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作成: 1996/08/31 藤根 成勲

データ番号   :040045
中性子ラジオグラフィ応用の現状と展望
目的      :中性子ラジオグラフィ技術の各種分野への応用の現状と展望
放射線の種別  :中性子
放射線源    :原子炉、Cf中性子源
利用施設名   :国内外の原子炉、Cf中性子源(参考資料3)
照射条件    :高速、熱、冷中性子利用
応用分野    :原子力、農学、文化財、熱伝達・二相流、工業利用

概要      :
 中性子ラジオグラフィ技術の近接学問分野への応用として、材料工学、固体化学・電気化学、医学・歯学関係、農学関係と文化財の非破壊検査への応用についての紹介とそれ等の分野での利用を主に定量化の面から検討されている。さらに国内外での工業分野やその他の分野への利用状況も文献とともにまとめられている。特に各種流動現象の可視化と計測については、これまでの研究を中心に解説されている。

詳細説明    :
 中性子ラジオグラフィ技術はここ数年の間に大きく高度化が進み、それを応用することによってそれぞれの学問分野における新たな研究が開けるところまで来た。筆者はそれが科学研究手段として学問的評価に耐え得る必要条件として、試料の中性子透過率が定量的に測定可能であること、試料体の寸法が測定できることおよび対象とする動態画像の時間分解能が充分であることの三つの条件をあげ、特にフィルム法による静止画像での中性子透過率の定量化から応用例についてまとめている。
 金属・冶金などの材料工学の分野では、研究炉燃料側板の検査、プルトニウム入り燃料の検査、模擬MOX燃料のCT、金属の溶融と拡散・金属間化合物の形成過程の可視化やヒートパイプ内二相流挙動の研究などの初期の研究では定量化の面で問題があったが、金属中の水素濃度の測定においてパラジウム中の水素分布と濃度が定量化され、研究対象の物理量が測定できる段階にまできた。固体化学・電気化学分野では固体電解質中のリチウムイオンの動きの可視化および電気化学的解析や市販のリチウム電池内の放電過程でのリチウムの空間的移動挙動などの定量的解析に注目している。
 医学関係では、マウス体内臓器・癌の可視化、歯学関係では金属冠装着歯、義歯、歯牙内微細構造などへの適用、農学関係では植物根の形態変化、吸水性ポリマーの土壌水分の動き、大豆育成中の水分動態の可視化と定量化、さらに埋蔵文化財の非破壊検査など新しい分野での利用に期待している。これ等の分野への応用に際し、定量化の観点から散乱中性子やγ線成分の補正の重要性を認識して、新しいディジタル撮像法やイメージングプレートなどを採用し、また熱中性子のみならず冷中性子や高速中性子を用いたラジオグラフィなどを利用することによってさらに広い範囲の研究に応用できる。
 特に、流動現象への応用では従来からかなりの応用例があるが(参考資料2)、それらの中から著者等が実施した液体金属流れの可視化と気液二相流の多次元ボイド率分布の計測について述べられている。透明な単相流の可視化ではトレーサ法とダイ法(この利用例は抄録原論文2の参考文献(17)にある)が利用され、トレーサ法を用いた鉛ビスマス合金の流れの可視化が実施された。トレーサとして金カドミウム金属間化合物の粒子を用い、アルミニウム製矩形容器の下部から注入された鉛ビスマス融液を撮影し、背景消去法でトレーサを識別して二枚の画像の相関を取って液体金属の流動ベクトル場を得た。
 また、気液二相流のボイド率計測として16本(4x4)の外径10mm(肉厚1mm)のアルミニウム管を模擬燃料棒として二つのステンレス鋼製丸セル型スペーサで固定して設置されたアルミ製ダクト内に二相流を形成して、液流速0.0186m/s、気体流速15.7m/sで下流側のスペーサ付近で3.6度刻みで50の画像を撮影した。多数の断層面でのCT再構成画像からロッドバンドル内気液二相流の3次元ボイド率分布が得られた。現在での解像度は0.5mm程度であるが、冷却型CCDカメラの使用で0.1mm程度の空間分解能の計測を検討している。
 その他、工業利用や関連した分野での利用としては、航空機関係でアルミニウム、ハネカム、および、複合物の腐食、湿気、欠陥の検査、タービンブレードのコアの検査、宇宙産業では火工品の組立工程管理、品質管理、宇宙服の検査、また自動車産業では燃料燃焼動作、エンジン内の燃料・オイルの流れ、給油・潤滑材の状態検査、部品管理など、化学工業・石油化学では二相流過程や噴流層内の流れの可視化と解析、多孔質物質への液体の浸透状態の解析、材料工学・セラミックス、化合物開発・研究では金属化合物の合金分布状態の検査、欠陥、密度、含有物、結合状態や多孔性の検査、原子力分野では原子炉材料検査、使用前後の原子炉燃料の非破壊検査など、また土木工学ではコンクリートやプラスチック補強材の水の透過性、経年変化、補強材の健全性検査、その他の分野では爆発物、点火器、武器などの管理や空港での安全検査などに利用されている。それぞれの応用例については代表的な文献が記載されているので参照されたい。また、国内の利用では参考資料1)にかなりの画像が記載されている。

コメント    :
 抄録原論文1では定量化を重要な条件としてあげているが、工業利用などの分野では物質や欠陥などの検査対象が鮮明に画像化されているかどうかが重要で自ずからその撮像法にも差がある。定量化の面でも現状では中性子の透過度を示す画像の濃度が重要視されているが、画素で示される対象の長さ、大きさ、形状や濃度と画素の両者からもとめられる容量や重量の計測なども今後の問題点としてあげられる。
 しかし、中性子ラジオグラフィの原点にたちかえってみれば不可視情報の画像化がこの技術の根本であることにかわりはない。最近、高中性子束炉の利用と動態撮像法の高度化に伴い各種の流動現象の可視化と計測への応用が盛んになってきた。金属容器や管内の主に軽元素からなる流体の可視化という側面が丁度中性子ラジオグラフィの特性とよく一致したためであろう。

原論文1 Data source 1:
中性子ラジオグラフィ法の近接学問分野への応用の現状
玉置 昌義
名古屋大学工学研究科、〒464-01 名古屋市千種区不老町
放射線(応用物理学会放射線分科会誌)、Vol.22, No.1, 57 (1996).

原論文2 Data source 2:
NR法による各種流動現象の可視化と計測
竹中 信幸
神戸大学工学部、〒657 神戸市灘区六甲台町1-1
放射線(応用物理学会放射線分科会誌)、Vol.22, No.1, 63 (1996).

原論文3 Data source 3:
国内外における中性子ラジオグラフィ技術の工業利用の現状
藤根 成勲
京都大学原子炉実験所、〒590-04 大阪府泉南郡熊取町
放射線(応用物理学会放射線分科会誌)、Vol.22, No.1, 71 (1996).

参考資料1 Reference 1:
中性子ラジオグラフィ写真集
(社)日本非破壊検査協会編集
〒101 東京都千代田区神田佐久間河岸67(夏目第5ビル4階)
単行本 (1995)

参考資料2 Reference 2:
熱流動現象の可視化と計測への応用
三島 嘉一郎、日引 俊
京都大学原子炉実験所、〒590-04 大阪府泉南郡熊取町
原子力工業、Vol.41, No.2, p.46 (1995)

参考資料3 Reference 3:
中性子ラジオグラフィの概要
藤根 成勲
京都大学原子炉実験所、〒590-04 大阪府泉南郡熊取町
原子力工業、Vol.41, No.2, 10 (1995).

キーワード:中性子ラジオグラフィ、流動現象の可視化と計測、非破壊検査
neutron radiography, visualization and measurement of flow phenomena, non-destructive testing
分類コード:040303

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