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作成: 1996/08/31 藤根 成勲

データ番号   :040044
中性子ラジオグラフィ撮像技術の開発
目的      :中性子ラジオグラフィ撮像技術の開発の現状とその応用
放射線の種別  :中性子
放射線源    :原子炉、Cf中性子源
利用施設名   :日本原子力研究所東海研究所JRR-3M、NSRR、大洗研究所Cf中性子源、立教大学原子炉
照射条件    :照射室内、常温
応用分野    :動態現象の可視化と計測、流体の高速度撮影、低束中性子源での静止画像撮影

概要      :
 中性子ラジオグラフィには動態画像と静止画像がある。動態画像の実時間処理は、最初の試みであり、大変重要な意味を持っている。また、流体の可視化では通常の走査速度では時間分解能が不足するため高速度撮像法が導入された。
 静止画像では、従来のフィルム法と比較して空間解像度では幾分劣るが高感度でディジタル画像処理に有利な中性子イメージングプレートが新しい応用分野で利用され始めた。

詳細説明    :
 中性子ラジオグラフィの撮像技術の内で、実時間画像処理装置、高速度ビデオ撮像システムと中性子イメージングプレートの中性子ラジオグラフィでの適用について取り上げられている。
 開発された実時間画像処理装置では、暗電流、シェーディング及び線源強度の補正、3次元線形・非線形フィルタによる雑音除去、エッジ抽出や動点検出が実時間で処理が可能である。さらに、対数変換、ボイド率表示が実時間で処理でき、識別感度の高いHSI(H:色相、S: 彩度、I:明度)型およびマンセル型疑似カラー表示などの機能を有する。画像はSIT管との組み合わせで、画素数は480x480、フレームレートは約20frames/s、10ビットのA/D変換器が使用されている。この装置は原研JRR-3Mでの共同研究で、流動層熱交換器、冷凍機内の冷媒挙動、磁場中の液体金属の可視化(以上神戸大)、二相流体ループによる宇宙用排熱システム(神戸商船大)、加圧流動層内気泡挙動の可視化(山口大)、高速中性子による気液二相流の可視化(東京大)、沸騰二相流の可視化(原研・東海)など主に流動現象の可視化と解析に利用されている。いくつかの研究成果として平均ボイド率分布測定、気液二相流のカラー化、沸騰二相流及び核沸騰離脱現象、模擬プール中蒸気凝縮挙動や疑似カラーの画像例が参考資料1に掲載されている。
 流動現象の可視化では、実時間処理も重要な問題であるが、高速現象のため画像の時間分解能が問題となる。このため、高性能のイメージインテンシファイアと高速度ビデオ装置を組み合わせた市販のシステムで流体の高速度撮像法が導入された。中性子源、コンバータやシステムおよび限界時間分解能について検討を加え、これにより原研JRR-3Mの1.5x108 n/cm2・secの照射場で1000frames/secの気液二相流の撮像が可能なことや、比較的鮮明な250frames/secの画像によるスラグ気泡の上昇速度、平均ボイド率の流れ方向の分布の経時変化や管状流の界面波形の変化などの計測例が示されている。図1に250frames/secのスラグ気泡の2値化画像の一例を示す。さらに、パルス中性子源での外国での利用例や原研NSRRでの細管内沸騰二相流の500frames/sの撮影例についても報告されている。


図1 Consecutive images taken by the HFRNR( 250fps )with a steady neutron beam, showing slug flow in a rectangular duct with a 2.4 mm gap. Neutron source:JRR-3M of JAERI.(原論文2より引用)

 一方、静止画像に対して従来のGd金属箔とフィルムの組み合わせによる撮像法と比較しながら新しく開発されたB, Li, Gd系の中性子イメージングプレートの有用性を低束中性子源、マウス体内の癌の検出などへの応用から検討されている。ダイナミックレンジは5桁、位置分解能は0.2mm以下、中性子効率は約80%であると報告されている。中性子ラジオグラフィ分野への応用としては、フィルム法と比較して中性子検出感度が約100倍であることやダイナミックレンジの良いという特長を活かした活用が期待される。
 可搬型中性子源ではその高感度性が利用でき、例えば原研・大洗のCf中性子源での利用ではZn, Cu, テフロンなどのステップ状材料の撮影でフィルム法で72時間かかるものが4時間で、ユリの花では3〜4日必要なのが1時間で撮影できることが報告されている。中性子高吸収体としてのマウスなどの小動物の内臓の撮像では原研JRR-3Mの照射場で5秒間ですみ、生物体への放射線被曝の減少が可能である(図2)。


図2 JRR-3M中性子ラジオグラフィ−装置で中性子イメ−ジングプレ−トを用いて撮ったマウスのラジオグラフィ−(5秒露光)(原論文3より引用)

 また、中性子放射化の望ましくない埋蔵文化財、絵画や古文書などの被写体での照射時間の減少に寄与できることや中性子CTへの可能性が検討されている。問題点としてはγ線にも有感であるので、X線用イメージングプレートと組み合わせた画像を用いて、X線の寄与を差し引くなどの補正が必要である。イメージングプレートの文献としては参考資料3を参照されたい。

コメント    :
 動画像での実時間画像処理はこの分野のみならず、画像処理の分野で大変重要な課題である。この分野、特に流体現象の可視化と計測での活躍はめざましい。システムは試作品であるためにかなり大型であるのはやむを得ない。処理速度の関係で通常のテレビジョン走査速度ではないのが惜しまれる。是非一般のユーザでも利用できるシステムにまで発展してほしい。
 一方、高速度撮影の方は市販の装置を利用しているため一般的な可視化にも利用できるが、その後の画像処理は各フレーム毎のディジタル画像により独自に開発しなければならない。
 中性子イメージングプレートは参考資料2にあるように1980年代末からGd系のものが検討されていたが、当時は医学・生物関係ではX線用のものが実用化の段階にあった。中性子用としては画素が100x100μmのものしかなく、画像取得システムも超高価格でしか市販されていなかった。また、企業側としても中性子ラジオグラフィ用としてはあまり注目をしていなかったようにもみえる。しかし、最近になってX線用のイメージングプレートの開発が進み、25x25μmのものが利用できるようになった上にシステムも未だ高価格ながら各種のものが市販されるようになってきた。これに伴って中性子用としてGd系以外にBやLi系のものが開発された。
 もともとCR(computed Radiography)システムといわれるだけにディジタル画像処理に適し、ダイナミックレンジの良い特性と相まって実用化されるに至った。なによりも著者がリゾチーム蛋白質単結晶からの中性子回折斑点をイメージングプレートを利用して撮影に成功したこと(参考資料3)が大きな成果として挙げられる。
このような新しい技術の開発はいわゆる鶏と卵の関係にある。新しい技術があってこそ新しい分野が開け、新しい分野での要求があってこそまた新しい技術が開発される。中性子ラジオグラフィの関係者として是非新しい分野からの需要のあることを期待したい。

原論文1 Data source 1:
実時間中性子ラジオグラフィ画像撮影装置開発の現状
持木 幸一
武蔵工業大学工学部、〒158 東京都世田谷区玉堤1-28-1
放射線(応用物理学会放射線分科会誌)、Vol.22, No.1, p.27 (1996).

原論文2 Data source 2:
中性子ラジオグラフィ高速度撮像法の開発と流体計測への応用
日引 俊、三島 嘉一郎
京都大学原子炉実験所、〒590-04 大阪府泉南郡熊取町
放射線(応用物理学会放射線分科会誌)、Vol.22, No.1, p.35 (1996).

原論文3 Data source 3:
中性子イメージングプレートによるラジオグラフィー画像の取得と特性
新村 信雄
日本原子力研究所先端基礎研究センター、〒319-11 茨城県那珂郡東海村
放射線(応用物理学会放射線分科会誌)、Vol.22, No.1, p.43 (1996).

参考資料1 Reference 1:
中性子ラジオグラフィ写真集
(社)日本非破壊検査協会編集
〒101 東京都千代田区神田佐久間河岸67(夏目第5ビル4階)
単行本 (1995)

参考資料2 Reference 2:
Application of a CR-System to Neutron Radiography
K.Okamoto et al.
Research Reactor Institute, Kyoto University, Kumatori-cho, Sennan-gun, Osaka 590-04
S. Fujine et al.(eds.), Neutron Radiography (3), p.461 (1990).

参考資料3 Reference 3:
中性子イメージングプレート
新村 信雄
日本原子力研究所、先端基礎研究センター、〒319-11 茨城県那珂郡東海村
原子力工業、Vol.41, No.6, p.54 (1995).

キーワード:中性子ラジオグラフィ、実時間中性子ラジオグラフィ、高速度撮像法、流体計測、中性子イメージングプレート、
neutron radiography, real-time neutron radiography, high-frame-rate imaging technique, flow measurement, imaging plate neutron detector
分類コード:040303

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