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作成: 1996/10/25 上沖 寛

データ番号   :040054
ラジオグラフィ用低エネルギ-γ線源
目的      :イッテルビウム-169線源の製造技術の開発とラジオグラフィへの適用
放射線の種別  :ガンマ線
放射線源    :169Yb線源(200GBq)
利用施設名   :日本原子力研究所放射化学ケ−ブ、京都大学原子炉、等
応用分野    :ラジオグラフィ

概要      :
 ラジオグラフィ用169Yb線源の製造法について検討し,線源寸法が0.65mmφ×0.65mmで40GBq,1.0mmφ×1.0mmで200GBq以上の放射能を持つ線源の製造技術を確立した。また,169Yb線源の諸特性を調べた結果,本線源が薄肉鋼管の溶接部の欠陥検査に有効であることが明らかになった。

詳細説明    :
1.169Yb線源の製造
 ラジオグラフィ用169Yb線源の製造法について検討した。169Ybは168Ybの(n,γ)反応で生成するが,天然組成のイッテルビウムには168Ybが0.14%しか含まれず,そのままでは高放射能の線源は得られない。そのため168Ybを20.6%まで濃縮した酸化イッテルビウム(168Yb2O3)をタ-ゲット原料として用いた。酸化イッテルビウム粉末を成形し,寸法が0.65mmφ×0.65mm及び1mmφ×1mmの微小ペレットを調製した。このペレットを高純度アルミニウムカプセルに収納し,電子ビ-ム溶接装置で溶封した後原子炉で照射する。照射後のカプセルは線源のインナ-カプセルとしてそのまま用い,機械的強度が高く,γ線の吸収が小さいチタニウム製のアウタ-カプセルに収納し,プラズマ溶接装置により遠隔操作で密封線源に加工した。168Ybの(n,γ)反応で生成した169Ybは,さらに中性子を吸収し安定な170Ybとなる。168Ybの熱中性子反応断面積が2200b,高速中性子の共鳴積分が24000bである。これに対して,169Ybの熱中性子反応断面積は3600b,その共鳴積分は3500bであり,2重中性子捕獲反応による169Ybの放射能低下が無視できない。そのため,高放射能の線源を得るには169Ybのバンアップを最小にする照射条件で効率よく照射する必要がある。表1に、日本原子力研究所で調製した線源の放射能の一例を示す。

表1 169Yb線源放射能生成量(原論文1より引用。 高圧ガス保安協会のご承認に基き、山林 尚道、高圧ガス, Vol.31, No.8, 621-628 (1994)、表1(pp.621)、より転載。)
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原子炉     照射時間     照射孔     ペレット寸法    照射直後生成量
           (時間)                     (mm)          GBq(Ci)/個
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            600         VT-1       1.0φ×1.0         271(7.1)
            600         VT-1       0.80φ×0.81       121(3.3)
JRR-3M      600         VT-1       0.64φ×0.67        67(1.8)
            600         RG         1.0φ×1.0         233(6.3)
            600         BR         1.0φ×1.0         211(5.7)
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            530         H- 5       1.0φ×1.0         233(6.3)
            530         F-12       1.0φ×1.0         204(5.5)
JMTR        530         H- 9       1.0φ×1.0         226(6.1)
            530        *E- 7      1.0φ×1.0         276(7.5)
            530        *E- 7      1.0φ×1.0         267(7.2)
            530         E- 7       1.0φ×1.0         207(5.6)
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       *熱媒体(ステンレス)使用
タ-ゲットをJMTR及びJRR-3Mで照射した結果では,ペレット寸法が1.0mmφ×1.0mmの場合,いずれの照射孔で照射しても200GBq以上の放射能が生成する。JMTRのE-7照射孔では,中性子吸収材を用いない場合169Ybのバンアップにより169Ybの生成量が低くなるが,ステンレス鋼を中性子吸収材として用いることにより3割程度高い放射能が得られる。このように中性子束密度を調整することにより,1.0mmφ×1.0mmの寸法で260GBq以上の放射能をもつ線源の製造が可能となる。

2.169Yb線源の諸特性
 169Ybは100%EC(電子捕獲)崩壊し,薄肉細管の欠陥検査に適当な63.1keV〜307.7keVのエネルギ-のγ線を放出する。前方0.05mm,後方0.15mmの鉛箔を用いて撮像すれば,鉛箔を用いない場合に比べ露出時間を1/6に短縮できる。この効果は169Ybからの低エネルギ-γ線成分が鉛のX線を誘起させることによると考えられる。
 図1に結果を示す。 


図1 Exposure guide for 169Yb radiography. SFD=5cm,film=Kodac Industrex Mx,density=2.5,and film developed for 7 min in DX80 at 68゜F/20゜C or equivalent.(Paper 1)(原論文4より引用。 Reproduced from Transa. Am. Nucl. Soc., Vol 56, No.Supplement 3, 27-29 (1988), Figure 2 (Data source 4, pp.29), Copyright(1994) by American Nuclear Society, La Grange Park, Illinois, USA, and with kind permission of the copyrighter and the auther.)

169Yb線源と192Ir線源により,3mm及び5mm厚さの階段状ステンレス鋼製試験片を撮像したフィルムの黒化度を,デンシトメ-タで測定した結果を図2に示す。


図2 169Yb,192Irによるフィルム濃度の変化。2段階試験片(ステンレス鋼3mmおよび5mm)でのラジオグラフ。フィルム:富士100、鉛増感紙:なし(原論文2より引用)

厚さが2mmによって作られるフィルムコントラストが,169Yb線源では0.42,192Ir線源では0.17であって,この厚さ領域ではラジオグラフィ線源として169Ybの方が192Irより優れている。また,0.6mmφの球状線源,1mmφ×1mm及び1.4mmφ×1.4mmのペレット状線源により欠陥識別度を調べた結果,線源寸法が小さいほど良い欠陥識別度が得られた。370GBqの169Yb線源からの1mの距離における1cm線量当量率は13mSv/hである。同じ距離で370GBqの192Irの1cm線量当量率は54mSv/hであって,169Ybは192Irの約1/4となる。一方,169Ybの遮蔽効果は高く,約5mmの厚さで透過線量率を1/100に減弱できる。現在使用されている照射装置に169Yb線源を装着し,照射時に於ける線源から1mの距離での線量率を調べた。その結果,外部線源照射装置に370GBqの線源を装着した場合が86μSv/h,内部線源撮影装置に111GBqの線源を装着した場合が34μSv/h以下であり,管理区域境界を2m以下としても十分撮影が可能であった。

コメント    :
 169Yb線源は薄肉鋼管の溶接部のラジオグラフィ用線源として多くの利点があるが,その反面,半減期が32日であって,利用できる期間が短いのが欠点となっている。イメ-ジングプレ-トは写真フィルムに比べて著しく感度が高いため,本線源のラジオグラフィに適用することにより,撮影時間の短縮と共に線源の利用期間を延長できる可能性がある。そのため,169Yb線源によるラジオグラフィにイメ-ジングプレ-トを適用させるための技術開発が今後の課題になると考えられる。

原論文1 Data source 1:
新しい非破壊検査用Yb-169線源の開発
山林 尚道
日本原子力研究所東海研究所アイソト-プ部,319-11 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
高圧ガス, Vol.31, No.8, 621-628 (1994).

原論文2 Data source 2:
イッテルビウム-169線源:製造技術と利用の開発
山林 尚道
日本原子力研究所東海研究所アイソト-プ部,319-11 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
Radioisotopes, Vol.43, No.5, 296-308 (1994).

原論文3 Data source 3:
Trial Production of 169Yb Gamma-Ray Sources and Their Characteristics
Y.Tsujii*), R.Taniguchi2*), M.Fujishiro1*), E.Hiraoka3*), T.Tsujimoto4*), K.Yoneda4*), K.Okamoto4*)
*)Research Center of Radiation, Research Institute for Advanced Science and Technology, 2*)Department of Fundamental Science, Research Institute for Advanced Science and Technology, 3*)Osaka Prefecture, 4*)Research Reactor Institute, Kyoto University
Bull. Univ. Osaka Prefect., SerA, Vol.39, No.2, 269-276 (1990).

原論文4 Data source 4:
Advances in Low-Energy Gamma Radiography
H.W.Evans
Amersham, USA
Transactions of American Nuclear Society, Vol 56, No.Supplement 3, 27-29 (1988).

原論文5 Data source 5:
169Yb Gamma Sources
A.V.Klinov, A.V.Mamelin and Yu.G.Toporov
Sov. At. Energy, vol.54, No.3, 233-235 (1983).

キーワード:イッテルビウム-169,ガンマ線源,ラジオグラフィ,非破壊試験,中性子照射
ytterbium-169, gamma-ray source, radiography, nondestructive test,
neutron irradiation
分類コード:040103, 040204, 040303

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