域の表面不純物の分布、化学状態、薄膜の構造などに関する情報である。

コメント    :
 シンクロトロン放射光は微量元素の分析に用いるX線光源として最も優れている。抄録論文は測定技術の追求に主眼をおいており、放射光施設の大型化を望んでいる。しかし、規模の小さな放射光施設でも分析化学に用いる放射光としての実力は十分に発揮され、その普及が望まれる。
 なお、抄録論文には、蛍光X線分析以外のシンクロトロン放射光を利用した分析技術もいくつか紹介されている。

原論文1 Data source 1:
放射光を利用する分析化学
馬場 祐治
日本原子力研究所先端基礎研究センター
ぶんせき, No.3. p.187 (1995).

原論文2 Data source 2:
シンクロトロン放射光を利用した分析法
土井 清三
(株)東芝総合研究所
ぶんせき, No.4. p.256 (1988).

原論文3 Data source 3:
Ultratrace analysis by synchrotron radiation
合志 陽一
東京大学工学部工業化学科、東京都文京区本郷7-3-1
Nucl. Instrum. Meth. Phys. Res., Vol.A303, p.544 (1991).

キーワード:シンクロトロン放射光、蛍光X線分析、偏光性、全反射、マイクロビーム、
synchrotron radiation, X-ray fluorescence analysis, polarization of light, total reflection analysis, microbeam analysis.
分類コード:040401

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