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作成: 1996/09/30 上沖 寛

データ番号   :040055
新しいRIジェネレ-タ W-188/Re-188
目的      :放射線治療及び診断用のRIジェネレータの開発
放射線の種別  :ベータ線,ガンマ線
放射線源    :188W線源(20-37GBq),188Re線源
利用施設名   :オ−ストリア核科学技術機構(ANSTO)、オ−クリッジ国立研究所(ORNL)
応用分野    :核医学

概要      :
 188Reを発生させるRIジェネレータとしてアルミナカラムと陰イオン交換樹脂カラム及びタングステン酸ジルコニウムゲルカラムとアルミナカラムを連結した2種類のタンデムジェネレータについて検討が行われ,その実用性が確認された。また,酸化アルミニウムに対するタングステン酸イオンの吸着挙動が詳細に調べられ,タングステン酸イオンの吸着剤として酸化アルミニウムが優れていることが明らかになった。

詳細説明    :
 188W-188Reジェネレータの吸着剤として広く使われているアルミナへのタングステン(WO42-)の吸着機構が詳細に調べられた。タングステンのアルミナヘの吸着は,アルミナ表面へのタングステンの単分子膜形成から始まり,多層膜の形成をへて,最終的にアルミナ表面が完全に飽和されるまで幾つかの段階をへて進行する。また4面体に配位したアルミナ原子と4面体のWO42-が熱力学的に安定な化合物をつくり,両者は酸素原子を介して(W-O結合)強く結合することが分かった。これらの結果から,アルミナがタングステンの吸着剤として優れた性質を持っていると言える。低比放射能の188Wを使用したジェネレータについて検討が行われ,アルミナカラムと陰イオン交換樹脂を連結したタンデムジェネレータが提案された。
 図1にジェネレータの構造を示す。


図1 Schematic of the 188W→188Re tandem generator.(原論文1より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter, from Radiochimica Acta, vol.65, 39-46 (1994), H.Kamioki et al., Figure 1 (Data source 1, pp.41), Copyright(1994) by R.Oldenbourg Verlag. )

このジェネレータでは,最初アルミナカラムに吸着した188Wから発生する188Reを0.05M 硝酸アンモニウムで溶離し,次に溶離した188Reを陰イオン交換樹脂に吸着させ,最後に7.2M 硝酸溶液で陰イオン交換樹脂から188Reを溶離する。低比放射能の188Wによってジェネレータを調製する場合,必要な放射能を得るには大型のカラムを用いることになり,それに伴い溶離液量が増加する。さらに,酸化アルミニウムの増加とともに溶離液に含まれるアルミニウムの量が増え人体に対する毒性が問題となる。しかし,この方法では小型の陰イオン交換樹脂に188Reを吸着させるため188Reを小量の溶離液(7.2M硝酸3ml)で溶離できるとともに,イオン交換樹脂で188Reからアルミニウムとともに他の不純物元素が分離され高純度の188Re溶液(188W,191Os,192Irとも10-5%以下)が得られる。
 ミルキング収率を3ケ月間にわたり調べた結果,実験開始時における収率が80%であったが経過日数とともに低下し3ケ月後にはほぼ64%になった。しかし,3ケ月経過した時点でも収率が60%以上であり,ジェネレータを長期間使用することが可能である。また,188Reのミルキング収率はタングステンが1μgから40mgの範囲において担体量による影響をほとんど受けなかった。188Wのブレークスル-はアルミナ1gに対してタングステンが120mg(WO3)までは極めて小さく,アルミナがタングステンに対して大きな吸着容量を持つことが明らかになった。放射線効果によって娘核種の化学形が変化し収率の低下をもたらすことが,99Mo-99mTcジェネレータでは早くから知られているが,188Wをアルミナカラムに吸着させたジェネレータでも同様の結果が得られている。そのため,本ジェネレータでは188Reを溶離したのちアルミナカラムに空気を導入し,溶離液をカラムから除去して保管する方法により放射線効果に起因する収率の低下を防いでいる。
 一方,タングステン酸ジルコニウムゲルを用いたジェネレ-タについて検討が行われた。図2にジェネレータの構造を示す。


図2 Schematic of single (A) and tandem (B) zirconium tungstate gel generators(原論文3より引用。 Reproduced from J. Radioanal. Nucl.Chem., Letters, vol.188(4), 267-278 (1994), M.Dadachov, R.M.Lambrecht, E.Hetheringtion: An Improved Tungusten-188/Rhenium-188 Gel Generator Based on Zirconium Tungustate, Figure 1 (Data source 3, pp.41), Copyright (1994), with permission from Elsevier Science, Oxford, England.)

0.15M塩化ナトリウム溶液で溶離した場合の188Reのミルキング収率は約80%であり,3ケ月間にわたって一定である。しかし,188Wのブレークスル-が10-4〜10-3%であり,これを改善するためにアルミナカラムを連結したジェネレ-タについて検討が行われた。その結果ブレ-クスルーが10-6%と著しく改善されたが,反面ミルキング収率が8%〜12%低下した。しかし,ミルキング収率が長期間にわたって70%前後で一定であるとともに,高純度の188Reが得られ,かつカラム寸法を小さくできることから実用規模のジェネレータとして有望である。ただし,ジェネレータの調製には高放射能188Wを遠隔操作により取扱う必要があり,これが技術的に解決すべき問題として残っている。

コメント    :
 188Wは186Wの二重中性子捕獲反応により生成し,生成放射能は熱中性子束密度の2乗に比例する。そのため高放射能の188Wを得るには高熱中性子束密度の原子炉が必要となる。ORNLのHFIR炉のHT照射孔(熱中性子束密度;2.5×1015n・sec-1・cm-2)で97.3%に濃縮した186WO3を21日間照射すると約130MBq/mg・Wの比放射能が得られる。
 実用規模ジェネレータの放射能は20GBq〜37GBqが望ましいと考えられているが,この放射能のジェネレータ調製には約300mgの濃縮186WO3が必要となる。世界的に見るとほとんどの原子炉の熱中性子束密度が1014n・sec-1・cm-2程度であり,これらの原子炉で照射する場合,低比放射能の188Wしか得られない。したがって,低比放射能の188Wによるジェネレータの開発が188Reの普及を図るための今後の課題となる。抄録されたタンデムジェネレ-タは低比放射能の188Wを用いて188W-188Reジェネレ-タを調製するために開発された方法でありその実用化が望まれる。

原論文1 Data source 1:
188W→188Re Generator for Biomedical Applications
H.Kamioki, S.Mirzadeh*), R.M.Lambrecht2*), R.Knapp,Jr.*), K.Dadachova2*)
Department of Radioisotope, Japan Atomic Energy Research Institute(JAERI), Oarai-Machi, Higashiibaraki-Gun, Ibaraki-ken, 311-13 Japan,*)Nuclear Medicine Group, Oak Ridge National Laboratory(ORNL),P.O.Box 2008, Oak Ridge,TN,37831-6229 USA, 2*)Biomedicine and Health Program, Australian NuclearScience and Technology Organisation (ANSTO), Lucas Heights Research Laboratories, Private Mail Bag 1, Menai 2234 NSW, Australia
Radiochimica Acta, vol.65, 39-46 (1994).

原論文2 Data source 2:
Pre-Clinical Evaluation of 188W-188Re Biomedical Generator
H.Kamioki, S.Mirzadeh*), R.M.Lambrecht2*), E.Dadachoba2*)
Department of Radioisotope, Japan Atomic Energy Research Institute(JAERI), Oarai-Machi, Higashiibaraki-Gun, Ibaraki-ken, 311-13 Japan,*)Nuclear Medicine Group, Oak Ridge National Laboratory(ORNL),P.O.Box 2008, Oak Ridge,TN,37831-6229 USA, 2*)Biomedicine and Health Program, Australian NuclearScience and Technology Organisation (ANSTO), Lucas Heights Research Laboratories, Private Mail Bag 1, Menai 2234 NSW, Australia
Synthesis Applications of Isotopically Labelled Compounds, (Edited by J.Allen) John Wiley, New York, 1994.

原論文3 Data source 3:
An Improved Tungusten-188/Rhenium-188 Gel Generator Based on Zirconium Tungustate
M.Dadachov, R.M.Lambrecht, E.Hetheringtion
Biomedicine and Health Program, Australian NuclearScience and Technology Organisation (ANSTO), Lucas Heights Research Laboratories, Private Mail Bag 1, Menai 2234 NSW, Australia
J. Radioanal. Nucl. Chem., Letters, vol.188(4), 267-278 (1994).

原論文4 Data source 4:
Tungstate Ion - Alumina Interaction in a 188W→188Re Biomedical Generator
E.Dadachova, S.Mirzadeh*), R.M.Lambrecht
Biomedicine and Health Program, Australian NuclearScience and Technology Organisation (ANSTO), Lucas Heights Research Laboratories, Private Mail Bag 1, Menai 2234 NSW, Australia,*)Nuclear Medicine Group, Oak Ridge National Laboratory(ORNL),P.O.Box 2008, Oak Ridge,TN,37831-6229 USA
J. Phys. Chem., Vol.99 , No.27, 10976-10981 (1995).

キーワード:タングステン-188/レニウム-188ジェネレ-タ,無担体レニウム-188,吸着,
イオン交換
wolfram-188/rhenium-188 generator,carrier-free rhenium-188,adsorption,
ion exchange
分類コード:030301,030205,030502,040202

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