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作成: 1996/09/19 藤井 正司

データ番号   :040043
放射線利用非破壊検査の動向
目的      :放射線を利用し、物体の非破壊検査、物性・構造解析を行う
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :X線発生装置(0.1ー0.45Mev)、ラジオアイソトープ(60Co)、シンクロトロン放射光
応用分野    :非破壊検査、物性・構造解析

概要      :
 放射線の画像化技術は、二次元の透視画像と三次元的な画像を得るものに大別できる。透視画像を得るものではラインセンサを用いる手法が注目されている。
 放射線源はX線発生装置が主であるが、ラジオアイソトープやシンクロトロン放射光を利用する例もある。殆どの画像化技術はX線透過データを使用するが、物体から発生する後方散乱線を利用する空港の荷物検査や航空機の機体外部からの非破壊検査も実用になっている。

詳細説明    :
1.X線透視
 透視画像は、三次元の物体形状を二次元にデータ圧縮することに相当し、効率よく対象物の内部情報を得られる。エリアセンサとラインセンサを用いる方式に分類できる。
RTR(Real time radiography)はエリアセンサとしてX線II(X-ray image intensifier)を用い、X線像を可視光像に変換、増幅し、テレビカメラで撮像する。X線量子ノイズを整化するための画像積分と空間フィルタ、及び階調方向のウインドウ処理を行う画像処理装置を加えるものが主流である。DR(Digital radiography)はX線ラインセンサを用いて量子化されたディジタル信号で画像を表現する。図1にDRの構成を示す。X線ファンビーム中を物体が移動しながらラインセンサで定ピッチのライン状データを連続して得ることにより、エリアイメージを得る。インライン検査に適したシステムが構築できる。


図1 DR、CTのジオメトリとシステム構成(原論文2より引用)

 X線が物体に入射したときに発生するコンプトン散乱X線を検出し、画像化するBSI(Back-scatter imaging)も実用になっている。散乱X線の発生点を特定することで断面画像を得ることもできる。低原子番号の物体の検出に適し、片側からの透視ができる特長を生かしてセキュリティ用や、航空器の機体外部からの非破壊検査に使われている。

2.CT(Computer Tomography)
 図1で物体とX線源/X線ラインセンサを相対的に回転させるか、トランスレート/ローテート動作するとCTの投影データを撮ることができる。得られた断面画像はコントラスト分解能と幾何精度の点で他のどの手法よりも優れている。
 1990年台のはじめにはRTRにCTの機能を加えたものが開発された。回転平面に平行な位置の映像信号を用いて画像再構成処理を行う。X線透視画像と断面画像の両方を得ることが特徴であり、マイクロフォーカスX線源を使い、電子部品や小形のファインセラミックスの検査に応用されている。
 異なるX線エネルギの断面画像間で演算するか、物質の吸収端を挟むエネルギのデータで特定の物質の分布画像を得ることができる。また、物体から発生するコンプトン散乱X線を投影データとして画像再構成を行うCTも提案されている。コンプトン散乱強度が物体の電子密度に比例することから、欠陥や物質の変化に対するコントラストが大きくとれる特徴がある。2次元の放射線センサを用いて、1回のデータ収集で3次元の断面画像を得る試みもされている。

3.シンクロトロン放射光の非破壊検査への応用
 図2に、シンクロトロン放射光の実験技術と応用分野を示す。強い指向性、高い放射強度、広い帯域を生かした応用が模索されている。医療診断の分野では冠状動脈造影法が注目され、産業用では材料評価や微細加工への応用、X線回折、X線光音響法、X線CTなどへの応用が報告されている。


図2 シンクロトロン放射光の実験技術と応用分野(原論文3より引用)

 X線回折では物体へのX線進入深さを変化させ、深さ方向の加工歪みの評価を試みた。X線光音響法では、X線が物体内で熱に変化したとき物体を封入したセル中の気圧変化を検出することで、光音響法を可能とする報告がされている。CTではモノクロメータで単色X線を得て、特定物質の分布を得るものや、非対称反射のブラッグ回折を利用した拡大投影データを用いる高分解能CTが可能である。

4.DT(Digital Tomography)
 異なる方向から多数の透視画像を撮って、所望の断層面のデータが同一の位置に加算されるように画像加算を行うと、ピント面の断面画像が得られる。CTの画像にはおよばないが、物体の限定した角度方向の投影データで断面画像を得るため、CTが苦手とする板状物体の断面像を撮れる利点がある。ラミノグラフィ(Laminography)とも呼ばれ、電子部品の表面実装接合部の欠陥検査に応用されている。図3にDTの原理図を示す。


図3 DTの原理図(原論文2より引用)



コメント    :
 RTRは成熟技術であるが、DRはこれから産業用として普及が期待されている。インライン検査に適した手法であり、検査対象物に応じ、検査性能、検査速度などの点で柔軟性のあるシステムが構築可能である。
 CTは産業用として人体用を上回る応用範囲を持つものであり、様々な応用研究や実用システムの開発が行われている。既に自動車分野を主体として導入が進んでいるが、開発、試作用ツールから脱皮し、品質管理用として普及し始めた。
 シンクロトロン放射光の非破壊検査への応用は新しい可能性を示すものであり、物質の分布、サブミクロンオーダの空間分解能の可能性など注目すべき点が多く、研究の進展を期待するものである。

原論文1 Data source 1:
工業用放射線利用トモグラフィの最新動向
後藤 哲夫
株式会社東芝 原子力技術研究所
Isotope News, p.16-18、1993年8月

原論文2 Data source 2:
X線イメージング技術の動向
藤井 正司
株式会社東芝 府中工場
(現在は東芝FAシステムエンジニアリング株式会社勤務)
非破壊検査, 第44巻、第5号, p.325-330、1995年5月

原論文3 Data source 3:
シンクロトロン放射光の非破壊検査への応用
林 一雄
新日本製鐵株式会社
溶接学会誌, 第64巻、第2号, p.36-39、1995年

キーワード:英語は半角で)
X線、γ線、シンクロトロン放射光、コンプトン散乱、断層撮影、透視、散乱線映像法、X線回折
X-ray、γ-ray、Synchrotron Radiation、Compton Scattering、Tomography、Radioscopy、Back-scatter Imaging,X-ray Diffraction
分類コード:040105,040303,040304

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