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作成: 1997/01/17 酒井 卓郎

データ番号   :040049
イオンマイクロビームを用いた分析技術
目的      :イオンビームによる元素分析
放射線の種別  :陽子,軽イオン,重イオン
放射線源    :デスクトロン(999keV、数μA)、タンデム加速器(1.5MeV、数μA)、タンデム加速器(4MeV、数μA)

利用施設名   :神戸製鋼社製マイクロビーム形成装置(mikro-i)、大阪工業技術研究所タンデム加速器、ルール大学タンデム加速器
照射条件    :真空中、室温
応用分野    :材料分析、地球科学、環境調査、生物分野

概要      :
 イオンマイクロビーム形成装置を開発し、各種試料に対してラザフォード後方散乱法(RBS)やイオン励起X線分光法(PIXE)、核反応分析法(NRA)などで分析を行った。この際、ビームの走査を行い、この走査信号と検出信号の同期をとることにより、2次元や3次元の元素分布分析を行うことが可能であることを示した。

詳細説明    :
1、イオンマイクロビーム形成装置
 図1にマイクロビーム形成装置の概略を示す。


図1 Schematic diagram of the microbeam line including the tandem-type accelerator with effective size in mm. (原論文2より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. B54 (1991) 269-274, Y.Horino, A.Chayahara, M.Satou, M.Takai: Three-dimensional microanalysis using a focused MeV oxygen ion beam, Figure 1(a) (Data source 2, pp.270), Copyright (1991), with permission from Elsevier Science.)

 マイクロビームの形成は、まず加速器からのイオンビームを対物スリットで数十μm程度にコリメートし、さらに球面収差による広がりを小さくするためにビームの発散角を制限するスリットでコリメートを行う。このビームを四重極磁石により試料上に縮小して結像することにより1〜10μm程度のビームを得ることが出来る。この際、ビームのエネルギー分散が大きいと、色収差に起因するビームの広がりが大きくなるため、あらかじめエネルギー分析を行う必要がある。このためには分析磁石とスリットを用いるのが一般的であるが、装置の設置面積を小さくするため、E×Bフィルターを用いる方法もある。対物スリットや四重極磁石の工作精度は、ビーム径に影響を与えるため高精度で作製する必要がある。形成されたマイクロビームの観察は、蛍光体による発光を望遠顕微鏡で観察するか、試料よりの2次電子を検出する方法で行われる。測定データの収集や、ビーム走査の制御はコンピューターで行われる。

2、試料の分析
 イオン励起X線分光法(PIXE)は、元素の定量分析によく用いられる方法である。通常、3MeVのHビームがよく用いられ、Mgより重い元素を1μg/gの検出限界で測定することが出来る。一例として、検出信号とビーム走査の同期を行い、電子素子におけるタングステン2次元分布の測定結果を図2に示す。測定条件は3MeV H、ビーム径10μm、ビーム電流2nA、ステップ幅7μmである。分析に適する試料としては半導体素子の他にも、生体試料や地質試料などがある。特に人間の髪の毛の分析は環境や健康状態を反映する情報を得ることが出来る可能性があり、興味深い。


図2 Map of the tungsten content in the surface of an electronic device as derived from PIXE microprobe measurement. The degree of blackness refers to the W concentration. (原論文3より引用。 Reproduced, with permission of the copyrighter and the authors, from Fresenius' Journal of Analytical Chemistry (1995) 353; 585-588, Adamczewski, H.Rocken, J.Meijer, A.Stephan, H.H.Bukow, C.Rolf, F.Bruhn: Analytical techniques with a nuclear microprobe, Figure 6, Copyright (1995) by Springer-Verlag GmbH & Co.KG.)

 ラザフォード後方散乱法(RBS)は元素の深さ方向分布を知ることが出来る分析法で、分析ビームとしては2MeV程度のHeビームがよく用いられるが、Oなどの重イオンは、軽イオンに比べて、分解能がよく、散乱断面積が大きいために用いられることがある。試料としては半導体素子や基盤上に生成された薄膜の評価などに適する。また、試料が単結晶である場合、チャネリング法と組み合わせることで結晶構造の解析などにも利用することが出来る。深さ方向の分解能としては10nm程度である。図3に1.9MeV HeでMgO基板上に生成された高温超伝導体であるY Ba Cu O膜の元素分布を測定した結果を示す。この方法もビーム走査と同期をさせることが可能であり、これにより元素の3次元分布を測定することが出来、注入イオンの分布の測定などを行うことが可能である。


図3 RBS spectrum of YBaCuO high-temperature supercondutor thin film with thickness less than 100 nm on MgO substrate with 1.9 MeV He2+.(原論文1より引用)

 核反応分析法(NRA)は分析ビームが試料中の核と反応することにより発生する2次線を検出することにより、主に軽元素の分布を調べる手法である。ビームとしては反応断面積の大きいHやDがよく用いられる。試料としては無機材料の他に、組成分布測定を目的とした有機化合物などがある。

コメント    :
 イオンマイクロビームによる分析は、通常のイオンを用いた分析法すべてに適用でき、ビーム走査との組み合わせで元素の2次元分布や、透過イオンのエネルギー損失を測定することによる試料の密度分布の測定(STIM)など、多様な分析手段として有用である。
 本報告は、実際にイオンマイクロビームを用いて各種分析を試みた結果についての報告であり、その有効性を証明していると思われる。

原論文1 Data source 1:
Compact high-energy ion microprobe system and its applications
K.Yokoyama, K.Ishibashi, K.Inoue, Y.Kawata and K.Iwamoto*)
Electronics Research Laboratory, and Engineering and Machinery Division*) , Kobe steel, Ltd, Nishi-ku, Kobe, Hyogo 651-22
Rep. Res. Cent. Ion Beam Technol., Hosei Univ. Suppl, No.11, p.117-122 (1993).

原論文2 Data source 2:
Three-dimensional microanalysis using a focused MeV oxygen ion beam
Y.Horino, A.Chayahara, M.Satou and M.Takai*)
Governmental Industrial Research Institute, Ikeda, Osaka, 563 Japan
Faculty of Engineering Science, Osaka University, Toyonaka, Osaka, 560 Japan *)
Nuclear Instruments and Methods in Physical Research, B54, 269-274 (1991).

原論文3 Data source 3:
Analytical techniques with a nuclear microprobe
J.Adamczewski, H.Rocken, J.Meijer, A.Stephan, H.H.Bukow, C.Rolf, F.Bruhn*)
Institut fur Physik mit Ionenstrahlen, Ruhr-Universitat Bochum, Universitatsstrasse 150, D-44780 Bochum, Germany
Institut fur Geologie, Ruhr-Universitat Bochum, Universitatsstrasse 150, D-44780 Bochum, Germany*)
Fresenius' Journal of Analytical Chemistry, vol.353, 585-588 (1995).

原論文4 Data source 4:
Nuclear microprobe study of the composition degradation induced in polyimides by irradiation with high-energy heavy ions
P.Trocellier, J.Tirira, P.Massiot, J.Gosset and J.M.Costantini*)
Groupe de Microanalyse Nucleaire, DCAEA/SEAIN, CEA/CEN-Sacley, 91191 Gif sur Yvette, France
CEA/DAM.SPTN, Centre d'Etudes de Bruyeres-le-Chatel, BP 12, 91680 Bruyeres-le-Chatel, France
Nuclear Instruments and Methods in Physical Research, B54 (1991), 118-122.

キーワード:ラザフォード後方散乱、イオン励起X線分光、核反応分析、イオンマイクロビーム
 RBS、PIXE、NRA、Ion microbeam
分類コード:040402, 040503

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