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作成: 1996/09/12 白川 芳幸

データ番号   :040038
ガンマ線厚さ計・エックス線厚さ計
目的      :放射線厚さ計による鋼鈑・鋼管寸法精度向上
放射線の種別  :エックス線,ガンマ線
放射線源    :Am-241(60keV), Cs-137(662keV), X線発生器(60-140kV)
線量(率)   :11.1GBq-1.11TBq
利用施設名   :鉄鋼業の厚板圧延機,熱間圧延機,冷間圧延機,シームレス管圧延機
照射条件    :熱間(800-1000度,装置本体は冷却),冷間(常温)
応用分野    :厚板厚さ計測制御,薄板厚さ計測制御,鋼管肉厚計測制御

概要      :
 鉄鋼業においては厚板,薄板,鋼管の厚さなどの寸法精度向上のために種々の計測制御技術の導入,あるいは開発が行われている.厚板では,圧延機出側直近にガンマ線厚さ計が設置され板厚偏差を減少させる種々のAGC機能が導入されている.薄板では圧延機出側およびスタンド間にX線厚さ計, 圧延機出側にX線クラウン計や幅計,平坦度計などのセンサーが設置され寸法精度が向上してきている.鋼管では小径シームレス鋼管の肉厚のプロフィールを測定するガンマ線肉厚計が開発された.

詳細説明    :
1.厚板の寸法精度向上
 構造物の軽量化,切削加工などの作業性向上,目違いによる溶接欠陥防止などを目的に厚板寸法精度の向上が望まれている.従来から,圧延機出側12.9mに厚さ計が設置されているが,圧延機との距離が遠くリバース圧延において圧延材が短い圧延初期には厚板が計測できないため高度な板厚制御には限界があった.そこで圧延機出側2.1mの直近に新たに厚さ計を増設した.図1に示すように線源部は搬送ローラの下部に固定され,鋼鈑を透過したガンマ線を直上位置で検出する.検出器はスウィングブームに収納され,メンテナンス時はオフライン位置に旋回待避できる.


図1 厚さ計の配置と外形(原論文1より引用)

主たる仕様は線源がCs-137,検出器にはシンチレータ,測定板厚は4-99.9mm,測定精度は±35μmである.計測の際には,板厚は統計ノイズ対策のため移動平均して出力される.ガンマ線の透過量は材質,密度などによって変動するが,鋼種と温度によって補正される.さらに鋼鈑に乗った圧延機冷却水などはパージする.自己診断機能と板厚校正機能を内蔵し保守性を向上させた.本厚さ計を使用してFAST AGC(ロールギャップをステップ的に可変),フィードバックAGC,フィードフォワードAGCを組み合わせ,同時に圧延モデル式の高精度化も図った.その結果,厚板の歩留まりを0.5%向上させることができた.

2.薄板の寸法精度向上
 薄板の製造工程は,連続鋳造で製造されたスラブを熱間圧延機に送り圧延し,まず熱間コイルを得る.つぎに酸洗し冷間圧延機で圧延した後,焼鈍して最後に調質圧延して冷間コイルが完成する.最近これらの工程の連続化,圧延機本体の進歩,駆動電動機の交流化による高速応答の達成,オートメーション技術による運転のシステム化などの流れの中で圧延寸法計測技術,圧延寸法制御技術も発展している.寸法計測において厚さ計をみると,Am-241を使用した厚さ計は低速ラインに,Cs-137による厚さ計は板厚が厚く,速度が遅いラインに適用されている.一方,X 線はエネルギーを制御することで測定範囲を可変でき,線量がガンマ線に比べて桁違いに多いため統計ゆらぎが小さく高速応答が実現できる.熱間,冷間圧延のような高速ラインに適している.従来は圧延機の出側に設置されていたが,最近では圧延機のスタンド間への増設の要求が多くなった.さらに幅方向の板厚分布も重要で,とくに板幅方向のエッジ部の測定のためにクラウン計が開発された.これは扇状のX線ビームを鋼鈑に当て,透過X線を多チャンネル検出器で受けるものである.図2に構造を示す.


図2 Edge drop meter (Crown meter).(原論文2より引用)

 上記に加、え幅計,コイル先端部・後端部形状計,平坦度計が設置され一連の寸法計測が行われている.これらの情報は即座に計算機に伝送され前述の板厚制御,幅制御,張力制御に代表される寸法制御がなされている.

3.鋼管の寸法精度向上
 シームレス管の用途の多様化と共に寸法精度の向上が要求されてきた.シームレス管は圧延機で外形を順次絞りながら所定の寸法に仕上げられる.ところが管の先端と後端は絞るための張力が制御しにくい.その結果,肉厚が厚くなる傾向がみられる.そこで肉厚の測定が望まれ中径鋼管(16インチ)用にマルチビーム方式(3線源)が開発された.一方では小径鋼管(7インチ)においても同様な開発が求められパラレルビーム方式が開発され,オンライン化された.この測定方式を図3に示す.


図3 Measuring principle of thickness(原論文3より引用)

図中の(a)は集中系でビーム内では肉厚は一定であるが,(b)の分布系ではビーム内でガンマ線の透過厚さが変化し透過してくるガンマ線の量も変わる.この関係を外径(2r)と肉厚(t)の関数として表現し,検出されたガンマ線の総量を入力しtを計算する.設計のポイントは外径に応じて線源の長さを拡大縮小したこと,検出器の配置をラインに対して垂直にしたこと,関数計算の際に鋼管断面の端の部分では計算メッシュを細密化した点,および統計ノイズ対策としてKalman filterを適用したことである.

コメント    :
 圧延の課題は板厚に代表される寸法精度を高精度化することにある.需要家の多様な要求によって益々精度向上が重要になってきている.従来は鋼鈑の中心部の厚さを計測制御することが主要な目的であり,幅方向のプロフィールを制御することは要求はあっても難しいテーマであった.ところが圧延機本体の改良,直流モータから交流モータへの転換による制御の高速応答の実現,圧延制御モデルの改良,システム化などの技術の進歩に加え計測技術も種々の開発が推進された結果,現在のように寸法精度向上が達成された.今後とも注目すべき技術領域である.
 鋼管関係は目新しい技術は少なかったが,高級品種であるシームレス管用に肉厚計が登場した.放射性同位元素を用いたパラレルビームの計測応用は珍しく,設計方法も独創的である.

原論文1 Data source 1:
鹿島厚板仕上げミル直近ガンマ線厚み計による寸法精度向上
平田 豊、鈴木 和裕、和田 凡平、上田 一郎星 俊弘
住友金属(株) 設備技センタ
住友金属,Vol.47, No.1 (1995)

原論文2 Data source 2:
薄板圧延寸法精度向上における計測制御技術
安部 可治、深沢 千秋
(株)東芝 重電技術研究所
鉄と鋼, Vol.79, No.3 (1992)

原論文3 Data source 3:
小径シームレス熱間肉厚計の開発
奥村 精、紺屋 範雄、岡 弘,粕屋 利昭
川崎製鉄(株) 知多製造所
川崎製鉄技報, Vol.22, No.4 (1990)

キーワード:ガンマ線,エックス線,厚さ計,フィードバック制御,フィードフォワード制御,AGC,
gamma ray, X ray, thickness gauge, feedback control, feedforward control, automatic gap control
分類コード:040305

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