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作成: 1996/09/05 宇山 喜一郎

データ番号   :040042
産業用透過型X線CTの動向
目的      :非破壊で断面像を得ることにより物体を検査する
放射線の種別  :エックス線
放射線源    :X線管(40kV,10-15mA)、X線管(150kV,160kV,225kV,320kV,400kV)、線形電子加速器(12MV)
照射条件    :空気中、室温
応用分野    :素材、電子部品、複合材、自動車、航空・宇宙

概要      :
 8keV/17keVのKα特性X線を用いてマイクロCTを作成し、最小10μmの空間分解能の木材片の断面像を得た。TOSCANER-20000シリーズは150-400kVのX線管を用いた産業用CTで、自動車部品の開発ツールとして多く用いられている。鉄80mm、アルミ250mmまで透過できる。ロケットなどの大型物体用として12MVの線形電子加速器を用いたX線CTが作製され、直径150/300mmの鉄材中の0.8/3.2mmの空孔が分離して撮影されている。

詳細説明    :
1. マイクロX線CT
 粉末X線回折計を利用して、トランスレート・ローテート(TR)方式の透過型CTを作製した。X線管は、MoターゲットとCuターゲットの2種で管電圧40kV、管電流10-15mAである。Mo、Cu、各X線管にはそれぞれZr-55μm、Ni-115μmのフィルターがつけられ、主としてKα特性X線、それぞれ17.445keV、8.028keVが放出される。それぞれ木材で20mm、5mm程度まで透過する。
 コリメータは3種、鉛板にφ300/150μmの穴、プラチナ板にφ100/50mmの穴、あるいは10×10μmまで可能な可変幅のタンタルエッジ、を選択して使用する。検出器は1チャンネルのNaI(Tl)シンチレータに光電子増倍管を付け、フォトンカウント方式で測定する。空間分解能10μmを得ようとするとき、9時間近いデータ収集時間を要する。(255T点×120R点×1秒)
 投影データは、Azevedo et al.(1)の方法で回転中心が補正され、フィルタ補正逆投影法で255×255画素で再構成された。フィルタはRam-Lak、Shepp-Logan、Hamming の3種が選択できる。
 断面形状14×14mm、5×5mm、2×2mmの木片の画像を得た。エネルギーはそれぞれ17.445keV、8.028keV、8.028keV、コリメータはそれぞれ150μm、50μm、20μmを用いた。それぞれ年輪がよく見え、20μmでは年輪の中の微細構造が分解されている。
 図1に最大断面サイズ0.9mmの木片の公称分解能10μmの画像を示す。エネルギーは8.028keV、コリメータは10μm幅でスライス厚約100μmである。tracheids(TR)、resin canal(RC)、epithelial cells(EC) 等の微細構造がはっきり見える。


図1 Reconstructed image of a specimen of wood obtained at 8.028keV using rectangular collimators of nominal dimensions 10μm×100μm. At this resolution individual tracheids(TR) and a resin canal(RC), about 80μm in diameter, can be clearly seen. The resin canal is surrounded by vessicular tracheids and epithelial cell tissue(EC) within the canal are just discernible.(原論文1より引用。 Reproduced from Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., B72 (1992) 261-270, P.Wells, J.R.Davis, B.Suendermann, P.A.Shadbolt, N.Benci, J.A.Grant, D.R.Davies and M.J.Morgan, Figure 8 (Data source 1, pp.269), Copyright (1992), with permission from Elsevier Science NL, Amsterdam, The Netherlands.)


2. 産業用X線CT
 代表的な産業用CTであるTOSCANER-20000シリーズはTR方式の透過型CTで150kV、160kV、225kV、320kV、400kVのX線管を選択できる。400kVタイプはφ300/600mmのスキャンエリアを切換えて使用し、鉄80mm、アルミ250mmの透過能力を持つ。スキャン時間は2.3分/5分切換えで最大1024×1024画素の画像を得る。φ100mmアルミ円柱の中のφ0.4mmドリルホール、φ60mm鉄円柱の中のφ0.4mmドリルホールが検出できる。
 このCTは自動車のアルミニウムや鉄の鋳物、タイヤの研究・開発、および生産準備段階のツールとして多く用いられている。鋳物中のボイド、クラックや鋳物砂,中子の残り、酸化物の巻き込みなどが検出可能である。
 図2に400kV(2mA)タイプで撮影した化学プラントのパイプの例を示す。鉄パイプの内壁に耐薬品性に優れたアルミナを設けた複合材である。鉄とアルミナの界面の接合状態を検査することが目的で、剥離が黒く表現されている。


図2 鉄パイプの内側にアルミナを張り付けた耐腐食性配管。剥離やアルミナの欠けが検出されている。(右上に縮尺が示されている。単位mm)(原論文2より引用)

 欠陥検出の他に、密度変化や寸法の測定にも使用でき、CADデータとの照合にも応用されようとしている。

3. 加速器X線CT
 1MeV以上のX線を用いたCTは今までにロケットの固体燃料検査用として米国が開発してきた。ここでは12MeVの線形電子加速器を用いた平均、数MeVのX線を線源とするTR方式の透過型CTが作製された。
 検出系はCdWO4シンチレータとフォトダイオードを組合せた多チャンネル検出器で16ビットのAD変換を行う。電磁遮蔽とフィルタで80-90dBのSN比を確保した。再構成はフィルタ補正逆投影法を用い、1024×1024画素の断面像を約5分で計算する。X線ビームは検出器直前におかれたポストコリメータで絞られ分解能が上げられる。しかし分解能を上げるほどX線のフォトン数が減りSN比は低下する。
 ポストコリメータ幅0.3mm、検出器15チャンネル、撮影時間10分、で直径150mmと300mmの鉄製テストピースを撮影した。それぞれφ0.8mm以上、φ3.2mm以上の空孔が分離して撮影できている。直径150mmの鉄の画像を図3に示す。


図3 鉄テストピース(直径150mm)の断層像(原論文3より引用)

 また、直径600mmのコンクリート中の人工クラックや、鋼のシリンダをつけたアルミ製の自動車エンジンの断面像が得られている。

コメント    :
 上記のマイクロX線CTは分解能向上をねらった試作機で、上記の産業用X線CT、加速器X線CTは産業分野で実用されているタイプである。
 透過型X線CTとしてはこのほかにX線透視検査装置に回転テーブルを設けたX線テレビCT(仮称)が電子部品や新素材の研究用として使用されているほか、種々のタイプの試作、実験が行われている。

原論文1 Data source 1:
A simple transmission X-ray microtomography instrument
P.Wells, J.R.Davis, B.Suendermann, P.A.Shadbolt, N.Benci, J.A.Grant, D.R.Davies and M.J.Morgan
Department of Physics, Monash University, P.O.Box 197, Caulfield East, Victoria 3145, Australia
Nucl. Instr. Meth. Phys. Res., B72, 261-270 (1992).

原論文2 Data source 2:
産業用X線CTの動向
藤井 正司、宇山 喜一郎
(株)東芝 府中工場(府中市東芝町1)
非破壊検査, 第43巻 第5号 平成6年5月

原論文3 Data source 3:
高エネルギーX線CTとその応用
出海 滋
(株)日立製作所 
日本原子力学会誌, Vol.33, No.7 (1991).

キーワード:X線CT、マイクロトモグラフィー、非破壊検査
X-ray CT, microtomography, nondestructive testing
分類コード:040304

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